見える先に向かうだけ!
なぜか小学校はシャーペン禁止
「玲の奴大丈夫か………」
橘は彼の飛んでいった方向を見て呟いた。
「【チカラ】の消滅は感じませんでしたから死んだり重傷を負ったりはしてないようですけど…」
楓が心配そうな顔で言う。
「なんだかんだであいつの体も中々に丈夫だから平気だろ、多分」
「多分、って付ける辺り茂もそんなに丈夫だと思ってないんだね」
優奈が言うと茂は苦笑いで返した。
「あ、あれ玲じゃないか?」
橘が言った。
皆がそちらを見る。
なるほど、玲だ。
「けど後ろに誰かいないか………?」
茂が目を細めて見ながら言った。
彼からすると見覚えがなくて当然かもしれない。
「おーい!玲くーん!」
優奈がぴょんぴょん跳ねながら手を振る。
それに気付いたのか、玲も振り返した。

「玲、あの子誰。……まさか彼女!?」
「違うよ!!」
真奈美が優奈を見て言った。
つい大声で玲は言い返す。
その反応がまた中途半端にムキになっているようで………。
そうこうしているとすぐに彼らの元に付いた。
「大丈夫だった?玲くん」
「うん。なんとかなったよ」
心配そうに彼の体を見る優奈に、少し照れたように玲は言った。
「あれ?優奈さん?」
「ん?」
紗耶が優奈を見て言う。
言われた彼女も紗耶を見る。
「あ、紗耶ちゃん!久しぶりだね!」
優奈は表情を一変させて笑顔になった。
「誰?」
真奈美が紗耶に訊ねる。
「あ、紹介するね。祐樹の従姉の綾戸優奈さん。で、その隣が佐藤茂くん。祐樹のおじいちゃんの家の方の友達だよ」
「よろしくね!えーと…」
優奈が真奈美を見つめて言葉を詰まらせる。
「あ、あたしは田代真奈美。真奈美って呼んでくれていいよ」
「そっか。よろしくね真奈美ちゃん!」
彼女の笑顔につられて真奈美も笑顔になった。
「で、玲。なんで連れてきた」
橘が玲に言う。
「な、なんでって、そりゃあ今日も綾戸くん探しをだね………」
「違うでしょ、玲」
「はい」
真奈美の一言で一気に沈黙する玲。
「あたし達はここに来る途中で玲と会ったの。……空を飛んでくる玲とね」
「「「!!」」」
橘と茂、優奈が驚いた顔になる。
楓は予想はついていたのか顔色は変わらないままだった。
「どういうことか説明してくれないかしら?玲」
真奈美がさらに続けて言う。
「(どうすんだよ玲!!)」
「どうするって。もう話すよ」
「本気か!?」
大声を上げて橘が言った。
優奈と茂がそちらを見る。
真奈美と楓は顔色を変えず、紗耶はちょっとずつ不安そうな顔になっていた。
「本気だよ。真奈美、ちょっと待っててね」
玲と橘、茂と優奈は彼女らから少し離れたところにいく。
「どうしたんだ?」
「いや、玲が2人に……」

〜説明中〜

「……なるほどな」
説明を聞き終えた茂が頷く。
説明したことをまとめるとこうだ。
「あの2人は超能力のことなんて一切知らなくて、ひろくんはそれを知らせたくないってわけだね」
「まあそうだね」
「けどなんで2人に話そうと思ったの?」
優奈が玲に問う。
「2人もそろそろ勘づき初めてる。だから隠すのも限界かなって。それに……」
「?」
玲はそこで言葉を止める。
そしてチラッと楓を見た。
彼女らはまだ玲たちを待っていた。
「それに、絢音さんがもう話しても良いだろうって」
「…………ふむ」
茂が顎に手を当てて呟く。
続けて優奈がこう言う。
「私達はおじいちゃんから楓ちゃんの価値を聞いた。だからこそわかる。彼女の選択に間違いはない、ってね。だから玲くんも納得したんだよね」
玲は頷いた。
もうこの場はほとんど決まっている。
「そういうこと。だから僕は話すよ。いい?優一」
「……多数決で勝てそうな気がしないからな」
橘はやれやれと言った様子でうっすらと笑みを浮かべた。
これで満場一致と言うわけだ。
玲は皆を見て、一度だけ頷いてから真奈美達の元へ戻る。
「おかえり。話してくれんのよね?」
「うん」
彼女の言葉に玲は頷く。
「真奈美、高梨さん……僕達は君達の中にある常識を一気に覆す世界の中にいる。それは俗に言う超能力と言うものだ」
「…………」
紗耶も真奈美も静かに聞く。
「僕らが今まで話さなかったのは君たちが巻き込まれるのが嫌だったから。特に綾戸くんがそれを嫌がった。本当に危ない世界なんだ」
「……ってに…」
真奈美がボソッとなにかを呟く。
「なんだい?」
「勝手に決めつけないでって言ってんのよ!」
彼女はいきなりそう怒鳴った。
彼女らの為を思っていただけに、そんなことを言われるとは思わなかった玲は驚いてしまった。
「か、勝手にって…僕達は真奈美達を危ない目に合わせたくなくて!」
「あんた待たされる側の気持ちがわかる?!何も知らずに待たされる苦しさを知ってんの!?そんなのを味わうくらいなら一緒に危ない目に合う方がマシよ!!」
「なにを言って!……あ」
玲が大声で言い返そうとして、気付く。
真奈美が目に涙を溜めて怒っていることに。
「あんた達が勝手に巻き込みたくない、なんて思ってたせいで、あたし達がどれだけ苦しんだか…!あたしはまだいい。紗耶は……紗耶はどれだけしんどかったと思ってんの!」
真奈美の叫びを聞いて、玲はハッと紗耶を見た。
そして彼女が口を開く。
「ありがとう真奈美、もういいよ。…………涼風くん」
「な、なにかな」
玲は何を言われてもいいように身構える。
どんな酷いことを言われてもいいと、そう覚悟して。
「……もうちょっと早く…言ってほしかったな」
「!!」
そう告げながら彼女は涙を浮かべ、しかし微笑みまでも浮かべた。
この反応をまったく予想していなかった玲はまた驚いて固まってしまった。
もっともっと酷いことを怒鳴られると思っていた。
彼女にはそれを言う権利がある。
そう予想してただけに、この落ち着いた紗耶の言葉は衝撃だった。
だから玲は言葉を詰まらせ、どう声を掛ければいいかさえもわからなくなってしまったのだ。
「ご……ごめん…………」
やっとのことで絞り出したのはそれだけだった。
それだけだったが、彼なりに全ての思いを乗せた一言だ。
「ううん、いいよ。皆が私たちのことを思ってくれてたのは嬉しいよ。……だけど、やっぱり寂しかったな」
紗耶は心中を吐露した。
「綾戸くんは君たちを巻き込むのを本当に嫌がってたんだ。彼の気持ちはわかってあげてね…」
「うん」
玲の言葉に彼女は今までよりも綺麗な笑顔で答えてみせた。
「あんたもよ、優一」
「はい、ごめんなさい」

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