見える先に向かうだけ!
鳳流、剛、ゆうき
「さて、どれでしょうィ」
彼女は、自信がなかった。
祐樹が捕らえられているバラを、見付けられない。
しかし彼は苦しんでいる。
壁に映された祐樹は、なにも見えない空間で必死に暴れていた。
「この中に…… 」
わからない。
私に見付けられるのか、間違えてしまう確率が九割だ。
楓ならわかるはずだ。
彼女も能力者だから。
ならば、私は……。
彼女は悩む。
目の前の男が醜く笑い続ける。
「…………」
選ばなければならない。
彼女はゆっくりと指を差し、
「これが、祐樹の……」

「紗耶ァァァァアアアアアア!!!!」

バキィッ!と白い壁が破れ、楓を背負った人影が現れる。
「なッ!くそ!!」
Zは突然悪態をつき、姿を闇と化し、消した。
「紗耶!」
「紗耶ちゃん!」
紗耶は砂煙の中で頑張って目を開く。
風が巻き起こり、それを取り払われる。
視界が回復する。
「祐樹!!」
祐樹。
闇のなかに捕らわれている祐樹。
「え、え?」
紗耶は呆然と彼を眺める。
視線を先程見ていた闇の中の祐樹に泳がせる。
祐樹の姿どころか、映し出す闇すらなかった。
「大丈夫か紗耶!」
立ちすくむ紗耶に祐樹は駆け寄る。
肩に触れると、ハッとした様子で視線を戻した。
「大丈夫…みたいだな」
「ひろ…き」
目に涙を溜める紗耶。
あ、これダメなやつだ。と祐樹は思った。
次の瞬間には紗耶は目の前から消えて、耳元で泣き叫んでいた。
楓を背負った祐樹は、楓を下ろして二人で紗耶を撫でていた。

「ありがと祐樹、楓ちゃん、橘くん」
橘を呼んだ祐樹らは、ここから出ることを決めていた。
紗耶の礼に三人は頷いた。
「ごめんな紗耶、俺が近くにいながら……」
「ううん、一回くらいは超能力の世界を経験しとかなきゃ」
まだ目がうるうるとした彼女はうっすらと笑って言った。
「とにかくここから出よう」
「ああ、すぐに開く」
真奈美を抱きかかえたまま―――俗に言うお姫様抱っこ―――で橘は能力を発動した。
「じゃ、いこう」



