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アレルヤ(ハレルヤ)で20のお題
07/おとぎ話/水無月
人は何故死後の世界を夢見るのだろう?
『死』への恐怖を断ち切るため?
『死』の先には『幸福』が待っていると己を無理矢理納得させる事で人は一体何から逃れ、一体何を得ようとしているのか?



『おとぎ話』



真っ白な雪が降り積もる東京の街中をアレルヤと刹那はゆっくりと歩いていた。

――いと高き天より我らは聞きたり
天使達の甘美な歌が野辺に満ちるのを
山々は歌声に変え
喜びに満ちし旋律が木霊せり
いと高き処の神に栄光あれ――

2人の耳には神聖なる賛美歌が何処かから流れ込んでくる。

今の自分達には最も似つかわしくない行事の1つはまず間違いなくコレだろう。

長時間外にいたせいか、人込みではぐれるといけないからとアレルヤが半ば無理矢理握っていた刹那の手はかなり冷たくなっている。

手袋を持ってくるべきだった事を少し後悔しながらも、先程から聞こえてくる聖なる旋律の事にアレルヤは耳をすます。

(いと高き処・・)

人は常に高き処、至高の存在に憧れる生き物だ。

「天国か・・刹那は天国とか、地獄ってあると思うかい?」

「・・わからない。」

自分で聞いておきながらアレルヤは刹那の答えに思わず驚いてしまう。
神はいないと何時も言っているからてっきり『あるわけがない』と断言するかと思ったのに。

「死んだら死ぬだけかもしれないし、何か他にあるのかもしれない・・でも俺には関係ない。」

関係ないという割には何時もより良く喋っている。
そんな自分に気付いていないのだろうか?

「・・それは、死んだ後には興味が無いから?」

「ああ。」

毎回の任務で命が惜しくないのかと思わせるほどの暴挙に出る癖に刹那は常に誰よりも『生』に執着している。

まるで危険な場所で生き抜く事で何かを証明しようとしているかの様に。
そんな刹那の後姿をいつもアレルヤはただ見守る事しか出来ない。
そんな自分がひどく悔しかった。

「それに・・」

「?」

「天国などあったとしても俺たちには一番無縁なモノだ。」

そうだろう?と上目遣いでこちらを確認してくる刹那に思わずアレルヤは息を呑んでしまう。
確かに戦いに己の存在理由を見出し、数多の人間を屠ってきた自分達には最も相応しくないモノだろう。

だが、それでもまだ16歳の刹那の口からそんな言葉が発せられるのはあまりに悲しい気がしてついつい変な事を口走ってしまう。

「そうだね。でも選ばせてくれるかもしれないよ。」

「は?・・選ぶ?」

「うん、天国に行くか地獄に行くか、一人くらいは気まぐれに誰か選ぶ権利をくれるかも。」

それが誰かはあえて言わないけれど。

「・・。」

自分でもトンチンカンな事を言っている自覚はある。
しかし当の刹那にだんまりを決めこまれると更に凹んでしまう。

(ああハレルヤ、どうして僕はこうも・・)

「・・地獄だ。」

「・・え?」

予想外の刹那の発言に何時もの様に己の思考の海に溺れかけていたアレルヤは間の抜けた声を発してしまった。

「だから、例え選べたとしても俺は地獄を選ぶ、そう言った。」

どうやら刹那は呆れたのではなく真面目に自分の質問の答えを考えてくれたらしい事を察し、アレルヤは慌てて不機嫌になりつつある刹那を宥めにかかる。

「ああごめんよ刹那。えと・・選べるのに態々地獄を選ぶのかい?」

普通なら迷わず大多数が天国を選ぶだろうに。

「・・俺の知り合いは皆地獄行きだろうからな。」

CBのメンバーは当然の事、少年兵時代の仲間達も誰一人として天国には行けはしないだろう。
人間が神の名を利用しておこした偽りの聖戦に参戦し、戦いを選んだのだから。

そう考えると自分の周囲の人間は全員何かしらの罪を背負って生きているのかもしれない。
別にそれに居心地の悪さを感じたりはせず、逆に安心するくらいだ。
自分は一人では無いのだから。

「言われてみればそうかもしれないね。ロックオンは『つまらない』とか言って断りそうだし、ティエリアなんかは『情けなど不要だ』とか言いそうだよ。」

そう明るく言い放ち、刹那を少しでも和ませようと必死なこの男ですら、同じ罪人。

「アレルヤは?」

その事実が刹那をひどく安心させる。

「・・僕も地獄を選ぶかな。綺麗な場所は好きだけど、何だか苦しそうだし、それに、刹那や皆と一緒にいたいしね。」

刹那の問いに考える素振りをしてみても所詮は無駄な事。
アレルヤとて刹那と同じ答えに辿りついてしまう。

自分達はもう安穏とした世界では生きられないのかもしれない。
そんな世界を求めて戦っているのに、何とも皮肉なものだ。
キレイなモノが嫌いなわけでは決して無いけれど、安心できて頼りになるのは自分と同じ様に罪で汚れたお互いの手。

その手がずっと自分の側にあるのなら、ずっと触れていられるのなら、例え地獄に落ちたとしても自分は不幸では無い。
むしろ幸せだとアレルヤはそう思う。

「・・なんだか、凄く煩そうだ。」

「賑やかで良いじゃないか。もしそれが嫌になったらまた2人で抜け出せば良いよ。・・今みたいにね。」

今度の言葉には応えようとしない
刹那の手をアレルヤは改めてしっかりと握りなおし、寒空の下をゆっくりと歩く。

聖なる夜に穏やかな表情で歩を進める2人を誰が罪人だと思うだろうか?

その様子は酷く滑稽で、

そして

美しかった。


(僕たちは幸福な幻想に不安を覚え目を背ける、そして残酷な現実と唯一の温もりに安心する)


ああ、それはなんて――





END



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