見える先に向かうだけ!
ママ
「…なんかすごいな」
森口の話を聞き終えた祐樹は、色々込めてそう言った。色々って何だ。
「とりあえずこれが二人が事件を起こすきっかけです」
森口は静かに息を吐きながら言う。
「なるほど…。中学生でこんな強烈な感情持ってる奴がいるんだな」
「まあ当然といえば当然です。この時期は心と体のバランスもおかしくなりますし、妙なところで成長していませんから」
さすが教師、なんかすごいなぁっと祐樹は感心した。
「それで、その渡辺の目的ってなんですか?」
何回か出てきたその単語を聞く。
「簡単に言えば実の母親を自分のところへ呼び戻すことでしょう」
「実の母親…ああ、離婚したんだっけ」
「はい、彼がまだ幼い頃に。原因は…母親の家庭内暴力」
「!?」
一瞬理解できなかった、いや、今も理解できない。
虐待が原因で離婚した、つまり彼本人が苦しめられていたはずなのに、その苦しめていた張本人を呼び戻すとは…。
「なぜそんな…」
「大体の予想ですが彼の母親は彼に暴力を振るった後、罪悪感から自分を守るために彼に謝りでもしたのでしょう。愛してる、とか言いながら」
「…」
黙って話を聞く。
「それをあの幼い渡辺君は勘違いしたのでしょう。ママは僕に暴力を振るうけどホントは愛してくれてるんだ、なんて。一瞬の母性、言うならば一時の気の迷いですのにね」
「勘違いヤローですね」
「勘違いヤローです」
二人はうんうんと頷く。
「それで、その延長戦で母親を?っていうか人をいたぶって呼び戻せないだろ?」
「いえ、その母親は研究者だったので。渡辺君は母親が自分に暴力を振っていたのは、母親は自分がいるから研究ができないとか勘違いしてましてね」
「またかよ、渡辺の中での母親は二重人格なのか?」
「まあそんな感じでしょう、一時の気の迷いのようなもので自分に暴力を振るうが本当は自分を愛しているのだ、と」
「ホントは逆なのにな」
「勘違いです」
「勘違いだな」
またうんうんと頷く。
「それで、このあと二人は何したんすか?」
「はい、この後は…」

二人は作戦を練った後、標的との接触をはかった。
その標的は放課後直後、学校プールの裏手にある家の犬のところに餌をやりにいくことがある。
その時をねらって復讐するらしい。
標的に怪しまれないために財布はキャラ物の財布にし、さらにそれを渡すのも基本的に人相の良い直也に任せるという、慎重に慎重を重ねた作戦だった。
財布は今までとは比べ物にならないくらいの電気が流れている。
修哉は直也に人を気絶させるくらいの力があると言っていた。
だが修哉には小さな子くらいなら殺せる自信があった。
そして決行の日が来た。

その日、森口は少し用事があり、職員室にいた。
生徒達は自分達でルールを決め、一日二人から三人ずつ彼女の娘に会いに行く、としていた。
だが生徒達が行ったとき彼女は保健室にいなかった。
こういう事はよくある、校内を探検して、いなかったりするのだ。
だからその日担当だった二人ものんびり待ち続けた。
一方修哉達の方では標的が来ていた。
打ち合わせ通り直也が声をかける。
「やあ」
標的はビクッとした後ゆっくり振り向いた。
「そんなに怖がらなくて良いよ、僕たちはママの生徒なんだ。ほらこれ、ママが忙しいから君に渡してくれって」
そういって財布を取り出す。
「あ、キティちゃん!」
サンリオ…
「ほら、開けてみてよ。中にいい物が入ってるよ」
修哉が開けるように促す。
「ホント!?」
嬉しそうにファスナーに手をふれた。
バチンッ
標的の体は一瞬跳ねた後倒れた。
「あ、ははは。ざまぁみろ、恨むならママを恨みな」
直也は言った。
標的、それは森口の娘だった。

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