最深部まで来た。
六人は同時に思った。
「で、あれが【ゆうき様】ってか」
「……みたいです。見れば見るほどひろくんそっくり……」
銀と優奈は言葉を交わす。
「でも、今回の目的はあれじゃない。綾戸くんのクローンを作らせないこと、なんでしょ?」
玲が誰にいっているのか、いや、恐らく全員にそう言った。
「どうする?茂」
「…俺たちからはなにもしなくて良いみたいだぞ」
茂は玲の後方を見据えて言う。
言われた玲は振り向き。
「う゛ぉぉぉおおおい!ネズミがこんなところまで来やがったぞッ!!」
「…………」
体格の大きい男がそこにいた。
大声で奇声を発するその態度は、祐樹の情報にぴったり当てはまった。
「…あれが剛みたいだな」
銀は呟きながら刀の柄に手を当てる。
「おい流!!出てこいよォッ!」
「……うるさい」
さらに剛の後方の柱から真っ黒の服の女が姿を現す。
ポニーテールを揺らし、大きな胸も揺らす女。
それも祐樹の情報に合致した。
「あァ?そこにいたのか流。おま」
「さて、お客さんに挨拶でもしましょうか」
「……」
流と呼ばれた女が六人から20メートルほど離れたところに立ち、頭を下げた。
「いらっしゃいませ、ゆりかごの間に。私は鳳流(おおとり ながる)と言います。こちらは剛。どうぞごゆっくりなさってください」
「おお…とり?」
イロノが目を見開く。
「どうした、なんか知ってるのか?」
銀が訊ねるとすぐに元に戻り、首を振るイロノ。
それを見てまた銀は彼らを睨む。
「テメーらの目的はなんだ」
「あれ?器から聞いてないの?」
器。つまりそれは祐樹のこと。
彼は、自分のことをただの器としか見ていないようだ、と皆に言っていた。
銀もそれを聞き、少なくとも人間扱いなんて言葉がないことを悟った。
「あれ?器がいないじゃない。…まあいいわ、教えてあげる」
流は胸元をぐい、と引き、小瓶を取り出した。
黒い髪の毛の入った瓶。
「ゆうき様の入れる器を作り、彼を復活させること」
「その後は」
「その後?そこまで教える必要ある?」
「……チッ」
短く舌打ちする銀。
右手は柄を握ったままだ。
「別に今貴方達と一戦やろうなんて思ってないわよ?相手にならないし」
イロノが一歩出たが、玲がそれを制止した。
「…まあ、今から来る人が集まれば、一人くらい苦戦させられるかも。ね?」
「今から来る……?」
茂が呟く。
するとちょうど流や剛と六人の間に黒い亀裂が生まれる。
それはすぐに広がり、中から人が出てきた。
「…ふぅ。あ、茂に玲!烏田もいるじゃねえか!」
「ん?マジだ。皆集まってる」
祐樹と、その前にいる橘。
赤い光は皆が確認したときには既に消えていた。
二人だけじゃない。
楓と紗耶、橘に抱きかかえられた真奈美もいる。
「ほらね?」
流がウインクを飛ばす。
苦々しげに眉をひそめた銀はまた舌打ちしたが、祐樹たちを見る目はキツくなかった。
「誰かいるのか…、!?剛、に…!!」
「流。鳳流です」
「ゆりかごの間か!くそ!」
祐樹はすぐに臨戦態勢に入り、もう右手に【チカラ】を溜め始めた。
「あーもう!なんでそんなに血の気が多いの!別に戦う気はないの!いい?」
「………」
祐樹は一切目をそらさない。
右手も【チカラ】を緩めない。
「とにかく、ここまで貴方達が来たってことは、私達は違うところに逃げなければならないの」
「……?」
「魂だけのゆうき様は脆いのよ。剛!」
「う゛ぉぉぉおおおい!わかったぜェ!!」
剛はゆうきの入った岩の所まで跳んだ。
そして彼の回りだけ抜き取って肩に担ぐ。
祐樹に紹介したときは柱のような岩全体のようにいっていたが、本体は意外と小さかった。
「お、おい待て!」
「んーと、そうね…。帰って寝てたらゆうき様が夢にでも出てくれるんじゃない?」
流が言うが、剛は歩く速度を落とさずに柱の向こうへと行く。
「待てって言ってんだよ!!」
祐樹の右手の【チカラ】は雷と化し、突き出すように右手をやると剛の方へ凄まじい勢いで飛んでいく。
しかしそれは剛に届かない。
線上にいた流に当たったかに見えた。が、違う。
「まったく…ホントに血の気が多いこと……」
「なにを…した」
茂がポツリと呟く。
流は無傷。
何か能力を発動したわけでも、雷を防ぐゴムのようなものを出したわけでもない。
ただ前髪をかき上げ、呆れたように言うのだった。
「なにを?まあ引っ掻いたくらい?」
「ああ、そうみたいだな」
橘が流の指を見据えて言う。
その間にもゆうきを背負った剛が出ていこうとする。
「ッ!!」
祐樹は次に水を手から放出する。
先ほどと違い単発じゃない。
「……」
無表情の流がそこへ指先をやった。
当たれば当たるほど水が、消える。
「は…!?」
見ていた銀たちにもそれはわかった。
が、一番それを感じているのは紛れもなく祐樹。
彼は呟く。
「水自体が消えてる…」
目を見開いて、手から水を出したまま、呆然と。
流が引っ掻くように腕を振るとみるみる内に水が消え、最後には祐樹の手元まで上った。
「……な、にを」
「リーダーの貴方がこの程度じゃまだまだゆうき様には勝てないわよ。じゃあね、私もいくから」
流は手をヒラヒラと振って後ろを向く。
しかしその姿に隙は一切なかった。
よくわからない、だが気迫溢れるオーラみたいなのが見える。
立ったまま呆ける祐樹を先頭に、誰もその背を大和なかった。
強さの違いがそれだけでわかった気がした。




「…祐樹」
紗耶が前にいる彼の名を呼ぶ。
山から出て、あやめの家へと歩いているところだ。
「………」
果たして祐樹は聞こえているのか。
それさえも疑ってしまうくらいに彼は反応を示さなかった。
「高梨さん。今は綾戸を放っておいてやろう。能力者にしかわからないと思うけど、相手は本当にやばかった」
橘は真奈美を背負ったまま呟く。
真奈美は起きる気配はない。それを見る橘の目もまた、一切の力がなかった。
「………」
黙ったまま、皆が歩いた。
皆のすむ町には鷹野の用意した車や船で帰っていった。


祐樹は目をつむる。
車のなかで。
手も足も出ないことは本能的に悟った。
手を当てられただけで自分の能力を消されたことなんて初めてだった。
対処法は手の届かない所に攻撃するか、速度で攻撃するか。
色々考えてみたが、隙を見せる相手のように思えなかった。
(ゆうきはもっと強い……)
まるで王や神のように彼らはゆうきを崇めていた。
その相手が流たちより弱いはずはない。
……だが目的がわからない。
何のために祐樹を乗っ取り、体を得るのか。
復活してなにをしようとしているのか。
(……わかるわけないか)
心のなかで呟くと、一気に脱力感が彼を襲う。
完全に眠る。
そして流の言葉通り夢にあいつが現れたのだった。


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