見える先に向かうだけ!
くしゃみが出そうで出ないときのイライラ
(奴の能力はわからねぇ……あの巨体の癖に素早い動き、いつの間にか現れてる不思議な現象、なによりもハンパじゃないパワー…)
祐樹は剛と距離を取りながら分析する。
(とにかく、どの能力が聞くか試してみるか………)
そう考え、右手を剛に向ける。
「あ?」
剛は首をひねるが動かない。
油断しているようだ。
(まずは水だ!)
「ハァッ!」
祐樹の右手から水が放たれる。
それはもの凄い勢いで進む。
水の噴射は岩をも切断することが可能だ。
祐樹の出した水はそれよりも噴射の威力が高い。
さすがに細い線で出しているわけではないので切断は出来なくとも、大打撃くらいになるはずだ。
「食らえッ!」
祐樹が声を発した時、水は剛の体に届いた。


ズシャァァァアアア


大きな音を立てて水しぶきが散る。
端から見れば剛の体が弾けたようにも見える。
が、しかし。
(手応えがない……!)
そう思い祐樹は攻撃を止める。
すぐに水しぶきは晴れた。
「こりゃ水鉄砲かァ?」
そこにはなんの変化もない剛がいた。
変化と言えば髪が濡れているのと、勢いで服の前の部分が破れているくらいだ。
ダメージを受けた様子はない。
「チッ」
水では無理だ。
あの勢いでどこも傷付いていないと言うことは、斬ることもできないだろう。
(そのまま凍らせてみるか…)
次は凍らせてみることにする。
祐樹は足を能力で強化してから走り出す。
「う゛ぉぉぉおおおい!なかなか早ェじゃねーか!」
一瞬で奴の懐まで間合いを踏み込む。
剛は愉快そうに笑っていた。
「そりゃどうも…」
祐樹は返事を返しながら剛の体に触れる。
そして触れた瞬間に剛の体もろとも氷の塊で覆った。。
「ッ!」
剛は驚いたように目を開き、しかし固まっているので動けない。
(このまま圧迫してやる…!)
メシメシと音を立てて剛を覆う氷が彼の体を締め付ける。

