04
「失礼。驚かせてしまいましたね、優」
「な……なんで、あたしの名前…」
「シンから伺いました。改めて初めまして。イザヤと申します、以後お見知り置きを」
跪き、イザヤは優の手を取ると、その甲に軽く口付けた。
そういう慣習のない優は顔を赤くし、引っ手繰るようにイザヤの手から逃れた。
「な、なにするの…!」
「挨拶です。ああ、ジャパンにはこういう慣習は無いんでしたよね。気を悪くしたのならすみません」
立ち上がったイザヤは深く頭を垂れた。
「お兄さんも異端審問官アルか?」
「ええ。シンと同様、預言者クレールのもとでその任についています」
「なんだかお兄さんシンに似てるネ。兄弟アルか?」
純粋な疑問をぶつけてきたメイファにイザヤは笑った。
「よく言われますけど兄弟ではありませんね、残念ながら」
「分かった、そっくりさんネ!世界には自分にそっくりな人間が最低でも3人はいるって聞いた事があるヨ!」
「ははっ。面白い子だ」
笑ったイザヤの視線が、自分に移されるのを優は感じた。
「何の本を読まれていたのです?」
「……暇だから適当に取ったやつ。その中の『奇跡の紅』の章」
すっかり警戒している優だがイザヤは意に介した風もなく、優に断りを得て彼女の手から本を取った。
「………『奇跡の紅』ですか」
「あなた達の女神なんでしょう?」
「ええ。──不思議に思いませんでしたか?」
「何を?」
イザヤはページを捲っていた指を止めた。
「彼女は女神だ。私達と共に在り、共に生き、共に戦い、まさに希望の光だった。この世界を創造し、世界を愛した彼女に、けれど世界はあまりに残酷だった。どうして殺されなければならなかった?どうして異端と称せられなければならなかった?大地を世界を人間を愛し、護り、助け、赦したのに。どれだけ蔑まれようとも、どれだけ拒まれようとも、彼女は世界を愛してやまなかった。罪に穢れた人間を愛する事をやめなかった。私には理解出来ない」
「………」
真っ直ぐに瞳を見つめ、語りかけてくるイザヤの様子に優は何も返せなかった。
何故か、自分自身に向けて言われているような気がした。
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