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リコリス
5:五年後の話


「白波さああああぁぁぁん!!」

「出てきてくださいいいいいぃぃぃぃ!!」

「一緒に行きましょうううぅぅぅ!!」

「集会所で全員待ってるんですよおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」



「にいにい、ねえ紙飛行機つくって」

「はいよ」



「お願いですからああああぁぁああぁぁぁぁ!」

「今日こそおおおぉおぉ」

「出席してくださいぃぃぃぃぃ!!」



「にいにい、あの人たちにいにいのことよんでるんじゃないの?」

「しらん」

「けんかしたの?」

「ちがう」

「じゃあどうして?」

「うるさいから嫌いなんだ」



人生五十年というのなら、この根続き人生もそろそろ後半だ。

そんなことを思いながら縁側に座る竹河白波はお茶をすすりつつ本を読んでいた。

隣に座るのは今年5歳になる近所の子。

そういえばこの子が生まれたのはあのクーデターの直前だったんだよなあ、とか考えてるとなにやらどたどたと家に上がり込んでくる足音が響く。



「白波さんってばああ!お願いだから集会所に来
てください!」

「弟に言ってくれ」

「この前あんたと入れ替わりに旅立っていったんだよ忘れたの!?」

「あれならそのうち忘れ物取りにここに戻ってくるから言ってるんだよ」

「えっ?」



「兄上ー!俺うっかりしてて路銀の半分家に置いてっちまってた!どこー!?」



「ほらな」

「白波さーん・・・・・・」



玄関から聞こえてきた間の抜けた声にがっくりする元烏羽軍を追い返すのも面倒なのでと白波は放っておくことにする。

代わりに子供にちょっと待っててくれと言い、とんぼ返りしてきた弟のもとへ足を進めれば日焼けしない肌が見えた。



この村では年に数回、長旅に出る人間が数人いる。



村を捨てて逃げて5年。

戦争勃発から5年。

攘夷志士たちがどうにか頑張って取り戻してくれたこの村に戻ってきて2年。


二年で全員が村に戻ってきたかと言うとそうでもなく、ほとんどが探しても行方不明だったり悲報が村に届く。

中には天人に誘拐されていった者もいるらしく、戦争以前の村を知る者としては憂鬱な日々だ。


現在は資源も撮り尽くされ、戦争の火矢の飛んでくる気配の無くなったこの地域は幕府からも忘れられている。

なのでこれは幸いと村連中はあちらへこちらへ動き回り村の復興に精を出していた。

資源が撮り尽くされたと言っても魚は今でも捕れる。

というか捕ろうと思うやつもいなかったらしく、三年間ほったらかしだったので増えに増え、わんさか捕れる。

このご時世、どこもかしかも食糧難であるのでちょっと問題ありの魚でも売れるのだ。


今ではそれを売りに戦場へ向かう途中などに、行方不明の村の住人たちを探す日々が続いている。

商売だけではなく、それらしい情報を掴んだときや場所が危険だったりするときは元烏羽軍の数人が組んでそこへ向かう。

もちろん白波はそこに参加しているし、つい最近その一人旅から戻ってきたところだ。

ちなみにこの旅をこっそりと昔の工場連中も支援してくれているのは内緒だ。



で、帰ってきたばかりでまた髪の色の薄い子供の情報が入った。

調べれば村から逃げる途中でちりじりになってしまった夫婦の子供であるらしく、夫婦の両方が子供はお互いの所で無事だと願いながら死んでしまっている。

つまりは子供は・・・・・・。

しかも情報提供者が目撃したというのは戦場近く。

前の村ではご近所さんだったのもあり、これはすぐに迎えに行かねばと白波は思った。

しかし旅から帰ってきたばかりなのだからと弟に止められ、3日ほど前に弟が元烏羽軍を2人ほど連れて旅立っていったのだ。

だがその路銀を弟は家に置き忘れていったのだ。



「まったくお前はいいかげんにそのそそっかしさをどうにかしないか」

「へへぇー兄上様のように年季の入った言い回しはできないもんで」

「その長旅帰りの老人のためにちょっとは落ち着け」



はあ、と小さく息を吐けば弟はばつの悪そうな顔をする。

そんな弟を見て、やっぱり向いていないんだよな、と思う。



何って旅だ。

この弟は村の餓鬼大将におあつらえ向きだが、一人旅など出来るものではないし何人かお目付け役がいても同じ結果になる。

兄としての心配もあるが、生まれてからずっとこの弟を見てきた人間としても不安がこびりついている。

素直な分思い込みで暴走することがあるのはクーデターの時に骨身にしみているし、性格的にも人に騙されやすい。

商人としてはともかく、初対面の人間ばかりを相手にしなくてはならない遠方への旅となれば確実に向いていないのだ。


だから、やっぱり。



「お前が忘れ物して旅立って2日。考えたんだが・・・・・・お前は村に腰を据えるべきだ。仲間を探しに行く旅には、私が行く」


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あきゅろす。
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