見える先に向かうだけ!
あ、どうも。お久しぶりです。
教室の扉が静かに開く。
「「お、おぉぉおおぉおッ!」」
クラスの男子からそんな声があがる。
「えー、彼女は絢音楓さん。少し事情があって言葉が話せないそうです。筆談でどうにかなるようなので、皆さんゆっくり話してあげてくださいね」
楓がペコリと頭を下げる。
クラス中が拍手する。
「えっと席は……ああ、綾戸君の近くがいいですか、じゃあ綾戸君の一つ前でいいですかね」
言われて楓はスタスタ歩いてイスに座った。
ご指名を受けた祐樹はというと…
「う、嘘だ!こんなのあるはずがない!俺は知ってるぞ、こういうイベントが起きた後、次の章くらいでそいつに関する事件が発生しちまうんだ!」
頭を抱えてガタガタふるえていた。
「お、おい、大丈夫かよ綾戸…」
「気絶しろ俺ぇぇぇ!」
そう叫んだ後全く動かなくなってしまった。
とりあえず放置。
「もう一人待たせているので入ってきてもらいます、どうぞ」
扉がまた開く。
次は少年だった。
「どうも、涼風玲です。よろしくお願いします」
そういって頭を下げる。
すると今度は別の人がリアクションを起こした。
「な、な、なんでお前が「何であんたが来てんのよ!?」……」
橘が立ち上がって言った直後に真奈美が大きな声で叫んだ。
「やあ真奈美、久しぶりだね」
「涼風君は田代さんと知り合いですか?なら田代さんの近くの席に……」
そう言って森口は真奈美の席の周辺を見回すがどこもあいていない。
真奈美は真ん中の方の席なのだ。
「先生、僕は橘君の後ろでいいですよ」
玲が言った。
「そうですか、ちょうど空いてますしいいですよ」
許可を得た玲は橘の後ろの席に座った。
指名を受けた橘はというと
「なんでやねん…なんでやねん。何で俺らの席の前後だけ空いてんねん…なんでやねん」
俯きながらひたすら突っ込んでいた。
「優一、大丈夫かい?」
「なんでやねん…なんでやねん…」
そのまましばらくその調子だったらしい。


二人が正気を取り戻したのは昼休みになってからだ。
「なんかどっと疲れた…」
机にもたれ掛かりなが橘は呟く。
「そういえば綾戸」
「なに」
橘以上に疲れた様子の祐樹が、本当に疲れた、いや病んだ目で彼を見た。
「すごい目だな。なんでさっきは気絶しろ、なんか言ってたんだよ?そこだけが疑問だったからさ」
「ああ…いや…。恐らくこれから起こるであろうイベント…もとい事件が頭をよぎった瞬間、現実逃避がしたくなってなぁ。そろそろ起こ…「ちょっと絢音さん、いいかな」…っちまったなぁ……」
祐樹が見た場所、彼の席の前、絢音楓のいるところ、そこに二人の女子が、なにやら怖い顔で彼女に迫っていた。
「ああ、なるほど…。恒例のあれか」
「ああ…」
恒例のあれ、それは祐樹が女子と親しくなる度に、紗耶がその子と接触をはかり尋問をし始めるというあれ。
「ねぇ絢音さん、祐樹とは一体どんな関係なのかなぁ?」
にこにこと笑っているが目が笑っていない!むしろ据わってる!
(あの、祐樹さん、なんと答えたらよいでしょうか)
考えるフリをしながら祐樹に意見を求める。
《俺に意見を求めないでほしいな、自分で頑張ってくれ》
顔を伏せ、楓と一切目を合わさずにそう返した。
(自分で考えて、ですね)
楓は紗耶の方を向き、口を開いた。

「ぁ…ぅぁ…ぁ…」



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