04
「そんなの知らない………だって、あたしは“加護優”だ」
イザヤの碧眼が細められる。
「あたしは………少なくともあたしはそんなの知らない…。人間がどうだとか──人間であるあたしの視点から答えたって、それは本当の答えじゃない」
「その答えを導き出すべく、あなたは人に紛れて暮らしているのではないのですか?」
「──知らないよ!あたしは今までずっと人として暮らしてきた!急にそんな事言われたって、全部が全部分かるわけない!だってあたしは──!」
「女神ではない、と…?」
イザヤの声色が変わり、優は反射的に顔を上げた。
「違う!あ…いや、違わない……けど、でもあたしは!あたし…っ──」
だがイザヤの強い瞳を前に、優の声は急速に萎んだ。
「………そうですか…」
やがて、溜め息と共に呟かれたイザヤの声が、広くはないこの空間に呑み込まれた。
「イザ───」
「──どうやら、まだ完璧に覚醒していないようですね」
言い放たれた声は剣呑の響きを孕んでいた。
そして、あっと思った時には視界が反転していて、気付いた時優は天井を仰ぐ形となっていた。
「イザヤ!?」
この細腕のどこにそんな力が潜んでいるのか。
両腕はイザヤの片手によって頭上に一纏めに固定されており、びくともしない。
自分を見下ろして冷たく微笑んでいるイザヤと視線がかち合う。
ぞくりと背筋が粟立った。
「安心して下さい、乱暴は致しません。長い時の間で……女神としての意識が薄れてしまっているようですね」
至極優しい仕草で頬を撫でられる。
イザヤの微笑みは消えない。
体の芯から恐怖に侵されていき、優は必死にもがいたが腕はびくともしなかった。
「………っイザヤ、離して!!」
「女神」
凛とした声で呼ばれ、優の動きがぴたりと止まった。
視線が絡み合う。
深い深い蒼の瞳がじっと見下ろし、優は吸い込まれるようにその瞳から視線を逸らせなかった。
「お願いです、思い出して下さい」
どくん。
優の心臓が再び大きく脈打つ。
「あの時、あなたは仰った。いつか必ず……我らが穏やかに暮らせる世界になる、安寧の土地を取り戻すと。私は嬉しかった…あなたはこんなにも我々の事を想って下さっている…」
ゆっくりと腕が解放され、そしてそっと抱き締められた。
優はイザヤの肩越しに見える石造りの天井を仰いだままだったが、景色がその瞳に映る事はなかった。
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