見える先に向かうだけ!
作戦会議
「……で、橘。その能力で具体的に何するんだよ」
「……」
橘は答えない。
「橘?」
彼の名を呼ぶが顔を伏せたまま動かない。
「あのな、別にさっきの告白についてどうこう言わねえよ。でもあれは俺たちに向かって言うんじゃないだろ?田代本人に言わねえとお前の気持ちはあいつに伝わらないぜ?お前が本気であいつのことを…その…愛してるってんならさ、それは勇気を出して伝えるべきだと思う。どんな結果になっても諦めるなよ?俺は応援してるぜ!」
「いや、ちょっと黙れ」
橘が顔を上げ、そう言った。
「だいたいさっきのはお前が伝言だとか言って!別に俺が本当にそう思ってるわけじゃないからな!?」
「え?さっきのってなに?」
森口がまたクスクス笑いだした。
「だから、俺が真奈美を愛してるって!……あ」
「面白いほど引っかかる、うん」


「でだ、これからどうするんだよ」
祐樹が壁にもたれ、腕を組んでそう言う。
「まずいつの日に飛ぶんだ?」
「うん、それについては俺が何回も飛んで調べてきた」
「調べる?」
橘が黒板のところまで行く。なぜ廊下に……
「まず俺の能力は結構不安定なんだよ。設定した時間には一応飛べる、そっからはよくて十分しかいられないんだよ」
「二人ともか?」
「二人とも」
橘はチョークを手に取り、話を続ける。
「それで何度も飛んでやっと見つけた。愛美ちゃんが殺された日にちをな」
「なるほど」
「まあ玲はこれをトラベルとかなんとか言ってたけど……そんなにいいもんじゃないからな」
トラベル、タイムトラベルのことだろうか。
直訳すると時間旅行。
「玲って誰だよ」
「あー先生なら知ってるんじゃないかな」
言いながら彼は森口の方をちらっと見る。
「玲、ですか……涼風君でしょうか?渡辺君達と同じクラスの」
「そうです、そいつ。俺に愛美ちゃん救出を頼んできた妙に偉そうな奴だ。…なんかイライラしてきた」
「なるほどな。とりあえず納得しとくか」
橘は白いチョークで黒板に何か書き出す。
「よし、作戦を説明するぜ」
「ちょっと待ってくれ橘」
説明をしようと黒板にチョークをたてた橘を、祐樹が止める。
「ん?なんだ?」
「続きは、俺んちに来ないか?もう放課後から結構たってるしさ」
そう言われればと、橘が辺りを見回すと校舎にはほとんど物音はしていなかった。
「あ、うん。じゃあそうさせてもらうよ。帰りながらでも少しは話せるしな。では先生、さようなら」
「さよなーす」
「さようなら」

「なあ橘、出発はいつなんだよ」
「いつでもいいぞ〜」
のんびり歩きながら……ってさっきもやったな、少し飛ばしましょう。
〜少し過ぎて〜
「じゃあ鍵ってなんだよ」
「つーか何で必要なんだ?」
祐樹は、何となく不愉快だったので理由を訊ねる。
橘は少し考えてから言った。
「玲が頼れってさ。彼に聞けば力を貸してくれるよ、とかなんとか。俺の能力を支えてくれるらしい」
橘は眉を八の字にして言う。
「つまり鍵の力を借りれば橘の能力が補強されて、例えばいられる時間が長くなったりするのか?」
「たぶん」
祐樹がこれだけ追求するのには理由があった。
大きな心配ごとがあるのだ。
それは
「楓に負担はかからないのか」
鍵、つまり絢音楓のことだ。
祐樹は楓のことを鍵と呼ぶのが嫌いだった。
さっき呼んでいる間にもストレスがたまっていたようだ。
「楓…?」
橘が彼女の名前を聞く。
「お前が鍵って言ってる奴の名前だ。道具なんかじゃなくて人間なんだよ」
「え………マジ?」
「マジ、だから聞いてんだ、楓に負担はないのかよ」
「あ、ああ、たぶん…」
橘は少し思い出してから言った。
「玲が壊れることはないって言ってたから大丈夫だと思う」
「さっきから気になってたけど、玲って誰だ?」
「え」
橘は思わず声を詰まらせる。
「知り合いじゃないのか?」
「違うけど?そうだったらさっきも聞かないだろ」
「それもそうか。…玲は綾戸のこと知ってたけどなぁ」
"彼もいるしね"とか。
「とりあえずまた今度そいつに会わないとなぁ。一応顔会わせないとやばい気がする」
そういって祐樹は両腕をさすった。
何をしたいのやら…
「ん、ついたぞ」
「お、じゃあおじゃましまーす」

「じゃあ詳しい説明をするぜ」
橘はノートとペンを持って話し始める。
「まず愛美ちゃんの命を救うこと、これが一番っていうかこれができないと俺達の作戦は失敗だ」
「その後その子の命の危険が奴らに狙われるのも防がないとな」
「なんか先にいわれた…」
祐樹の何というか、そういう頭の回転の早さには橘は少し悔しく思うようだ。
「ならするべきことは一つ、まず渡辺達と接触をはかること、だろ?」
「あ、ああ。事件が未然に防げるに越したことはないからな」
橘は同意するように頷いてから言った。
「とりあえず渡辺を叩けばその場限りで愛美ちゃんは助かる」
「でもそれは所詮とりあえず、その場限りだけだな」
「ああ」
橘はノートに今言ったことをメモした。
「その、森口の娘の安全を確立するためには渡辺にその子を襲わせる理由をなくせばいい」
「理由をなくす?どうやって?」
祐樹は口の端をあげて笑う。
「あいつの目的、森口と推測したのでは母親を自分の所へ連れ戻すことだ」
「うん?そうだけど…」
「だったら会わせてやればいいんだよ」
「???」
橘の顔が疑問一色になっている。
「会わせるって…簡単に言うけど実際どうする?住んでいる場所も職場も顔も名前もわからないのにどうやって?」
「忘れてんじゃねーよ、お前の嫁」
「あ」
橘は何かを思い出したのか短く声をあげる。
もうおわかりだろう。
人の情報を調べさせたらピカイチの腕を持つ少女。
っていうか嫁じゃないし
「田代に頼るぞ。帰ったらすぐに調べさせろ、渡辺の母親をな」
祐樹は口の端を盛大に引き上げて笑った。

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