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リコリス
001


早い内の対処が幸いし、小一時間もすれば燃えていた炎も消し止められて騒ぎも収まっていた。

煙は残っているが一日経てば無くなるだろう。



「お疲れ様です・・・・・・皆さん」

「はい・・・・・・」

「ああ・・・疲れた」

「とりあえず、ここは引き受けておきますのでどうぞ家へ戻ってください。お疲れ様でした」



火元へ水をかけるついでに部屋の中の書物や家財道具を運び出したのでへとへとになった大人達はそれぞれの家へと帰って行った。

まだ明け方なのでこれから朝食にするんだろう。



「生徒の皆さんもお疲れ様です。よくいきなりバケツリレーなんてできましたね」

「それは先生が前に防災訓練とかの実習を・・・・・・」

「まさか私が言ってたこと授業でやってたの・・・・・・まあ結果オーライだし良いか・・・・・・」



「あの・・・道場の中に入っても大丈夫ですか」

「いえ、あそこは火元になっていたのでまだ煙が出ていて危ないので時間が経ってからにしておいてください、いきなり崩れる可能性もあるので」

「じゃあ名札だけでも外しに行けませんか?燃えてしまったかもしれないけど・・・・・・」

「皆さんの名札でしたら回収しておいたので無事です。すでに火が移ってしまっていたので名札掛けは焦げてしまっていますが・・・・・・ああ、そこの私の上着にくるんであるそれです。」



名札というのは道場の壁によくある人の名前が書かれた板だ。

私塾の道場にも生徒たちの名前を書いた名札をきっちりと名札掛けに入れて並べてある。

それも名札掛けは板に直接名札を釘で打ち付けるタイプではなく、板の枠になった上下の溝に名札をはめ込むスライド式だ。

結構値段は張るのだが、新しいもの好きな彼の性格が出ている。



白波の通っていた田舎道場は釘で打ち付けるものだったので、名札の取り外しもできず手入れもおろそかなために見栄えもあんまりよろしくなかった。

どうやら松陽は生徒の名札を定期的に取り外して各自に掃除させていたらしい。

そんな事をしていたのだから生徒達も名札に愛着があるのだろう。

名札が無事だと知った生徒たちは自分の名札を探しに群がっている。

それを知っていた白波は一番に道場に行って名札を全部回収したのだ。



そして、ふと気が付く。

あの目立つ白い頭が見当たらない。



「銀時君は?彼は無事ですか」

「あの馬鹿、ずっと動き回ってたから疲れ果てて爆睡してます。一応水だけ飲ませておきました」

「そうですか・・・・・・ちゃんと口に布は巻いていました?煙とか吸っていません?」

「はい、それだけは無理矢理させておいたんで大丈夫です」



よかった。

気が緩んだとたんにどっと疲れが押し寄せてきた。

やらなきゃならない事がたくさんある。

とにかくまずは家の損傷を直す為の業者なりなんなりの手配をしなくてはならないし、その間の銀時の住処を誰かに頼んでおかなくてはいけない。

そしてなによりも早くしなくては、まだ詳しい話は分からないが、奈落に連行されていったのだろう松陽を取り戻すための策を考えなくてはいけないのだ。

ちょっと取り調べて牢屋に入れられてもすぐに釈放になるなら良いが、そう楽観視もできない。

幕府や天人が関わると何が起こるのかなんて予想が付かなくなる事は経験で良く知っている。



「起きたら、話を聞かせてもらわなくてはいけませんね・・・・・・それまで、私もすこし休憩します・・・・・・」


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あきゅろす。
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