諸星千鶴の悲劇
僕の名前は諸星千鶴(もろぼしちずる)
この名前を知っている人は、今きっとこう思ってるだろう。
諸星!え、うそ!?
顔はジャニーズ顔負けの美少年で元東鳩山中学校バスケ部キャプテン、中三の時に県MVP選手に選ばれたあの諸星くん!!?
お父様は私立病院の医院長でお母様は華道の先生
本人も、医大を目指して、現在県一の進学校、樫木高校で常に上位3位以内をキープしてる、あの諸星千鶴くん!!
ああ、困る、僕はただ僕らしく生きてるだけなのに、みんな僕の一挙一動に興味深々過ぎて困る!
日曜日、今日も、ただ僕は、クラスメートであり、付き合って一ヶ月のガールフレンドでもある徳永さんとファミレスで勉強してるだけなのに
ああ、こんなに若者が多い場所に来るべきではなかった。
右隣に座っている、三人組の女子高生達も
目の前奥に座っている、ケータイを打ちつつこっちに視線を送ってくる女の子も
そんなに、僕の事が気になるのかな・・
私服、話の内容、愛用のシャーペンの芯?
気持ちは分かる、僕だって、僕が自分じゃなかったら、目の前に本物の諸星千鶴が現れたらきっと
「あー腹減った、ヒコなんにすんの?」
「海老&カキフライ定食」
「メニュー見ねえのかよ、あ灰皿とって」
「あはは、ここのメニューも全部覚えちゃった、たあ決まったら教えて、ボタン押すから」
目の前奥でケータイをいじる女の子が僕に、まるで、避けろ!と手でジェスチャーのような真似をしてきて不審に思っていたら
背後から聞こえてきてしまった。
振り向かなくても、間違いない。
この声は、完璧な僕の人生から唯一葬った
あいつら、二人の声だ!!
【諸星千鶴の悲劇】
僕の中学時代は、さっきも言った通り、輝きに満ち溢れていた。
頭脳明晰、スポーツ万能、容赦端麗、もちろん女の子からも掃いて捨てる程ラブレターを貰っていた。
暴力や傲慢さで、人を無理矢理従わせる、不良共とは違い、みんなの視線に含まれる僕への羨望や憧れは本物だった。
そんな僕が、中学時代一度、たった一度だけ周囲から云われの無い批判を受けてしまった過去がある
そう、それは忘れもしない、中学二年の時の球技大会。
種目はバレーボール、僕はバスケ部だったが、生まれながらの優れた運動神経で、バレーボールも華麗にこなし、クラスを引っ張っていく存在だった。
僕が考え尽くしたフォーメーションでクラスは準決勝まで進み、その2セット目
この試合以前にも、僕はミスしたチームメイトに声を掛け、出来るだけ次からのミスを防ごうと尽くしていた。
だから、あいつの時も同じように、注意しただけなのに
サーブミスをした後、バツが悪そうにごまかして笑った
クラスメートの
坂井俊彦
今まで通りに一言声を掛けただけなんだ!
「坂井くん!真面目にやってくれよ!」
僕が奴に向かって言葉を掛けた直後、応援席からはまるでワールドカップで敵チームにゴールを決められた時のようなブーイングとペットボトルや空の弁当の箱など無数の物が僕に向かって投げ付けられた!
あいつは今サーブミスをしたんだぞ!
今まで誰に何といおうと、諸星くん!頑張って!みたいな言葉しか飛んでこなかった僕が、なぜ坂井俊彦に注意しただけでこんな目に!
分かってる、分かってるさ!
奴が鳩中のパーフェクトと呼ばれてる事くらい!
女子の暇つぶしで行われてる人気投票で、奴と300票差で僕が二位な事くらい!
だけど、学年テストじゃ、僕が一位で奴が二位!
家だって僕は私立病院、奴はどこにでもあるようなサラリーマン家庭!
僕は毎日バスケ部で心身共に鍛えているが、奴は帰宅部で不良まがいな連中(坂黒らんの事でしょうか)達と釣るんでいる!
なんであんなイケメンだけの奴がパーフェクトで、オレはいつまでたっても坂井くんのライバル笑なんだ!
笑、ってなんなんだ!
坂井俊彦、奴さえいなければ僕の中学時代はきっと鳩中の伝説に残るような物になってたに違いない・・
そんな想いに心を痛めていた時期もあったが、今は違う
時は正しい者に味方し、現在僕は県一の進学校、樫木に通い、奴は県で最低最悪卒業しても履歴書に傷がつくだけの馬鹿高、赤部中央だ
結局の所、どっちが勝ったなんて一目瞭然。
中学レベルの人間の位置付けなんて、お遊びのような物だ。
高校に進学してからは、僕は本来あるべき評価を取り戻し、坂井のさの字も思い出す事無く過ごしていたのに
くそ!よりにもよって、徳永さんと一緒の時に、なぜ坂井俊彦が現れるんだ
「あ、すみませーん、お水二つ下さい」
「あ!!!ハイただ今!!すぐ、今すぐお持ち致しますね!」
「何今のウエートレス、首から脇辺りにかけてがスゲータイプ」
「あ、戸田さん?」
「ヒコ、おめー何で名前知ってんだよ」
「名前だけじゃなくて、指輪のサイズとか視力とか、戸田さん、注文聞きに来る度に自己紹介してくるんだよ、おもろいだろ?このファミレス!」
「おい、次戸田さんのケータイ聞いて!」
僕が、中学時代の回想に更けている間、後ろのテーブルにはもう注文した品が届いているようで、かちゃかちゃと食器がぶつかる音が聞こえてくる。
まだ二人は僕が目の前の席に居る事に気付いてないようだ。
このまましばらく目立たないようにしていれば、奴らは食事を終えて帰るかもしれない。
幸運な事に、徳永さんは問3に集中していて、奴らの方に視線を向けていない。
他の客からはどんなに視線を集めようと、奴ら、奴ら二人にだけは、僕が諸星千鶴だと気付かれないようにするんだ!
諸星千鶴だと、気付かれるわけにはいかない!!
続く!
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