見える先に向かうだけ!
横断報道の白い部分だけを避けて歩く子供
『ここから助けてあげる。だから僕の手伝いをしてくれないか?』
『手伝い…?』
少年が笑顔で自分に手を差しのべる。
この地獄から助けてくれる。
それはすごく魅力的な誘いだ。
自分より明らかに年下だが、確かな実力を持っているのは少年を見れば明らかだ。
『罪を背負った者の底力を見せてやりたいんだ。どうかな』
(罪を背負った者………)
そこで理解できた。
彼は罪を背負った者だ。
恐らくそれは本当にそうなのだろう。
でなければこんなところにいるはずがない。
『……ゆっくり話を聞きましょうか』
『それはよかった』
笑顔でそう言う少年の手を取って、彼女は地獄から抜け出した。


「…あ、あぁ………!」
銀は振った刀を震わせながら声を漏らす。
先ほど綺麗にした刃には、また血が滴っていた。
「アハハハハハ!最高だよねえ!自分が守ろうとしたものを自分で壊したんだもんねえ!」
白はイロノを掴む手を離してそう言った。
そうだ。
銀はイロノを斬った。
首から大量の血を流す彼女を見れば一目瞭然だ。
頸動脈を傷つけた可能性がある。
「イロノォォォォオオオオッ!!」
銀は彼女に駆け寄り、その小さな体を抱いた。
ヒューヒューとか細い呼吸音が喉からかすれ出ている。
もう命は危ないかもしれない。
「ほら次はお兄さんの番だよ!」
イロノに気をとられていたあまり、白のことは頭の中から消えていた。
白は叫びながら銀の頭を右手にもつ槍で殴り、気絶させた。
「ガ……ハッ…」
腕から力が抜け、イロノの体が地面に転がる。
「……フフ。ここからゆっくりぐちゃぐちゃにしてあげるよお」
だが未だに血を流す白ではそれも限界があった。
腰を下ろし、体を休めようとする。
が、そのとき。
「拙者の体を斬らせ、そのあと銀を気絶させた後自分は休憩か。随分な身分だな」
ドスの聞いた女性の声が広場に響いた。
「だ、誰!?」
気付かなかった!
新たな侵入者がこの広場に入ってきていたなんて!
白は急いで辺りを見回した。
が、誰の姿もない。
「どこだ!」
「こっちだこっち…。早く見つけてみよ」
(もしかして…)
白は銀の前へ回り込んでみた。
そこにはイロノが倒れている。
斬られたときと同じように血で体を濡らして目を閉じて……。
(いや……顔色が良すぎる。それに…)
「こんなに体は大きくなかった!」
「……やっと見つけたか」
イロノ(?)が不敵に笑って目を開けた。
白が言う通り、イロノの体は大きくなっている。
彼女の着ていたワンピースは悲鳴をあげ、破れそうだ。
「…キツいな」
彼女は体を起こしながら肩を撫でる。
若干肩を締めて苦しいらしい。
「さて。白とか言ったな?小娘」
「な、なに…」
イロノはずっと変わらぬ目付きで白を睨み付けている。
そして銀の横に落ちている刀を拾いながら続けた。
「銀の次は拙者が相手をするとかなんとか聞いたぞ。どうなんだ?」
「あ、はは…おもしろいねえ。うん、ちょっとうちと遊んでよ!」
そう言って白は姿を消す。
イロノは黙って刀を構えた。


〈紗耶ちゃん。俺だ、茂だ〉
突然頭の中に声が響く。
「茂くん!?大丈夫なの!?」
思わず紗耶は聞き返した。
この場に彼はいないのにー。
〈ああ、大丈夫。なんとか倒した。今降りてるからすぐに追い付くと思うよ〉
《そう…よかったぁ》
「茂がどうかしたのか?」
一息吐いた紗耶に橘は訊ねる。
「茂くん、もうすぐ追い付いてくるんだってさ!」
「そう「おぉぉぉぉい!」……」
階上から声が響いてくる。
声の主は……誰だかはわかるだろう。
「おぉぉぉ、っと!ただいま!」
茂が階段を滑り降りるのをとめて立ち止まった。
「い、今のも超能力?」
「そうだな」
紗耶の問いに茂は頷いて返す。
「へぇ〜…」
若干まだ目にすると受け入れがたいところがあるが、紗耶も頷いた。
「敵はどうしたんだ?」
橘が訊ねる。
「動けない程度にボコボコにした。死にはしないから大丈夫だろうよ」
そういう茂の服はかえり血で一部赤く染まっているが。
「なんにせよお疲れ様。助かった」
「ま、2人を守るのが俺の義務だからな」
「ありがとね。茂くん」
笑顔でそういう紗耶に、茂も笑って頷き返した。
「じゃあガンガン下に降りていこうぜ」
「うん!」


「……と、やはり制限付きか」
体が元に戻ったイロノは自分の手足を眺めてそう言った。
「まあこの程度の相手なら制限付きでも十分事足りたが」
イロノはちらと後ろを見たが、ほかのアクションは起こさず黙って刀を鞘に納める。
「……よっと」
銀の腕を自分の肩に回して彼の体を引きずるような形にした。
そしてイロノは広場に一切目もくれず階段を降り始めた。


〜しばらくして〜
「……ん」
銀が後ろで声を出す。
どうやら起きたらしい。
「ここは………あ、白!!」
イロノの背から降りて鞘から刀を抜………。
「あぁ!?なんでねーんだ………って、ここはどこだ?」
「はぁぁあ」
イロノが深いため息をつく。
それに気付いた銀はすぐに振り返って彼女の肩を掴んだ。
「イロノ無事だったのか!なんでだ!?いや、そんなことより白のヤローはどこだ?」
「はぁぁああ」
さっきよりも深く、頭に手さえ当ててため息をつく。
それをみた銀のほうは頭にはてなを浮かべていた。
「あやつなら拙者が倒しておいた」
「マジか!お前なかなかやるな」
「…まあな」
いつもなら褒めれば胸を張って鼻を高くするイロノが、今日はそんな様子が見られなかった。
それを見た銀はなにかに対する不信感を抱く。
「殺したりしてないよな?」
軽いトーンで探りをいれる。
一番可能性の低そうなものから訊ねた。
「…………」
「……は?」
イロノは黙ったままうつむいた。
「お前、まさか本当に…」
「……死んではいないはずだ。死に瀕しているのは事実だが」
「お前ッ!…いや、話はあとだ!行くぞ!」
銀は階段を一段上がった。
「は?どこに?」
「決まってんだろォが!白のとこだ!」
訊ねるイロノに銀は怒鳴り付ける。
「い、いや。奴はもう助からないぞ!?第一あいつは敵じゃないか!」
そう言ったイロノを銀はキッと睨み、言い放つ。
「お前が武士だろーがいつの時代に生きてたかは知らねェ。絢音たちの為にはそうするのが賢いのかもしれん。けどな」

「敵だろーが味方だろーが、俺は死にそうになってるやつを放っておけるほど、賢くはねェンだよッ!!」

「!!」

《姉さんがどれだけ人を斬ったか、どんな世界で戦ってきたかは知らない…。けれど、僕は今傷ついている人を放っておくことなんてしてはならないんだよ!》

(薫………)
銀の言葉に遠い過去の記憶よみがえる。
そんなことを思っている間にも銀はずんずんと階段を上っていく。
「ま、待ってくれ銀!」
それを追いかけてイロノも階段を駆け上った。

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