見える先に向かうだけ!
正直きのこの山でもたけのこの里でも、どっちでもいい
真奈美、銀
彼女らは旧校舎の方を調べることになった。
「先生、どこに向かってるの」
真奈美が訊ねる。
それもそうだ。
旧校舎に入ってから銀は真っ直ぐどこかに向かっていたから。
さっきまで黙って付いてきていた真奈美だが、やはり気になって訊ねたわけだ。
「あ?資料室だ。綾戸関連ならあそこだろ」
「……なんで?」
真奈美にはそんなイメージが全くなかった。
というか、旧校舎の中で祐樹に対して抱くイメージなんてあるわけがない。
「あいつが用もないのに資料室に行ってんのを見たことがあんだよ。結局なんの為に行ったのかはわからねーけどよ」
「ふーん…」
見た、というより一緒に入ったのだが。
銀の状況はともかく祐樹がしたことに関してはただしい。
そのことを銀は不思議に思っていたようだ。
と、話していると資料室の前に着いた。
「着いたね。……鍵、持ってるの?」
一度扉に手を掛けたが開かなかった。
ここまで来てなんだが、真奈美は不安になって訊ねる。
「ここの鍵ならねーが、【コレ】ならあるぞ」
片目をつむった銀が、ポケットからなにかを取り出して真奈美に見せる。
そしてそれを鍵穴に刺して回した。

ガチャッ

「……開いた」
軽快な音と共に解錠される。
銀はガラガラと扉を開いた。
「さーて探すぞー」
手を上に伸ばして、部屋に入ろうとする。
「待って!その【鍵】なに?!」
銀が持っていたもの。
特別なものではない。
ただの鍵だ。
「別に名前はねーけど…言うなればマスターキーだな。どんな扉でも開けられる代物だ」
「マスターキー!?なんでそんなもの持ち出してんの!」
マスターキーは普通職員室のどこかに保管されていて、教師に持ち出す権限がある。
銀は教師だからそれでいいのだが、先程まで彼は帰ろうとしていたはず…。
つまり持って帰ろうと………?
「つってもオリジナルじゃねーけど」
オリジナルじゃない……ということは。
「造ったの!?オリジナルからコピーしちゃったの!問題あるでしょ!!」
真奈美が吠えるように銀に食らいつく。
それを彼は静めるように声を抑えていう。
「黙ってりゃバレねーよ」
「そういう問題じゃない!」
そう叫ぶ真奈美を無視して、今度こそ銀は中に入った。
「なにか手掛かりがあるか………」
棚や引き出しを適当に探ってみる。
が、なにもない。
「ないな。……ん?」
銀は歩き回りながら何かに気付いたらしい。
そして真奈美を呼ぶ。
「な、なに?先生」
「コレ見ろ、なんか違和感ねーか?」
「……この棚?」
真奈美が指差すと銀は頷いた。
彼らが見ている棚は、周りより新しい感じはするが中に道具も入っていて特に怪しげではない。
真奈美にはなにが違和感なのかわからなかった。
「ほら、これだけ窓を隠すみたいに変な立て方してるだろ」
「言われてみれば………あ、そういえば」
真奈美が声をあげる。
なにかを思い出したのだろうか。
「?」
「紗耶から聞いたんだけど、ここにはあたしたちの一番始めの担任の先生が書いた落書きがあるとか。あたしは見たことないけど」
それを聞いた銀は一気に興味を失ったのだろう。
くるりと向きを変え、別のところを見始めた。
「なんだよ落書きかよ………」
なんて呟きながら。
「先生、資料室にはなんにもないんじゃないの?」
真奈美が色々なところを調べている銀に言う。
彼は棚の下まで覗き込んで探していた。
「ここになんもなかったら………よっ、と。綾戸の手掛かりは旧校舎にねーよ」
「まあ………旧校舎にあると思ってないけどさ…」
体を起こしながら言う銀に真奈美も静かに返す。
つまり旧校舎を出ようと行っているのが銀には伝わらないらしい。
「なにか…なにかないか………」
棚の裏や引き出しの底を下から見てみたり、もう色々なところを銀は探している。
しかしさすがに疲れたのか、窓辺にもたれかかって休憩し始めた。
「ほら、なにもないよ?先生」
「るせーな。俺の勘がここからなにか見つけられるって言ってんだよ」
そう返すものの、彼はボーと外を見ている。
ちなみに資料室からは体育館が見える。
まあ、裏なのだが。
体育館の後ろは外周用の東門がある。
「体育館…、……?ありゃなんだ?」
体育館の方を眺めていた銀が呟く。
「なに?先生?」
真奈美が銀の元へやって来る。
彼は指を差しながら彼女に訊ねた。
「あれをお前は知ってるか?」
真奈美は指差す方向を見る。
「あれ、って…どれ?」
「裏口の前にあるだろ。扉みたいなのが地面によ」
銀が指差しているのはそれらしい。
よく見ると茶色い扉が地面にあり、まるで地下への入り口のようだった。
「なんだろ………あたしは知らない」
「……そうか。一回見に行ってみるか」


