05
「だから私はあなたに応えようとした。女神、たった一言『人類を消せ』と仰って下さい。あなたがそう望めば、我々は全身全霊をかけてあなたの命令を遂行する」
「──…い………嫌だ…」
優は首を振る。
「何故です?」
「だって!そんなの決める権利あたしにはない!」
「あります。あなたは女神だから」
イザヤの体がゆっくりと離される。
彼の碧眼は迷いなど微塵もない。
「あなたはこの世界を左右出来る。女神にだけに与えられた特別な力です」
「もっと分かりやすく説明してよ!女神って一体なんなの!?」
「そのままですよ」
間髪入れずイザヤは答える。
「あなたはこの世界の創造神。この大地も、この空間も、この惑星もあなたの創り出したもの。創造神──“奇跡の紅”の魂は世界そのもの。永久に廻り続ける御霊はこの世で最も崇高なもの。世界は女神と共に在り、女神は世界と共に在る。女神の御霊がこの世より潰える時、それは世界の終焉を意味する」
物語を語るようにイザヤは告げた。
「御霊が潰える瞬間は、我々の所業が成された時。成されなければ、女神の魂は永遠に転生を繰り返し、輪廻の輪に捕らわれ、生の鎖より解き放たれる事はない」
困惑している優にイザヤは柔らかく微笑んだ。
「女神。さあご命令を。私の指導者はあの時からあなただけです」
「………っ嫌だ、あたし…絶対そんなの望まない…!」
「女神…──」
「──嫌だ、離れろ!!」
優の怒号が天井に吸い込まれ、奇妙な沈黙が二人を支配する。
優は荒い息をつきながら、イザヤの動向を静かに探っていた。
「………何故、そこまで拒絶するのです?」
やがて、穏やかな声でイザヤはそう尋ねてきた。
「人はそこまでして愛するべき生物でしたか?」
「あたしは知ってる!人はみんながみんなあんたが思ってる程酷い生き物じゃない!消す必要なんて無い!」
「ただ、それが出来るのは我々だけだ」
イザヤの声色は変わらない。
だが、それと同じく優の意志も変わらなかった。
「あたしはそんな事望んでない!──イザヤ、今すぐ離して!あたし帰る!」
だが、イザヤの腕から力が抜ける事はなかった。
「イザ──!」
「──女神」
凛とイザヤの声が優を遮る。
「ならば、その考えを変えてさしあげましょう」
えっ、と思ったのも束の間。
目の前で金糸の髪がふわりと揺れたかと思うと、軽く頬に口付けられた。
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