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ケンの秘密
どうも、ケンです。二人っ子長男妹一人です。
自分で言うのもなんですが、うちの家族はとても円満です。
でも、結構みんなさばさばしているので親も放任主義です。
そんな環境で元気に育っていたオレですが、一つだけトラウマになった幼い頃の記憶があるんです。

そいつのせいで、オレは未だ、あんまり人に言いたくない癖が出てしまう事しばしばなんです。





【ケンの秘密】




小さい頃から飽きっぽかったオレが、一つだけとりつかれたように夢中になったものがあった。


それはオレが幼稚園の頃にテレビで放送されて流行っていた、特撮のヒーロー、「ソルトマン」だった。


ソルトマンって奴は、名前の通り岩塩から生まれたっていう設定で、塩水と掛けているのか知らないが戦いが終わったら助けた相手がお礼を言う前に素早い動きで海に帰っていくという、なんともクールなヒーローだった。



子供の頃のオレはそいつに異常な程憧れ、崇拝し、熱狂的に酔いしれていた。


だから、大人から将来何になりたいの?と聞かれたら、そんなわかり切った事を、とでもいうような生意気な態度で必ずこう答えた。


「ソルトマンになる!」



子供って無邪気ですねー、毎週岩塩から出て来て暴れて海に帰る仕事に就きたいなんて。


そう、この程度ならまだまだほほえましい思い出なんだが、だんだんとオレは一刻も早くソルトマンになりたくてソルトマンへの愛が最高潮に達していた時期には、もう自分自身の名前をソルトマンに脳内ですり替えていた。



例えば、かーちゃんと、どっかに出掛けたときに、偶然会ったかーちゃんの知り合いの大人に名前を尋ねられたときなど


「まー可愛いぼっちゃんねー。お名前なんていうのー?」


「なまえ?そるとまーん」

「そる?」



うちのかーちゃんは元々教育熱心な母親とは違ったので、オレがこんなトンチンカンな事を言ってもあんまり叱ったりはしなかった。


「すみません〜、なんかこの子いまテレビのヒーローに嵌まっちゃってるみたいで、まあ主人に似て飽きっぽいからすぐ飽きると思うんですけど〜」



「まーあそうなの〜かわいらしいですね〜ほほほ。」


そう、あの日までは。



かーちゃんに怒られない事に味をしめたオレはどんどん自称ソルトマンをエスカレートさせていった。


そんなオレに天罰が下ったのは、幼稚園でスケッチ大会の時に描いた絵が返されたその日だった。


先生は一人一人名前を呼んで絵を返して言ったのだか、一人だけどんな大声で名前を呼んでもシカトをこく小生意気な児童が居たのだ。


そう、オレである


「ケンちゃん!高柳ケンちゃん!早く取りにきなさーい!」


「違うもーん、オレそるとまんだから〜」


ヘラヘラとしながらいまつでも馬鹿を言っているオレに先生は痺れを切らし、連絡帳にこの日の出来事と注意書きを添えてかーちゃんに渡したのだった。


オレの悪夢はここから始まった。



その日の帰り道、いつもより口数が少ないかーちゃんを不思議に感じていたオレだったが、まだまだそんな事より早く帰って夕方5時から始まる「ソルトマン」を見る事で頭がいっぱいであった。



そんなオレを家に到着してすぐ、かーちゃんは力一杯のゲンコツで殴った。



「正座ー!!!!!」


「は?ひぃー!!?」



オレは痛みに悶える暇も与えられず、問答無用でリビングルームに正座させられた。



「ケン!!あんた先生を困らせんじゃない!日常生活に支障きたす程塩に嵌まってんじゃねーよ!!!」


「し、しお・・?!」



「あんたの名前はケンくん!たかやなぎけん!ハイ。言ってみなさい!!!」



「オレはそる・・」



ソルトが日本語では塩だとはまだわからなかったオレは懲りずに、まだ自分はソルトマンだと言い張ろうとしたそのとき


かーちゃんがバンッ!!!とおもいっきりリビングに置いてあるテーブルを叩きものすげー恐い顔をした。

そのとき、テーブルのどこかの部品であるネジが、一本ポロッと落ちた事をオレは見逃さず、自分の顔がサーっと青ざめていくのが分かった。



「ケン、次にその言葉を口にしたら、あんたの髪ボーズにするよ」


当時からチャラチャラした父親の影響で、髪のセット命だったませガキのオレにとってその言葉は死刑宣告と同じ意味だった。



「オレのナマエはたかやなぎけんです・・・」


「よし!もう一回!」


「たかやなぎけんです・・」


「もう一回!」


「けんです・・」



それから百回以上、自分の名前を言わされ、その日のお仕置きはそれで終了したが、それからというもの、度々かーちゃんから、オレがまだ、ソルトマンにうつつをぬかしてないかのチェックとして、不意打ちに名前を聞かれる日々が続いた。



「ケンー写真撮るよ〜」


「イエー」


「ハイ笑って笑って〜、で!!あんたの名前は!!?」


「は、はい!!ケンです!!!」



そのおかげで、それ以降は先生から注意をされる事もなくなったオレだったが、その後遺症でやたらと、女の子みたいに自分の事をケンと名前呼びする癖がついてしまったのだった。



さすがに、これは自分で恥ずかしいと思い、小学校高学年になる頃に自力で言わないよう意識して治したのだが、今でも家に居るときだけはふとした瞬間に出てしまう。


これこそ、人にあんまり知られたくない癖である。

こうなった経緯も、かなり恥ずかしいし。



「ギャハハハハハ!!お前バッカじゃねーの!?つーかソルトマンとかしらねーし!絶対流行ってねー!!」



うちに遊びにきていた坂本が、勝手にオレの昔のアルバムを見て、やたらオレが引き攣った顔でカメラをガン見している写真が多い事に気付いた。


多分、不意打ちで名前を言わされたときの写真だ。


あんまりそれに突っ掛かってくるから、出来れば隠しておきたかった話を、仕方なしに話したのである。


案の定、鬼のように馬鹿にしてくる、坂本。



「うるせーよ!!大昔の話だっつーの!ほっとけ!」


本当しつけーなこの男!!こっちの死ぬ程恥ずかしい気持ちももっと考慮しろってんだ!


そんなふうに騒いでると、隣の部屋に居た妹のレナが、騒音に腹を立てた様子で思いっきりオレの部屋のドアを開けた。



「ケン!超うるさいんだけど!!!・・って、エッ!!誰?ケンの友達?カッコイイんだけど!?チョー目え茶色っすね!ガイジン?」



入ってきて突然視界に居た坂本にレナは怒りを忘れて、食い入るように奴をまじまじと見出した。
つーか目は茶色いけど坂本はどー見ても外人じゃねーよ。我が妹ながらなんて馬鹿な娘だ。


「あイモートだ!ケン言ってんぞ、イモートは城中の元女番で蹴りが最強。今は仙山の一年だろ!」



「ちーっす!レナでーす!ケンが世話になってまーす!お兄さんカッケ〜」


「うふふ。うん。」



カッコイイに対して一切否定どころか、謙遜もしない坂本。
するわけないけど。



「レナ、テメー!ヒコボーといいすぐ男にカッケーカッケーって言いやがって!!ちょっとつつしめ!ケン、兄として恥ずかしい!」


「おい!こっちはいい年して自分の事ケンって言う兄が恥ずかしいんだよ!」



「ギャハハハハハ!言った!!」


その日、坂本はこのネタでいつまでもしつこく笑っていた。

そして、次の日、坂本が赤高でケンを知る全ての人間にこの話をバラしていた事にケンは一切気付く事はなかったのだった。

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