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リコリス
002

数時間後。

目が覚めて飛び起きた銀時と、丁度その時に銀時の顔を覗きこんでいた学友がお互いの額を衝突させたというアクシデントはあったものの、とりあえず遅い朝食をとってから夜の事のあらましを聞き始めていた。



「松陽さんを幕府に連行すると言っていたんですね?その黒装束達は」

「ああ。暗くてよくわかんなかったけど、多分30人ぐらいはいた。そんで、海の方に向かっていったみてーだった」

「海、ということは・・・・・・船ですね。海上を走るならともかく、空飛ぶ船だとしたらもう江戸に到着しているはず・・・・・・」

「あ、そういえば火事の騒ぎで掻き消されていたけど、海の方で水鳥が騒ぎまくってたような」

「本当ですか小太郎君」

「はい!なんだか赤や白に点滅する流れ星も見えました」

「明らかに飛行船ですねそれ。」



だとしたら。



「しかも点滅してたってことは、この国の風情に合わせた提灯行灯の船じゃない100%天人製ってことじゃあ・・・・・・」

「速いんですか」

「ええ、超速いです。」



奈落や船がよっぽどのんびりしていない限りはもう既に松陽さんは江戸に連れていかれているだろう。

眉根を寄せながら白波は今後を考察する。

とりあえず松陽は牢屋に入れられたとしても、お裁きどうこうの場に引き出されるのはそれなりに後の話になるはずだ。

少なくともいきなり財産没収や処刑だの話にはならないことは知っていた。



「とにかく私はすぐに江戸へ戻る事にします。いろいろと準備しなくてはならない事がありますし・・・・・・」



それに、同時に捕えられた人間が多い場合、時たま一斉処刑という手段がとられる。

今回はそうなる可能性が高い。

普段でもたとえ死刑判決を受けた罪人だとしても順番待ちの時間は与えられるようになっている。

実際に一人一人裁判をしているのかは怪しいが、それでも毎日十三段が町の広場に構えられている訳ではない。



「長くお留守番してもらうことになるので、銀時君の生活は小太郎君たちの親御さんに私から頼んで起きます。まあ松陽さんのへそくりの場所ぐらい知っていますし、うちの村から派遣社員を呼んで家ぐらい建て直させますので安心してください」



そんな冗談を交えながら、考えを整理する。

今現在行われている寛政の大獄も、かなりの人数がお裁きの場に引っ張り出されているという話だ。

その時点ですべてを死刑にできるはずもないし、判決によっては解放させたり捕えておく場所を移動させる必要のある罪人もいるだろう。

そうなった場合はなにがなんでも無罪を勝ち取ってやれば良い話だ。

最悪の場合には幽閉や処刑を言い渡される可能性もあるが、今の情勢を考えれば脱獄もそこまで難しくは無かったりするのだ。

一斉処刑を行う場合も日取りを選ぶものだから、時間はそれなりにあるし、実の所、幕府直轄の牢獄ならばともかく、そこらへんのお役所ならば金を渡せば逃走はどうとでもなったりする。



よし、大丈夫。



「大丈夫です。松陽さんは取り戻します」

「・・・・・・白波さん」

「ちょっと待っててくださいね、銀時君」



必ず帰ってきますから。

白波は、そう言って笑った。


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