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時の戦士
時の戦士 11









時折、ドアの中から虫の息のような声が聞こえてくる。

ナナリーがまだドアを開けようとせずに、そこへ立ち尽くしていたアレンを突き飛ばした。

いい加減ドアを開けようとしないので、ナナリーはアレンにいらついていた。

ぴくっと眉を震わせて、細長い指を、アレンの無数の生命線が通る所へ動かす。

生命線ーそれはすなわち動脈がたくさん通る、首筋の頸動脈だった。

そこを鋭利な刃物またはペンでさされると、ピンポイントだった場合出血し、出血多量で三分で死に至る。

アレンの顔色がさーっと真っ青になる。その顔はまるで深海のごとく、唇をふるふると震わせてナナリーを見上げていた。


ナナリーはそんなアレンの様子が楽しいらしく、さっきよりもにやにやとした顔でアレンの肩を掴んだ。


「ひ…っ」

アレンが声にもならないような…悲痛な叫びを発した。



「おおアレン。私の美しい爪を見よ。これはな伸縮自在でな。ほら」


ナナリーはそう言うと、肩を掴んでない方の手をアレンの顔の前に出した。

アレンは金縛りに掛かったように一歩も動けない。玉のような汗がアレンの額を通っていく。


爪がゴムのようにびょ〜んと伸びていった。

まだ柔らかいらしい。ナナリーの顔は、女神のように穏やかでにこにこしてた。


「ふっ!」


ナナリーの顔が鬼神のようになり、柔らかい爪が一瞬のうちに刃物になった。


アレンはそれを見て茫然自失になっていた。

恐ろしい…








ナナリーがまだ柔らかい爪をつんつんとアレンの首筋をつつく。


「何のためにここに来たのだ?ララミーの差し出したあやつは…ここにある宝石類が欲しいとぬかしおったな。」







あやつ…?


ドミトリーかな?







「アレンもあやつのように宝石類が欲しいのか?それなら…」

つんつんとつついていた爪が硬度を増していく










つんつんがつぷつぷになるように、アレンの首筋を引っ掻いていた。


「あやつは私の胸元にあった水晶石の鍵を飲み込んだのだ。来て早々すぐにな。あの鍵がないと宝石類も取れないというのにな…」





鍵…
ララミーはナナリーの鍵が欲しいと言ってたな…


水晶石の鍵かな?









「俺は…宝石類なんか欲しくない。ジェラルドと鍵を返して欲しいだけだ。」


「鍵?どのような鍵だ?ジェラルドは後ろにいるが…」


ナナリーが不思議そうな顔をして首をかしげた。

首をかしげると、真っ黒な黒髪が綺麗になびく。



「え…と、時間の神の残した箱の鍵。それが欲しい。」


「…なるほど。ではお前がこのオギー沼を救ってくれるのか?鍵はオギー沼の中にある。」



「ではどうやって取れば…!」


「簡単だ。浄化せよ。それにはララミーのウォータールカが要るがな。」


そう言うとナナリーはくっくっと笑った。

刃物のような爪を元に戻して、ドアの近くにいる水魔をてまねいた。

とんがった耳にくりくりとした目を持った小さな子供がとことこと、ナナリーの所へ来ようとする。

ナナリーが

「待て。あやつを連れてこい。」

水魔はこくんと頷いて、木の古ぼけたドアに近寄りてきぱきと開ける。

そこには顔を血だらけにして縛られてるドミトリーがいた。







「アレン。ウォータールカがないと浄化出来ない。ウォータールカの持ち主はララミーだ。ララミーはオギー沼に来れない。浄化しない限りな。」

「待ってくれ…。俺はウォータールカを持っている…ララミーに貰ったんだ。使えるか?」


ナナリーはそれを聞くとかっと目を見開き、爪を高速で伸ばしていった。それが一瞬のうちに刃物に変わる。



それはドミトリーの近くにいた水魔の腹に当たる。とぷとぷと水のような水色の血が流れ出る。


水魔は口をぱくぱくとしながら、床に崩れ落ちた。






「ウォータールカを…そうか。この話は水魔の前でするな。水魔はウォータールカを欲しがっている。」


ナナリーが悲しそうに言う。


「ウォータールカをどうしたら?ドミトリーとジェラルドを解放してくれる?」



「ジェラルド…はオギー沼を浄化しようとしたが、失敗したから鎖に繋げた。ただそれだけのこと。ドミトリーは…ふっ」


ナナリーは小さく笑うと、一番大きなドアにつかつかと歩み寄った。

取っ手に細長い指を絡めて、ぎいいとけたましい音を立てて、ドアを開けるナナリー。


ドアの先には土で出来たトンネルがあり、無数のランプがぶら下がっている。

幻想的な灯りを灯していた。


ナナリーがトンネルの中に入って、こっちを見た。

「水の神のご加護を受けたし…全てを貴方へ。水よ。全て水に還るのだ。」


そう言うと、まず、ジェラルドとドミトリーの鎖が切れた。

ジェラルドは顔面蒼白になり、ナナリーのいるトンネルに駆け込んだ。

ドミトリーは近くにあった宝石類を漁っていた。


なんだか 床が 柔らかくなった?



ナナリーが澄ました顔をして、ジェラルドを蹴りあげる。

手をアレンの方へ伸ばすと

「この部屋はあと一分で崩れ去る。全て水に還るのだ…。あっはっははは!」










トンネル内にナナリーの甲高い笑い声が響き渡る。





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