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10(終)



「今来たんやでー。鍛錬を兼ねての散歩中やったんやけど、ちょうど二人に気付いてなぁ」


そう言って体を反転させ、アダムは何も無い空を蹴って降りてきた。


「なんやお取り込み中みたいやったけどもうええの?」

「逃げられてしまいましたからね」

「あー畜生!あいつら超ムカつく!」

「──あっ!もしかして女神様なん!?」


目を輝かせたアダムにイザヤは微笑んで頷いた。


「ええ」

「ホンマ!?すっげー俺まだ見た事ないねん!もうちょっとはよ来とったら会えたんやろなぁ、ちえっ」


唇を尖らすアダムを見ながら、イザヤは微笑みを深めた。


「追い掛けてもいいですよ」

「ホンマ!?」

「はあ?ちょっとちょっと、イザヤー?」


目を輝かせているアダムとは対に露骨に眉を顰めるルカ。
対照的な反応の二人を前にイザヤは頷いた。


「あの旅客船に乗っています。アダム。あなたの神器なら容易い事でしょう?」

「せやな!じゃあ、行ってくる!」

「ちょっ…待ってよ、アダム!」


一気に大地を蹴り上げようとしたアダムを、慌ててルカが制す。振り返ったアダムの瞳を見つめながらルカは諭すように告げた。


「いい?あんた、まだ覚醒して間もないんだからあんま暴走しちゃ駄目だかんね」

「わーってるって!ほな、行ってくるな!」


楽しそうに言い残し、アダムは海面の上に身を躍らせ、そして一陣の風と共に水平線の彼方へと飛び去っていった。


「…さて。我々も今後の作戦を練りましょうか」

「あーあ、つまんないの。あたしも一緒に行きたかったなー。あのおっさん、ぶっ殺せそうだったのに」

「ご安心を。アダムでは恐らく仕留められない。まだ好機はあります」

「…はっ?」


ぴたりと足を止め、ルカは前を歩くイザヤの背中を見た。


「…ちょっとなになに?あんた、分かっててアダム差し向けたってぇの?」

「ええ」


さも当然のように答えたイザヤに、ルカは見えないのをいい事に不快気に目を眇めさせた。


「ちょうどいい機会だ。アダムは始祖としての意識が薄い。女神と会う事でそれが少しでも強まれば、それだけでも差し向けた意味がある」

「…はっ、イザヤ超性格悪ー」


嘲笑を浮かべ、ルカは手を頭の後ろで組んだ。


「ってかさ、意識が薄いのも仕方無くない?だってあいつ最近覚醒したばっかじゃん」

「時間は関係ありませんよ。始祖の意識が薄いのは恐らく精神と肉体の間で歪みが発生しているからです」

「……何かよく分かんないんだけど」

「ルカが気にする必要ありません。あなたは今はもうルカなのだから」

「変な言い方しないで」


その強い声に振り返ったイザヤは、彼女の瞳に宿る意志の光を見た。


「“今はもう”じゃない。あたしはルカ。生まれた瞬間から、あたしの名前はルカだよ。…変な言い方しないで」


そう言って、ぎゅっと己の腕に爪を立てたルカの強張った表情に、イザヤは微笑みを深めた。


「…──そうですね」


それっきり、イザヤは何も言わずに踵を返した。





to be continued...

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あきゅろす。
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