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リコリス



仲間探しがひと段落ついたら、夏に北海道にでも行ってみようか。

適当な事を考えながら白江は街を歩いていた。

じりじりと日が照りつける京都の町は、攘夷志士のよりどころだ。



江戸の幕府の将軍、京都の都の天皇。

戦争勃発当初、日ノ本を手に入れようと天人軍はこの二つ柱を折ろうとした。

幕府は攘夷志士を率いて幕府軍を結成。

天皇がとった行動は、京都に向かって攻め込まれると同時のすぐさまの降伏。

応仁の乱以後、一部焼け野原のまんまだった京都。

その身の威光はあれど国の決定権を持たない天皇にとって、むやみに抵抗するよりはそれが京都やそこに住む人を守るには最善の策だったのだろう。



乱戦が起こるよりも前に降伏できたため、おかげで京都より西はほとんど荒らされずに残っている。

ただ問題なのは京都以外の自分達の土地をのさぼり歩く天人を嫌った貴族や村人が、天人が村に近づくたびに京都や近隣の村へ逃げこむことぐらいか。

とはいえ彼らがそれ以外の選択肢を選べば天人が近づくたびにリアルに血の雨が降るだろうから、おそらく現時点で一番良い事なのだが。

もちろんそんな事をすればまた京都に攻め込まれる口実を作らせてしまうと天皇が説き伏せているようだが。

とにかく京都を攻める理由がないので天人軍は江戸のほうにかかりっきりだ。

だから京都は無法地帯と化している。

天人も馬鹿ではないので京都に手出しをしようとはしない。



そんな背景がある場所をうろつく白江は、戦場近くを通ってきていたりしている。

焼け野原になった戦場は、人も天人も近寄りたくない場所なのだろう。

野党に気を付けてさえいれば、逆に旅人にとっては街道を歩くよりも安全なのだ。



「京都に近い戦場付近で白い髪の子供がいたというというけれど、なかなか見つからないものだな」



明日は都町を通ってみよう。

そう予定を立てながら宿を探しに白江は町へと入った。


−−−−


町に着いた頃には夕暮れ空になっていた。

宿の予約をして夕食まではそのあたりの店でも冷やかそうかと思っていたら、ちょっとしたものを見つけた。



「なに、迷子?」

「違うわ無礼者、名を訊ねるならば貴様のほうから名乗れぇっ」

「名前なんか訪ねてないよ見りゃ分かる」

「え?貫録でてるって?ほんと?」

「言ってないし服装でわかるってーの。どっかのお貴族様の子?あぶねーぞこんなところほっつき回ってちゃ」



ちなみにここがどこか?

