見える先に向かうだけ!
リーテ・ラトバリタ・ウルス……覚えてるか!
「その前に」
説明を始めようとする真乃華を止める。
「なんじゃ?」
「俺たちは土地勘なんて皆無だ。【導きの光】じゃ駄目なのか?」
「ああ」
真乃華はなんとなくだが察した。
ただ道を教える、人間がよくやるやり方だと祐樹は思っているらしいんだと。
「【導きの光】は使うものが行き先を知ってる必要があるんじゃ。あの小娘は出口を知っていたから使えたし、先は地図の知識とてれびで見たものをいかして使っていた」
「ああ、だから楓は地図を……」
「だから会ってもらいたいあいつの場所を知らないお前様たちじゃ無理なのじゃ」
「じゃあどうすんだよ」
祐樹は少し不満げに言った。
「わしが案内するに決まっておろう」
「……まあそうなるよな。でも橘はともかく、烏田にはあんまり知らせたくないんだが」
「わがままな奴め……」
呟いて真乃華は指を結んだ。
忍者がするような、あの人差し指を、握るあれ。
「真乃華、なにしてーーー」
真乃華の体が少し光る。
そして
「猫………?」
猫が現れた。
「にゃーん」
「真乃華…なのか?」
「そうじゃ」
「うわっ、しゃべった!」白とどことなく赤い縞の入った猫は口を開いた。
よく見ると指の先から青い光がどこかに伸びていた。
「それがその人の居場所を指しているのか?」
「うむ、じゃから早く行こ……な、なにをするんじゃ!」
「いや、猫ってあんま抱いたことなかったから」
前足の付け根を持って抱き上げ、右腕に体を丸めるようにして持った。
「拾った、って言えばどうにかなるかもな」
「は、離せ!離すんじゃ!」
「引っ掻いたら承知しないからな」
祐樹は銀の元へまた戻っていった。

「じゃ、俺の用事の所へ行って良いか?」
「ん?ああ……なんだその猫」
振り向いた銀は顔をしかめた。
「拾ったんだ。異常になつかれちまってよ」
「ふーん……」
銀は祐樹の抱く猫と目線を合わせた。
「……お前も馬鹿だな。綾戸なんかより絢音の方に行けばよかったもんを……」
「ニャッ」
少し怒ったように猫は銀の顔を引っ掻いた。
「ってぇな!この猫!」
「えと、気難しい奴だから勘弁してやってくれ」
「なんでそんなに知ってんだよ……」
橘がボソッと呟いた。
「橘さん、聞いてはいけないことも世の中にはあるんです」
「そ、そうなんだ……」
その時祐樹の手から猫が飛び降りた。
「じゃ、行くか」
祐樹が猫について歩きだした。
「行きましょうか」
楓が歩き出すと二人も歩き始めた。

「どこまで行くんだよ真乃華……」
「にゃあ」
どことなくいやらしい笑みを浮かべた気がした。
しばらく歩くと一軒の家が見えてきた。
「ん?こんなところに……小屋にしてはでかいか?」
銀が言った。
「ここか?真乃華」
「ニャン」
そうだ、と言うように真乃華は鳴き返した。
「そうか、じゃあさっそく……」
祐樹はその家に向かって駆け出した。
そして
コンコン
と、ノックした。
「………」
1分くらい待ったが誰も出てこない。
祐樹はもう一度ノックした。
「………人?」
扉が少し開いて声がした。
(女?)
厳重にチェーンがついている。
そんなに警戒する必要があるのか、と祐樹は思った。
「用は何」
「にゃん」
後から来ていた真乃華がひょい、っと家のなかへ入った。
「あ、こら猫!」
バタン、っと扉が閉まった。
「お、おい?」
中からドタドタ音がする。
真乃華の鳴き声と女の叫びが同時に聞こえたりもした。
しばらくして中は静かになった。
「………」
数分後また扉が開き、女が出てきた。
「あ、ちょっと待ってくださいね」
ガチャガチャとチェーンを外す音が聞こえる。
「どうぞ、上がってください」
「え、あ、どうも…?」
「大丈夫です、真乃華から話は聞きましたから」
女は祐樹のほんの少しの警戒を察したのか、そう言った。
「真乃華って名前、貴方が付けたんですよね?」
「?ああ」
「彼女が認めたなんてねぇ………。あ、とりあえず上がっちゃってください。ほら、後ろの方々も」
「あ、はい。お邪魔します」


「じゃあ皆さんはここで、祐樹さんはこちらに来てください」
「ん」
楓たちは1つの部屋に案内され、祐樹は別室へ連れていかれた。
「猫さんもこっちに来ますか?」
「にゃぁ」
真乃華もとことこと少女についていった。
「ではここでお話しましょうか」
祐樹が連れられたのは和室だった。
座布団にあぐらをかいて座る。
「では私の名前から。私は森林緑と言います」
「ブッ」
慌てて口を押さえる。
(笑っちゃダメだ!)
祐樹は必死に笑いをこらえる。
「環境に優しそうな名前じゃろ」
「ブフッ!」
つい吹き出してしまう。
真乃華は元の姿に戻り、いやらしく笑っていた。
「………はぁ。話に入りますよ」
緑は呆れたように言った。
「真乃華……でいいんだよね」
「ああ、わしの名は真乃華じゃ」
「じゃあ真乃華、彼をここに連れてきた理由は?」
とりあえず緑は真乃華に訊ねた。
「お前達の【チカラ】がいずれ必要になるからの。だから今のうちにいつでも声をかけられるようにしておこうと思ってな」
「はぁ……。じゃあ今はまだ人員集め中?」
「まあそうじゃな」
「はぁ……」
緑はさっきから溜め息ばかり吐いている気がする。
祐樹も話が理解できなくて溜め息を吐くばかりだった。

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