リコリス
20:夏の話
季節が一つ廻った、夏。
「銀時ー!お客様ですからお茶を出して差し上げてくださいー」
「先生、またこの人連れてきちゃったの?いい加減に相手の都合も考えてあげようよ見ててかわいそうだから」
「お、お久しぶりでーす・・・・・・」
「白波さんもさぁ、ちょっとは拒否するって事覚えようよ」
「うん。分かってるんですよ、銀時君。だけど突然さっきまで持っていた荷物が当然のように松陽さんと一緒に西方向の便に乗ってるんですよ?」
「強盗!?先生今度は置き引き!?」
「おや人聞きの悪い。先に荷物を運んで差し上げただけですよ」
「本や着替えならともかく、刀と路銀は無いと困ります」
「船に乗らざるを得ない状況を作り出したともいうからねそれ」
そんなこんなでまたやってきました、萩。
子供は筍みたいだ、見ないうちにぐんぐんと身長も伸びている。
そんな事を思いながら、白波はくたくたに疲れた体を柱にもたれかからせた。
一体どうやって探すのか、松陽は毎回毎回白波の居場所を見つけ、あの手この手でこの村へと引っ張ってくる。
最近は手段を選ばなくなっているところが心の中では恐ろしい。
「とりあえずお土産です、はい」
「おお・・・・・・!」
「かすてらです。皆で一緒に分けて食べてくださいね」
「おやよかったですね、銀時。」
「底のざらめがたっぷりなやつ!糖分!糖分!」
「では明日の授業の終わりに切り分けましょうか。戸棚に仕舞っておくから、食べちゃだめですよ銀時」
「そう言いながら自分の分別に買ってあるだろ先生、後でこっそり食べる気だろコノヤロー。」
「どうしてばれたんですか」
「毎度の事だろ学習する生き物なんだよ俺だって」
さて明日の授業の準備をしなくては、と寺子屋の方へ向かっていった松陽を見送った白波と銀時は縁側に腰掛けた。
なんだか最初に会った時よりもおしゃべりが多いなあ、楽しそうな声だなあと嬉しくなる。
実は懐にカステラとは別に飴玉のお土産を忍ばせていた白波は、皆には内緒ですよとそれを広げた。
食紅の鮮やかな色合いとしっかりと果実の味がついているからとよく食べているものだ。
とりあえず赤い飴を口に放り込んでみた銀時は、ころころと口の中で転がしながら目をキラキラさせて歓声を上げた。
「甘ーっうまーっ」
「ふふ、あいかわらずのようですね」
「なあこれイチゴ?イチゴだよな!」
「正解ですよ」
「イチゴうまーっ、俺イチゴ一番好き!」
「おや、ではこっちは?」
ころりと開けたまんまの口に別の飴を放り込む。
驚いた銀時は一瞬飴を吐き出しかけるが、そんな勿体ことは出来ないと根性で踏みとどまった。
「!?、!??」
「どうです?」
「――なにこれめちゃくちゃうまい!なにこれ何味!?」
「いちごミルク味です――なにその奇跡を目の当たりにしたかのような顔。えっ食べるの初めてだった?」
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