戦場近くの川です。



「わしは遊びできたのではない!わしは、この国を守ろうとする志士を一目見たいだけじゃ!」

「ああもう、ヒーローを追っかけるならまだしも・・・・・・やめとけやめとけ、危ない目にあうぞ」

「なっ!なにをするか!は、はなせ無礼者!」

「強制送還ですー。もう烏も鳴いてるんだから帰んなきゃ、親御さんも心配するぞ」

「親など・・・・・・ッ!!あんな腑抜け、親などと思いたくない!」

「はあ?お早い反抗期かよお前。」



白江はずるずると子供の腕を引っ張り、とりあえずとってあった宿に放り込んだ。

子供の手は小さく、しかし力いっぱい抵抗するので結構痛い。

着ている服は地味ながらも質の良いものだし、靴を履きなれていない様子はお家っ子なのだろうと簡単に想像がつく。



「で?どうして家出なんかしたんだ、お前」

「・・・・・・」

「で?」

「・・・・・・戦場を見に行きたかったのだ」



あれこれ話しかけるうちに子供はぽつぽつ、と話し出した。


いわくこの子供の親はどこぞの偉い人らしく、攘夷志士に支援しているらしい。

そんな話を聞いていた子供は親を国を憂う人間としての役目を全うしようとしているのだと思っていた。

子供がすごす屋敷もいつも平和で、日ノ本は平和なのだと思っていた。

だが子供京都の町以外の場所、つまり戦場はそんなことは夢の話なのだとどこかで聞いたらしい。



「わしは父上に聞いて、初めて知ったのだ。京都はすでに降伏していたのだと」

「それでなんで京都は降伏なんかしたんだって喰ってかかって、突っぱねられたか」

「なぜわかるのだ!?ぬしはえすぱぁか!?」

「違う。そのくらい簡単に想像つくって事だよ。どーせそれで近くにある攘夷志士の戦ったっていう戦場を一度見てみたかったんだろ。」

「違う!そうじゃない、わしは・・・・・・ッ!」

「なに」


「わしは、現実を、事実をこの目で見たかったのじゃ!戦場で起こった事を知れなくとも、今の戦場を見れば、京都が降伏した・・・天皇陛下の判断が納得できるかもしれないと思ったのじゃ!」



そんなふうに意外と筋の通ったことを言うものだから。

ちょっとだけ白江は顔を上げた。



「ふーん」

「ふーんって・・・・・・もういい、わしは戦場を・・・・・・」

「今行ったところで真っ暗だぞ。こわいぞー」

「こ、怖くなんか・・・・・・ないないはず」

「怖いのはお化けじゃなくて盗賊とかだっての。お前みたいな見るからに良いもの身に着けた子供が行ったらすぐさま捕まって身ぐるみはがされて売られるか、それか家に脅迫状が届くぞ。子供を返してほしかったら大金よこせーってな」



相手は子供だが、これは言っておかなきゃならないだろうとじろっと睨む。



「それにだな。さっき俺とぶつかって荷物がひっくり返らなきゃ、その足で戦場を見に行ったんだろ?もしそんなことになって、相手が天人だったらどうするつもりだったんだ」

「そ、それは・・・・・・」

「その天人にお前が歯向かって、怒らせたら?天人はお前が貧乏人でも公家でも分からないし分かったとしても、関係なくお前を殺すぞ。」


「それがお前の親が知ったらどうなる?親はどうする?」

「怒る・・・と思う」

「そうだろうな。」


「親が怒るだけならまだマシだ。その話が攘夷志士に知れたら?そいつらは降伏した京都に住む子供を天人が殺したって聞いて、どうすると思う?」

「・・・・・・たぶん、怒る」

「まあ、そうだな。」


ただの敵討ちのために戦場に出るものはそういない。

だが場所が京都で被害者が京都の子供となればまた違ってくる。

降伏した人間を天人が殺したとなれば、攘夷志士は天人への理性を疑うようになるからだ。

政なんざ知らない彼らは天人との友好や従属を毛嫌いしているが、それでも武器を捨て降伏した相手や民草を殺しまではしないだろうとある意味天人を信じている。



「京都の人間であるお前がもし天人に殺されたら、攘夷志士はそれこそなりふり構わず戦争を悪化させるだろうな。天皇のご意思すら丸無視されちゃあ相手を話の通じる生き物とは思えない。こりゃあ人間の天人への認識を大きく変えてしまう。心の問題はそう簡単に塗り替えることも上塗りすることもできないぞ。

だからお前は今日の所は家に帰れ。戦場を見てみたいってのは一旦諦めろ。どうせこの戦争は数十年続くんだ。お前が大人になるのを待つぐらいの時間はある。一丁前に国を憂う前に勉強して大人になってそれから戦争の早期収束にでも力を尽くせ。寺子屋にでも通ってお前と同い年ぐらいの子供と話をしてみるのもいいかもしれない。

……そう不満そうな顔するな、じゃあこうしよう。俺は明日ここを去るが、1カ月ほどすればまたここを通る。それでその時、1カ月経ってお前がそれでも戦場が見たいっていうなら、俺がついて行ってやる。攘夷志士に会ってみたいなら、怪我で前線を退いた奴とかちょっとは知り合いがいるから紹介してやる。それで妥協しろ。」


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あきゅろす。
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