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リコリス
19


吉田松陽。

原作でのイメージがどうたらとは言う気は無いが、いろんなところのぶっ飛んだ御人だった。



(そういや吉田松陰の像を飾った学校あったよなー・・・・・・たしか創設者が現代の松下村塾をつくりたいって思いを込めていたんだったっけー・・・・・・)



モデルになったあの有名人は、黒船に乗って外国へ密航しようとしたりした人だったらしい。



それはそれで良いのだ。

白波にだって漫画やゲームが好きな学生時代があった。

歴史人物をベースにした漫画を史実と照らし合わせて共通点を見つけるのは、世界観を楽しむ一つだと思ってる。

だからと言ってこの世界を漫画の中の事だと思っていては、この戦争中、あっという間にそのまた向こうの人になってしまう事ぐらいわかっている。

具体的には黒い額縁に囲われた写真の中の人になってしまう。



「ぜひ一度乗ってみたいと思っていたんですよね、この空飛ぶ船」

「まあ戦争が終わりでもしなけりゃ乗る機会はそうそうありませんね」

「なんだか耳がキーンとします」

「私もです。新幹線のスピードですからね」



「あ!あれはなんでしょう」

「動力エネルギーを生み出す装置だそうですよ、他の星の秘密技術なので詳しい事はしりませんけど、無音なのはすごいですよね」

「では先ほどから響いているこの振動音は?」

「船員は空を飛ぶときに受ける空気抵抗の音なんだとか言ってましたけど、多分エンジンが炎上しないように熱を逃がすために風を当てているんでしょうね。どうやらこの船のコンピュータは、機械に一定以上の熱が溜まると自動で冷却装置が作動するようにプログラムされているらしいですよ。」



なるほどわかりません、詳しく説明して下さい。

そう言った松陽はその足でどこかへ向かっていく。

そして今度は休憩所に設置されたホワイトボードの前に立たされる白波。



「モーターの仕組みはご存知ですか?」

「いいえ、それもついでにお願いします」

「そうですね、機械類について学ぶならまずそこから説明した方が良いでしょう」



実の所、前世では数学と理科が得意だった白波である。

多分女性には珍しめな理数系脳だったのだろう。

そのため受験したのは文系大学で苦労はした。

古典や現代文には興味があったのでどうにかなったが、外国語と地理歴史公民はどうにもならない事も多々あったのだ。



そして今世の身体だが、どうやらこの峠白波の脳みそは文系らしい。

前世であれだけひいひい言った母国語以外の文字が簡単に染み渡ってくる。

本人も天人連中の母星の言葉を早い段階で習得してしまった段階で気が付いたが、今の彼の脳みそは昔の彼女の能力がそのまま含まれている時点で結構な特別製だった。

文系理数系大抵のものは何でも対応可能にしまうのだから割とすごい事である。



「ざっくりと説明すると、火力とか水圧とか風力そういった自然界の力をエネルギーと呼びましてねー。それらをこんな巨大な船を動かす動力に変換するために使われるのが―――」

「ほうほう」

「例えば風力エネルギーを電気エネルギーに変換するならこれこれこういった装置を組んで――」

「ほうほう」

「だけど10の風力エネルギーを10の電気エネルギーに変換するっていうのはまず不可能でして――途中で何割かが熱とかになって空気中に逃げちゃうんですよ――」

「へーほー」

「でもってその逃げた熱が装置に溜まると機械自体に不具合が起きるんですよね――人間もハッスルしすぎたり頑張りすぎると体温とか心拍数とかが上がりすぎてぶっ倒れるでしょ」

「へーほー」

「だから人間で言う休息が機械にも必要なんですね、でも空を飛んでいる船の動力停止なんてしたら地面に墜落してしまいますから――

ホントはぶっ続けで酷使すると休息挟んで使ったものよりずっとお釈迦になるのが早かったりするんだけどそれは置いといて――

絡繰りを長時間続けて使用するためにほぼ必ずセットで搭載されているのが冷却装置とかその類なんですね――」


−−−−


数十分後。


「氷嚢みたいに直接氷を当てたりする方法もありますけど、この船に使われているのは多分――ってことなんですけど、こんな説明で分かります?」

「なるほど、よくわかりました」

「えっ、わかったの?」

「今度はPCのプログラムとやらの講義をお願いします」

「えっ、いつの間に抗議になったの?」

「早く始めてください」

「・・・・・・」



そんな具合で、メモ代わりに裏紙を使ったマンツーマン授業は、2人の乗る船が江戸に到着するまで行われた。

ちなみに天人の技術を使えば10分もせず京都から江戸まで飛べるのだが、それは地球人の身体がそのスピードに耐えられないためにわざとこの船は減速されているのである。


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