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リコリス



「この髪が恥?馬鹿を言うな、これは俺たちがどれだけこの村を愛したかの証だ。俺たちは色が変わるような事態になっても海に潜り、魚を捕って食べて、決してここを捨てずに村から離れなかった。その結果がこの髪の色だ。」

「この色は誰かに奪われて成ったんじゃない。天人、戦、飢饉に財政悪化、髪の色が変わってく、そんな恐怖とこの10年以上切った張ったして戦い続けたその証に、村も村の子供もここまで色を変えたんだ。恥じる必要なんかない、俺たちは逃げなかった。この村で生まれ育ち、また生まれた。これはその証。こんなになっても逃げなかった、俺たちの象徴だ」

「ほら見ろよ、この子は今年生まれた赤ん坊だ。三軒先からもきらきら輝いて良く見える、見事な銀色だ。この村の子供は皆きれいだ。海が好きで山が好きで、この村が大好きだ。」

「なあそうだろう?俺は知ってる。俺たちはこの村が好きだ。子供の時から海に飛び込んで魚食べて、漁する大人に憧れて、山のきのこも獣も大好きだ。なら俺たちの色だって好きになれるだろ?」



「村にやってきた他所もんだって、もう10年以上顔を合わせてんじゃないか。そいつらだってちょっとはここに愛着持ってるよ。俺は知ってる。ここの魚はうまいなあって、猫耳生やしたおっさんたちが酒飲みながらするめいか焼いてんだ。そのおっさんたちもどんどん白髪頭だぜ。目や毛皮の色が変わるぐらい、美味いもん食うのに障害にならないんだとよ。よそ様の考え方また違ってらあ。聞いてて笑っちまったよ」

「それに髪の色なんてもうすぐ国中の人間が自分から変え始める。俺たちは流行の最先端を突っ走ってんだ。古き良きものも大事だっていうなら、この髪に合わせた着物の一つでも作らせろ。」



「未熟者が言わせてもらうぞ?つかその前に言っておくがここは討論の場だ、いらんことがあるなら言葉で返せ、血の雨降らせようなんて思うなよ。」



「“この国の人間なら魂の輝きを誇れ。”そんなかんじの言葉があるだろ。じゃあ俺たちはもう一つこの証を誇ろうじゃないか。この村の人間ならこの色を誇れ、とかさ。簡単だ、この村愛してんならできるさ。俺はできたし弟もできた。ガキだからできるっていうなら大人にもできる方法を教えてやるよ、ほら耳を貸しな」



「――――。」



−−−−

五年ほど経過した。

結果的にはどうにかクーデターは食い止められたが、戦争の勢いは日々悪化する一方だった。



工場の天人たちはどうも武器の製造をするように通達があったが迷いに迷っている所らしい。

武器を作り始めれば収入は得られるが、そうなればこの村は日ノ本の敵となる。

天人にもいろいろといるらしく、幕府とドンパチしている天人たちの中にはこの村の工場の天人と敵対している星の連中もいるんだそうだ。

それで星の許可が下りないんだと。

まあその結果というかなんというか、工場は取り壊しになった。

どの時代でも面倒事が起こると企業はすたれる。

工場の天人たちは近々星へ帰るんだそうだ。



天人嫌いの村の連中からすれば万々歳なわけだが、そうも世の中うまくいかない。

この村は工場があったおかげで公害だのなんだのとモメはしたものの、反対に工場があったおかげで江戸近くに位置するこの村が天人軍の進軍を避けられていたのも事実だったという背景がある。

天人に守られているなど武士の恥だ!とかなんとか言う輩もいるのだが、正直なところ村の総意としては現状維持が望ましかったのだ。



だけどとうとう工場は無くなった。



で、どうなったか。

言ってしまうと俺たちは村を捨てて逃げた。




表現するなれば猫の消えた城に攻め込んだ鼠集団。

工場の天人たちとは違い、天人軍の連中は海から魚雷を放ち空からレーザー砲を撃ちめちゃくちゃをやった。

海の波打ちぎわには白い魚の死骸が山になり、木は燃え岩も割れて地面には穴ぼこが空き、俺たちの村はひどいという言葉よりもひどいことになった。



消えた猫もとい工場の天人連中は工場のカギを残していってくれた。

なぜかそのキーホルダーに書かれた名前が俺の名前なのは工場に何度かお邪魔させてもらったからなのか。

成り行きでそのカギの管理者が俺になったわけだが、早くもここで役に立った。



そして俺たちは工場で10日ほど籠城した。

どうにか天人軍がやってくる前に村人全員の避難が終わっていたのは幸いだった。

その後話し合いの結果、工場連中が置いて行ってくれた金(どう課金したのかは知らない)を分け合い、あてを探して地方へ逃げることになったわけである。



俺たちは地下道を通って、それぞれ旅立った。


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