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夏休みのある日
あの日からしばらくした七月の中場


暇な夏休みを過ごしていたオレは黒やんをバッティングセンターに誘ってみようと電話をかけた


「あ、もしもし〜、黒や〜ん」



「だからダメだって言ってんだろ!!!って、あ、え?もしもし?」


「どーしたの黒やん、悪夢でも見て寝てるときに起こしちゃった?」



「あ、ケンか〜、らんと間違えちゃったよ」



黒やんは着信表示も確認しないで、らんだと思って怒るなんて、相当らんへの説教が長年で身に染み付いちゃってるんだな〜と思った。




【夏休みのある日】






「ていうかさ、バッティングセンター一緒に行こうよー、太陽がギラギラして絶好のフルスイング日和じゃ〜ん」


「いやー!いいね〜」



元野球少年の黒やんは思った通り電話ごしでも超乗り気な感じが分かった。
きっと目をキランキランさせてるに違い無い。


「そんじゃあ、1時にコーヒー豆専門店、『ブラジリアン』前に待ち合わせね」

「微妙な場所だなー、まあいいけど。そんじゃ、後で〜」



黒やんとの電話を終了し、オレは1時前まで昼寝しようと思いベッドに戻った。
そんな自分を見て、改めて思う。本当グータラ過ごしてるわ。オレ。


いつもの夏休みなら、一秒たりとも勿体なく海へ街へ合コンへってせわしなく過ごしてたよな〜

オレも大人になったってやつよ、と満足感に浸りながら寝返りをうったのだった。






そして、待ち合わせの午後1時、オレは約束通り、コーヒー豆専門店「ブラジリアン」に来ていた。


黒やんがどれほど瞳をキラキラさせ、野球少年に戻ってやってくるかを楽しみに待っていた数分後、黒やんは何やら、大きな荷物を持ってやってきたのだった。


「あ、黒やんだ。マイバットかな、さすが元野球少年、本格的〜」



しかし、だんだんと近づいてくる黒やんを見ていると、その手に引きずられているものがマイバットではない事が確認出来た。


バットじゃない。あれは。



「坂本・・?」



黒やんに引きずられているものはバットじゃなくて、赤高の混ぜるな危険、坂本明男だったのだ。

つーか、なんでいつもオレ坂本の事、物と間違えるんだろう、でもキラッと光ってたからバットだと思った〜。



「ケン、ごめん。電話したとき、坂本がうちに居るって言い忘れてたわ。つーか三日前からずっと居るから居る事自体忘れてた。」



話によると、坂本は三日前突然やってきて、勝手に生活していたらしい。

本当この幼なじみは仲良しなんだな〜と顔色の悪い黒やんに気を使わずにのほほんと思った。


「よーケン、なんだ〜この待ち合わせ場所は〜微っ妙だなー」


一方、坂本はもろさっきまで寝ていましたな顔つきで、黒やんと同様オレの待ち合わせ場所選びのセンスを冷やかしてきた。


なんだよ二人共、待ち合わせ場所なんて別にどこでもいーじゃん。
インパクトあるほうがわかりやすくて便利だろ〜が。


と思ったけど、確かにブラジリアン前は直射日光で暑かったので早く現地に行こうと思い黙っておくことにしといた。





夏休みの行楽日和に関わらず、この辺で一番でかいトータルスポーツレジャーセンター「キムラ」は坂本すらびっくりするほどのガラガラ振りであった



「うわ〜人少なねー。何でお前らこんな所来ようと思ったの?バカじゃねーの。」


坂本は自らついてきたにも関わらず、オレら二人と「キムラ」に対して大変失礼な事を言ってきた。


それを聞いて黒やんもオレも不機嫌顔で、坂本を横目で見たけど、言い返す事ができない。なぜなら今日の「キムラ」は本当におかしかったからである。



「暑い・・」


ブラジリアンから日光浴びまくりだったオレはすでにフラフラで、もはや汗すら乾きはじめていた。

ひょっとして脱水症状?


