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健多くんシリーズ。(短編)
堪えようのない。
説明:※は性描写なし


お前の秘密を知っている。

そう書かれた紙に、僕の心は揺らいだ。



―――――堪えようのない。





その日、僕は学校を始めてズル休みした。

家を出てしばらくして帰ってきた僕を見た母親は怪訝そうな顔をしていたが、普段特に問題を起こさない僕が「頭が痛くなって」と言うとすぐに信じたようだ。

僕は部屋に閉じこもり、昼過ぎに母親がパートに出かけると部屋の隅に隠しておいた汚れた下着を浴室で洗った。

洗う間、涙が止まらなかった。


次の日から僕は以前より30分早く起き、学校に向かった。

あの痴漢は連絡を待てと言っている。
電話番号を知っているということは、きっともう電車内では接触してこないだろうと考えた。

それでも怖くて、同じ時間の電車には乗れなかった。

そして何事もなく一週間が過ぎた。


放課後僕は友人とファミレスで夕食をとった。

僕の家は母子家庭で兄と母親と僕の三人だ。

兄は大学入学と同時に家を出、今は少し離れたところで大学に通いながら一人暮らしをしている。

だから今日のように母親がパートで遅くなる日はたいがい僕も外食で済ませている。

家に帰り着いたのは七時過ぎ。母親はいつも日付が変わる頃帰ってくる。

僕は着替えると宿題にとりかかった。

一段落したところで、携帯が鳴った。

さっき別れた友人が「後で電話する」と言っていたのを思い出し、何の気なしに通話ボタンを押す。

「早かったな。あのさ今日の宿題でわかんないところがあるんだけど……」

『そりゃ大変だな』

「…………っ!」

聞こえてきたのはあの男の声だった。

耳にこびりついて離れない、あの低い声。

急いで電話を切ろうとして、あの紙のことが頭をよぎった。

コイツは僕の弱みを握っている………

その弱みが何なのか全く検討がつかないが、きっと周りに知られては困ることだろう。

『おい?』

「……………何の用ですか」

喉がカラカラで声が詰まった。

『電車の時間変えたんだな。賢明なこった』

「何の用ですか!警察に言いますよ!」

男は鼻で笑った。

『言えよ。こっちもあのことバラさせてもらう。それでもいいんなら、な』

「あのこと………ってなんですか」

今の僕には強気になる勇気がない。

『それを今教えるわけにはいかねえな。教えてほしけりゃそれなりの誠意を見せろよ』

誠意………金か?

「金は、ない。僕はバイトもしてないし……」

『金なんていらねえよ。俺が欲しいのはそんな安っぽいもんじゃない』

「じゃあ………」

『今日お前一人だな?今から俺が言うところに来いよ。いいか、これはお願いじゃない。命令だ』

「ちょっ」

そういうと男は大声である場所の住所を言った。そして僕の返事を待つことなく電話を切った。

「どうしよう……」

警察に言うべきか。いや、でも………

もし僕の弱みとやらが僕の周囲の人間に迷惑をかけるようなことだったら………?

男が言った住所は僕の家から近いところだ。

今から行って………男の話を聞けば母親が帰る前に帰ってこれるかもしれない。

「話を……聞いてくるだけだから。たいしたことなかったら警察に言えばいいし……」

誰にともなく、僕はそう呟いた。



男は住所は言ったが、建物の名前は言わなかった。

しかし、僕が行き着いた先は明らかにいかがわしい寂れたホテルだった。

またあんな恥ずかしいことをされるのかもしれない………

そう考えると、腰のあたりがわずかに熱をもった。

その感覚に目を背け、僕はホテルに入った。

男からまた着信があり、僕はある部屋に来るように指示された

「よお」

ドアを開けた先に、あの男がいた。

あの男といっても僕は後ろ姿と声しか知らない。

まだ、若い。きっと大学生くらいだ。

僕にあんなイタズラをしなくても、いくらでも女の人たちが集まってきそうな顔をしている。

「まあ座れよ。なんか飲むか?」

「いらない。話は?」

部屋のど真ん中を占拠しているキングサイズのベッドから目を背け、僕は入り口側のソファに座った。

いらないと言ったのに男は自分の分のついでといった感じで僕にお茶を出した。

喉がカラカラで、そのお茶はたいそう魅力的に見えた。

「飲めって。ノド渇いてんだろ?」

そう言って男が一口茶を啜ったので、僕もそれを一気に飲み干した。

「話は」

いくぶんカラダが潤ったせいか、口調が強くなった。

「そういやお前、こんな話を知ってるか?」

僕の苛立ちを知ってるくせに、男はどうでもいい話を始めた。

今コイツに逆らってはいけない。

なぜかそんな考えが浮かんできて、僕は返事もせずに本題とはまったく関係ない話を我慢して聞いた。

しかし10分ほと経っても男の話は終わらず、僕はついにキレた。

「いい加減にしろよ!アンタ本当に僕の弱みを握ってるのか!?」

立ち上がり怒鳴った僕に、男は薄く笑った。

「………お前の弱みは、これから握るんだ」

そう言われた瞬間、僕の膝から力が抜け、ソファの上に倒れた。

そしてそのまま意識を失った。

「……………ようやくクスリが効いたか」






堪えようのない。に続く。

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あきゅろす。
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