メシメシメシ……

どんどん圧迫していく。
限界に近いのか氷の端にひびが入る。
しかし剛は動かない。
凍らせられているから当たり前と言えば当たり前だが、祐樹は違和感を感じていた。
「どうしたよ。抵抗はしないのか?」
そう声を掛けてみる。
しかしなんの反応もない。
さらに圧迫する。
(おいおいもう氷が割れるぞ…)
そう思った瞬間に氷が砕けた。
「クソッ!」
剛の体は残っている。
そして口を開く。
「冷蔵庫の方がいくらかマシだなァ?」
(まったくダメージがない!?)
剛は体に付いた破片を払っている。
相当な力を掛けたはずなのにどこにもダメージがあるようには見えなかった。
(なら……)
「電撃ッ!」
全身にフルパワーで能力を溜め、そして剛に向かって一気に放電した。
「う゛ぉぉぉおおおい!静電気に真似事かァ!?」
彼がそう言い終わるのと同時に電撃が剛に直撃した。
「グァァァアアアア!」
(効いたか!?)
初めて彼にダメージを与えられたのかもしれない。
祐樹は電撃を放出し続けた。
「グァァァアアアア!………なんて、な」
苦痛に歪んだ剛の表情が先程のいやらしい笑みに変わる。
「バカにしやがって………」
出せる手は全て出したと思う。
もう祐樹はなにをすればいいのかわからなかった。
「おぉいッ!もう終わりかァ!ならこっちから行くぞ!!」
「ッ!!」
剛が一瞬で祐樹の真ん前に現れた。
あまりの速さに祐樹の反応が遅れる。
(ん?なんか焦げ臭……)
「フンッ!」
剛の拳が祐樹の頭をぶん殴る。
「う…あ………」
祐樹は倒れ、激しい痛みのせいでろくに声も出せなかった。
世界が暗転する。
鈍痛が響き体が重い。
(だ…めだ………このままじゃ…)
かろうじて残る意識を集中して足に能力を込める。
その力で祐樹は立ち上がり、また体勢を取り直した。
「う゛ぉぉぉおおおい!これで倒れてたら拍子抜けだったぜ器よォ!次は殺す気で行くぜ?」
「へ…へへ………。あんたらは…俺を殺せない……このゆうきってのが俺の中に入る……から…」
祐樹はまだ揺れる視界の中、なんとか踏ん張りながら言葉を紡ぐ。
彼の意識をしっかりする時間を稼ぐために。
「あ?なに言ってんだ?お前の体なんざいくらでも作れるっての」
「…………」
時間稼ぎにもなりそうになかった。
まだ意識がはっきりとしないが能力を使うほか無さそうだ。
「……くっ」
右足に能力を込める。
強化して一回の蹴りで剛の所まで跳ぶのだ。
「はァッ!」
一気に蹴り出す。
勢いでそのまま一直線に剛のところまで届きそうだ。
進みながら次は右手にフルパワーで能力を溜める。
そして勢いのままに右腕を振るった。
「フンッ!」
剛が右腕で受けようとする。
「グッ!」
バチン!と大きな音を立てて互いの腕がぶつかる。
祐樹はぶつかっても腕を振るのをやめず、投げるようなフォームで腕を振り直した。
そして剛の体が向こうに飛んでいく。
(投げることならできんのか!)
拳を剛の右腕に引っ掛けて投げるようなイメージだった。
彼は受け身のままだったので飛んでいっても綺麗に着地する。
「う゛ぉぉぉおおおい!面白ェことすんじゃねェか!」
剛は嬉しそうに笑う。
そしてまた祐樹前に現れた。
「!」
「次はオレだァ!」
そう言って腕を振る。
今度は反応が遅れなかったため、祐樹は剛の攻撃を見切れた。
(正面から向かえば負ける…)
そう考え、彼の腕を抱えて受け流すように投げる。
「……チッ」
この時、初めて剛は尻餅をついた。
「う゛ぉぉぉおおおい!やってくれたなァッ!」
剛が叫びながら立ち上がる。
祐樹は返答もせずまた剛の懐に潜り、今度は右足で横っ腹を蹴った。
また引っ掛けるようにして蹴り飛ばす。
「て…めェ…!!」
剛は怒ったように呟き、空中でまた着地の体勢を取る。
が、今度は祐樹も対策をしていた。
地面に手をつき、氷を張る。
「なにッ」
小さく声を出すが、足を滑らせて転けた。
(この方法なら奴の体重を利用出来るからダメージは今までより多いはずだ!)
「………クソ野郎…」
剛は本当にキレたのか、今までにない眼力で祐樹を睨み付けた。
そして足を滑らせないように静かに立ち上がる。
「壊さないようにってのはもう本当に無理みてェだァ…」
そう呟き、ぐっ、と足を踏ん張った。
(来る!)
祐樹は直感でそう感じ、一瞬で自分の四方に厚い氷の壁を立てる。

バリィッ!

まるで紙を破くような音が祐樹の正面から聞こえた。
「な……」
あまりの驚きに声をしっかり出せない。
そうだ。
既に氷を砕いて剛が目の前に立っていた。
「う゛ぉぉぉおお!」
そして祐樹の頭を掴み、地面に叩きつけた。
さらに彼の体に跨がり、顔面を殴る。
一発、二発。
何発も拳が刺さる。
(だ…めだ………このままじゃ………紗耶…)
ふと、紗耶のことが浮かぶ。
彼女は勘が良い。
もしかするとまた心配させているかもしれない。
早く帰らなければならないのだが………。
(こんなに強い……奴に……)
ドンドン意識が遠退いていく。
「オラオラオラオラ!!」
剛は攻撃をやめない。
視界はもうほとんど霞んでいてうっすらしか見えなかった。
(も…む………かえ…で……)
意識が落ちる瞬間、体から重さが消えたような気がした。

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あきゅろす。
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