リコリス
16
そんなふうに、半分あきらめながら村塾へ歩いて行った2人は叫び声をあげることになった。
「――いだだだだだだだだだだあああああぁぁ!!!?」
「おい高杉なにやってるんだ!?先生のお客人だぞっ!!」
「ああ?人前で笠も取らねー奴が先生の客であってたまるかよ」
「ごめんなさいお願い離していたいいたい剥げるからぁぁっ!」
「おーい高杉ー、ヅラが2人になっちまうぞ」
「ヅラじゃない桂だ!それとなってたまるかあっ!」
「うわああヅラにはなりたくない!せめて孫ができてからであってほしい!」
「何気にひでえなお前」
村塾に足を踏み入れた白波は、小太郎と同じぐらいの年頃の少年に、身体の全体重をかけてのアイアンクローをかけられ、灰色の髪の毛を引っ張られていた。
頭肌をごっそり引っこ抜かれるのはごめんだと騒ぎながら少年を引きはがそうとするものの、なかなかうまくいかない。
その足元では、地面に放り出された編み笠が、主人である白波を恨めし気に見つめている。
傍に立つ小太郎は少年に向かってやめろと叫び、そのまた横では綿菓子みたいな白い天然パーマの少年が鼻をほじりながらやんわり諌めていた。
こんな事態になった原因は数分前に遡る。
ーーーー
「ヅラァ。そいつだれだ?」
「ヅラじゃない桂だ。そいつじゃなくてこの人は白波さんといって、松陽先生のお客人だ。俺が先生から案内を頼まれたのだ」
「偉そうにすんじゃねえよヅラのくせに」
どっかで聞いたことのあるやり取りに、編み笠を通して白波は目を細めていた。
黒髪の子供をこうも近くで見るのも久々な気がする。
(・・・・・あれ?松陽さん小太郎君にそんなこと頼んでいたの?いつの間に?)
「ズラじゃない桂だ・・・・・・もういい、白波さん、紹介します」
「はい?」
「こいつらは塾の同級生です。刀抱えている方が松陽先生と暮らしている銀時で、もう一人は上背が足りていないくせして苗字が高杉の――」
「喧嘩なら買うぞズラァああ!!」
「しぶゴぁあッ」
「え!?小太郎君!?」
ぼうっとしている間に突発的な台風のように巻き起こる子供の喧嘩。
しかしこの場は剣道も教えている村塾。両者ともどこからともなく竹刀と取り出したかと思うとルールも反則も知ったこっちゃないと言わんばかりな大立ち回りを展開していく。
「あーあーまた始まったよ。よくやるなあいつらも」
「え、えーっと銀時君?止めなくていいの、アレ」
「あんなんいつもの事だから。一応言っとくけど下手に止めようとしたりしたら面倒な目にあうぞ」
「いやいやいやなんか見ているうちにいろんなもんが壊れていってんだけどあれ!?」
「流石にヤベエと思ったら自分らで止まるから。俺はその辺は誰かが止めてくれると信じてるから」
「それ投げやりって言わない?銀時君、きみいくつ?」
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