「ここ、普段はもっと涼しいよな、室内スポーツが売りだし、なんで今日はこんな暑いんだよ・・」



黒やんも長めの髪をうざったそーに手で持ち上げながら、ここの異常な暑さにイライラしていた。



ここ、「キムラ」は普段は完全冷暖房完備で、バッティングスペースの天井の所以外はほとんど室内で、快適にスポーツが出来るって赤高でも人気のスポットなのに。


オレ達はバットを振る以前に立ち上がるのもしんどくなり始めていた。



「実は今日休業日とかなんじやねーの?仕方ないから赤高の校長のモーターボートでも盗みにいく?オレ倉庫の鍵の壊し方知ってるよ」


元々大してバット振りたいわけじゃない坂本は、すでに諦めモードだったが、なぜかこの暑苦しさにもケロっとしていて一番元気だった。



「モーターボートなんて貰ってどーすんだよ。つーか休業日ならフツー入れねえよ。あそこに寝てるオッサンとかいるじゃん。」



黒やんは暑さに弱って坂本への言い返しもどこか生易しくなっている。



「マジなんなのかね・・従業員の人に聞いてみるわ。深い事情があるんじゃねーの?」



深い事情が無いとこの暑さが納得出来ないオレは近くにいたバイトっぽい従業員の男の人に原因を訪ねてみた



「あの、すみません・・一体どうしたんですか今日は」


「え、お客さん知らないんですか?今キムラ毎年恒例のエコロジー週間で冷房完全ストップなんすよ。オレもなんでこんなんあるかわかんないけど、毎年この時期はサウナがわりに立ち寄る人以外ほとんどお客さんこないんですよ〜」



自分も汗をダラダラ流しながら従業員の人は言った。と、いう事はあそこで寝てる人はサウナがわりなのか、すげ〜・・。


その話を聞いた坂本は突然ガンガン従業員の人に迫ってゆき、いきなり激しいチョップを食らわせた。


「何得意気に言ってんだよ!あちーだろうがコノヤロー、人こねーのに無理矢理開けんなバーカ!!しらねーで来ちゃっただろーが!」


一番平気そうなのに、激しくキレ始めた坂本の思いもよらない攻撃に従業員は目茶苦茶びっくりして、テンパりながら坂本に謝った。

隣に居たオレも、坂本の予想外の行動にア然としながら見つめていた。



「す、すいません!CMとかでも宣伝してるし、知らないで来る人とかいないかなかな〜と思ってまして」


「キムラのCMなんか見るか!こっちは忙しーいんだよ!」



忙しいなら、真昼間からこんな所にいないだろ、と思ったけど、オレはとばっちりを受けたくなかったので黙っておいた。



「あ、じゃあ、バッティング1ゲームサービスしますから、せっかくいらしたんだから打って行って下さいよ〜」


「いらねーよ、余計暑いじゃねえか、ご覧の通り連れ二人は既に死んでるだろーが。」



せっかくの申しでに口を尖んがらせて拒否する坂本。

喜んでくれるだろうと思ったらしい従業員の人は思わぬ反応に「キムラ」従業員の意地に火がついたのか、諦めずに坂本を説得し始めた。



「いや、ご迷惑掛けから無料でバッティングしてもらわないと気がすみません!お願いです無料でバッティングして下さいよ〜!」


「しつこい!」


そんなやり取りを数分して、さすがに坂本もあまりの縋り付きにめんどくさそうになってきた。

すごい熱意だな、さすがこんな日にバイトに入ってる人だけあるぜとオレは思っていた。




「本当しつこいな!わかったよ、さっさと打てばいいんだろ、ホラ黒やん、打て!」



もう従業員をあしらうのが嫌になった坂本は、さっさと終わらせて帰ろうとその役目をバタンキュー寸前な黒やんに振った。


「いや、今ムリ・・」


「何言ってんだよ!余裕って!瞳に書いてあるじゃん!お前言ってただろ!勝負はツーアウトからだって」


黒やんは坂本を連れてくる時点で体力を使い果たして、明らかに顔色が悪いのに坂本は容赦なかった。


「ホラ、ケンも一緒に黒やんの好きなホークスソング歌うぞ!」


「え!どんなんかわかんねー!出だし教えて!」


「ホラあれだよアレ!えーっと」



「っとにうるせーな!打てばいーんだろ!打てば!打つから黙れ!」



坂本がまとわり付いて余計に体温が上がりイライラ最高潮に達した黒やんは、残り少ない体力を振絞ってバッターボックスに向かってくれた。



「ヒューヒュー!今年はホークス優勝だ黒川〜!」


「黒やーん!イケニエごめーん!二球くらいならオレ代打するよ〜!」




坂本とオレはバッターボックスの外から勇敢な黒やんを応援したら、従業員の人も嬉しそうに「もう今日は何球でも無料にするから好きなだけ打って!」と叫んだ。


でも、調子に乗った事を言ったせいで黒やんからとてつもなく鋭い目付きで睨まれて、シュンとしてしまった。



そして、さすが元野球少年の黒やんは最悪のコンデションでもほぼホームランを打ち、一ゲームを頼もしくこなしてくれたのだった。

これが、今も思い出として刻まれる、黒やん、誘ったのに本当にゴメンね、の日であった。



ちなみに、その後すぐキムラを後にして、涼しい所で体力を取り戻した黒やんは、何をするよりも先に即効で坂本をどついたのでした。

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あきゅろす。
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