資料室の横に階段がある。
そこを降りるとすぐ近くに出口があるので旧校舎を出る。
東門が横にあるのを横目に見ながら体育館の裏口にいく。
と、その時。
「銀!」
誰かが彼の名を呼んだ。
銀は呼ばれた方向に振り返った。
「誰だ?…………げっ!」
振り返り、呼んだ本人を確認した瞬間、銀は表情を曇らせる。
げっ、なんて言ってるからそれはわかるだろう。
「なんだ銀!拙者がいたら悪いのか!」
銀はそちらの方へつかつかと歩みより怒鳴る。
「悪いに決まってらァ!イロノ!テメーなんでこんなところにいやがンだよッ!」
イロノ。
ここ最近出ていなかったが健在です。
「栞奈がいくら電話しても出ないから様子を見に来たのだ!何故出ぬのだ!」
東門の向こうから彼女はそう叫ぶ。
「え…」
銀は急いでケータイを見る。
着信履歴に栞奈の名前が並んでいた。
さっきまでテストの監督をしていたからサイレントマナーのままだったのだ。
「仕事が増えたから夜になるって言ってこい!俺ァ忙しいんだ!」
「知らぬ!」
イロノはひょいと跳んで門に捕まると、身軽に体を持ち上げて門を乗り越えてきた。
「実は無理を言って拙者もここにやって来たのだ。おもしろそうなことをしているから参加させてもらうぞ」
「は?つーか『拙者』って言うな、『私』だ」
「わ、わかった」
銀に注意されて少し小さくなるイロノ。
そこで真奈美は訊ねる。
「先生、この子誰?」
真奈美にとっては初対面だ。
銀はもしもの時のために用意しておいた言い訳をすることにした。
「こいつはイロノだ。栞奈、あの喫茶店のマスターの親戚の子どもなんだが…今あいつが預かってんだよ」
「へぇ〜」
「うむ。よろしく頼む」
イロノは紹介されて頭を下げた。
実はこの作業は何度か繰り返しているから、もう当たり前のやり取りになっている。
「ほらイロノ。そこをまっすぐ言って曲がった所に門がある。そこから帰れ」
「嫌だ!」
帰れと言う一言を聞いてイロノの目がキツくなった。
銀を睨み付けて、それを見ている真奈美でさえ気圧されそうだった。
「せっ…私はあの店だけでは退屈なのだ!邪魔はせぬ!頼む!」
「駄目だ。帰れ」
イロノは銀を睨んだまま動かない。
「まずその肩からぶら下げてんのを置いてこい。そんなあぶねーもん振り回してンじゃねェよ」
「抜き身ではない。しっかり鞘に入れてあるから大丈夫だ」
そう言えば、と真奈美がイロノの肩からたすき掛けで持ち歩いているのを見つける。
見た感じ百均などで売ってる刀のおもちゃのようだ。
「先生いいんじゃない?おもちゃぶら下げた子どもくらいならどうにかなるよ」
綾戸の手掛かりを見つけてもすぐに突っ込むわけじゃないしね、と加える。
(そもそもおもちゃじゃねーし…ただの子どもでもないんだがな………)
銀は苦笑を浮かべてイロノを見る。
未だに彼女は銀を睨んでいた。
「はぁぁ………田代が賛成なら連れてってやるよ…。ないとは思うが変なことすんなよ」
「うぬ!了解だ!」

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