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リコリス
四説


兄には数年前から気にかけている子供がいるらしい。

谷木紀一郎は、今は苗字が変わってしまったが特に気にせず家に上げてくれる実家にて、石も木も無い代わりに海が一望できる庭を眺めながら母の入れた茶を啜っていた。

季節は冬も近く、そのうち雪で長旅もできなくなるからと、兄はそのとある子供に会いに行っているらしい。



「母さ・・・母上。兄上はいつ頃戻る予定なんだ?」

「またあの人が勝手に連れて行っちゃったみたいだから、わからないわ」

「あの人って、あの先生か」

「ええ。まあ普通にしてても3日もすれば自分から出て行っちゃうし、いつもの事ね」

「そうか」



先生、とういのは兄が気にかけている子供を養っている男の事だ。

兄が仕事で白い髪をした子供を探しに行った時、既に良い人に拾われていて幸せそうにしていたから連れ帰るのは止めた、と言っていたがその良い人が彼なのだろう。

たしか子供も新しい名前を与えられていたと聞いたはずだ。白じゃなくて、銀色なんだとかも言っていた。



彼は兄とめっぽう話が合うらしく、頻繁にここを訪れては兄を萩という遠い場所まで連れて行ってしまうという。

良い傾向だ、と思う。

弟が兄に何を偉そうにと言われるような考えだったが、兄はそういった私事に時間を費やす事に積極的になるべきなのだ。

上司がちゃんと休まないと部下が休めない。

同様に兄が村のために全身全霊をかけて全国各地を走り回ってばっかりでは、弟である自分が仕事で有休をとりずらくなる。

こうして気兼ねなく実家に足を運べるようになったのもここ最近の話なのだ。



話をしたことは無いがその先生には感謝だ。

兄が仕事に関係ない書物を集めたり子供の服を貰って来たりお菓子を買ったりと、自分の好きに行動しはじめた。

土産になるものを自分から購入しに江戸に顔を出すこともたまにある。

そのまま俺みたいに茶屋で可愛い娘さんとでも出会ってさっさと身を固めやがれ弟不幸者のアホ兄貴。



「母上ー、お茶のおかわりくれ」

「はいはい」

「後さ、父上はいつ頃帰ってくる?母上と一緒に話をしたいんだが」

「話?」

「最近は江戸が物騒だから、幕臣が田舎に家族を引っ越させる事が多いんだ。俺もそうしようと思ってるから、嫁と孫2人を頼もうと」


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