健多くんシリーズ。(短編)
止まらない。
「ほら、洗いざらい吐け」
「だーかーらー、何も聞いてないって!」
「嘘つけ。アイツが余計なことを一言も言わないわけがない」
僕は藍崎のマンションに連れ込まれ、剥ぎ取られた自分のシャツで両手を後ろ手に縛られた。
相変わらずの変態野郎。
僕を苛めて楽しいのか、元からこういう性癖なのかはわからないが藍崎はこういうのが好きらしい。
最近は僕も何をされても抵抗するだけであまり驚かなくなった。
「ホントに何も聞いてない!」
「ほー。そっちがその気ならこっちにも考えがあるからな」
ふん、と鼻で笑ってバッグから細長い何かを取り出した。
上半身裸の僕の体をベッドヘッドに押しやり、脚の間に無理矢理割り込んでくる。
窮屈なその姿勢が苦しくて抗議したが、両手を縛られたままじゃろくな抵抗もできない。
「ちょ、なにそれ」
間近に迫ってきた藍崎の手に握られたモノを見て僕は一気に血の気が引いていくのを感じた。
「なにって、見てわかるだろ。そういうプレイ」
「はぁ!?だからなんで毎回そういういかがわしいプレイを思いつくんだ!?」
その手に握られていたのは真新しい筆。
そう。コイツは筆責めなるものをしようとしているのだ。
「この変態!アンタいつか捕まるぞ!」
「合意の上なら問題ないだろ」
「誰がいつ合意したんだよ!」
藍崎は僕の言葉など無視してビニールキャップを外した白い筆の先端を少しだけほぐした。
「最終的にはお前も感じてるんだ。これが合意でなくてなんなんだよ」
「そんなの…仕方ないだろ!」
だってどうしても気持ちよくなってしまうんだ、このどうしようもないカラダは。
ジタバタと暴れてみるがまったく効を奏さず、藍崎の魔の手が僕の無防備な胸に伸ばされる。
「んっ!や、やめろ…っ」
長い指がきゅっと僕の乳首を摘んだ。
指にくびられて盛り上がった先端に筆の先が近づいていく。
「今日は拷問だからな、気持ちよくなるだけじゃダメだ…たっぷり泣かせてやる」
クシュクシュ…クシュ…
「んっ、ふ、ぁっやめ…」
摘まれて赤くなった先端だけをまだ少し硬い筆で弄られる。
使われていない筆は敏感な乳首の先にチクチクと小さく刺さった。
くすぐったいのと痛痒いので不思議な感触が生まれ、僕の性感は高まっていく。
「ぁっ、だめっ」
そのいやらしい光景が目に入らないように顔を背けるが、それによってさらに筆の感触をリアルに感じてしまい声を抑えることができなくなる。
……どうしよう、きもちいい……
「やっぱりお前は苛められるのが好きなんだな。乳首、真っ赤になってコリコリしてきた」
「そんなのっ……!」
いちいち報告するな、という言葉は快感に飲み込まれていく。
藍崎の言葉通り真っ赤に熟れた胸の果実は左も弄ってとばかりに主張していた。
筆は色の薄い乳輪をクルクルとくすぐり、柔らかくなってきた穂先が乳首をさらに立たせようと下から跳ね上げる。
色のついた突起が震える様は淫らで、ゾクゾクと快感が背筋を這い上がってきた。
右が充分に熟れたら今度は左を。
「あふっ!」
待ち焦がれた刺激に太腿がぴくりと震える。
両方の乳首が筆で大きく育つと、だいぶほぐれた毛が今度は耳の中に差し入れられた。
ゴショゴショと乾いた耳の中をくすぐられ、直接的ではないもとがしい刺激に背筋が震える。
「あっ、あん、だめっ!」
もっと気持ちいいところへの刺激が欲しくて、僕は藍崎を挟んだままの膝を揺すった。
触れられていない僕のペニスは上半身への刺激にゆるく立ち上がり、制服の前が徐々に窮屈になり始める。
「健多、勃ってる」
「はぁうっ!」
ゴリ、と藍崎の膝で前を擦られてまた中の性器が大きくなった。
「あ、藍崎っ…!制服、脱がないと…!」
「脱がないと?」
筆が耳からゆっくりと降りてきて臍をくすぐる。
撫でられたところからジンジンと痺れが走り、そのこそばゆいような快感が僕の股間のモノへ送り込まれる。
このままでは、制服が。
「濡れる、から…」
目を伏せて小さく告げると、藍崎はふん、と軽く笑った。
「濡れる?なにで濡れるんだ?可愛く言えたら脱がせてやるよ」
「そんな…!」
また辱められる。
恥ずかしいことなんて言いたくないのに僕のカラダはますます昴ぶっていく。
こうやって恥ずかしいことを言って、恥ずかしいことをすれば、その先には目も眩むような快感が待っている。
僕のカラダはもうとっくにそのことを知ってしまっていた。
自分の意志とは関係なくカラダが快楽を求めて藍崎を興奮させる言葉を紡ぐ。
「おねがい……精液、でちゃうから…脱がせて…」
自分のその言葉に反応して、僕のペニスがまたジュンと先走りを溢れさせた。
藍崎はそんな僕に満足そうに微笑むと、乱暴にズボンと下着を剥ぎ取った。
その勢いで僕の勃起したものが顔を出す。
焦らされたそこは皮が捲れて敏感な粘膜が半分のぞいていた。
「……可愛い先っぽが出てきてるぞ。ココ、筆で弄ってやろうか?」
「だめ…だめ、そんなの…!」
ツルンとした感じる箇所を筆でくすぐられることを想像しただけで、先端の小さな穴からぷっくりと玉のような先走りが溢れた。
「お前は苛められると感じるからな…ほら」
「ひっ!ひゃああんっ!」
クシュクシュッ、と柔らかい穂先で顔を出した先端をなぶられ、僕はバタバタと脚を跳ね上げた。
「あんあんあんっ、あっひっ、んんっ、ああんっ!」
腰骨がとろけそうなほどの快感にカラダが突っ張る。
藍崎にいやらしく苛められているというこの状況が僕をさらに興奮させ、涙が次々と流れた。
「泣くほど気持ちいいのか?まったく…」
半ばあきれた声で、それでも楽しげに藍崎が笑う。
性器に与えられる苦しいほどの快楽から逃げるだめに脚を閉じようとすれば、藍崎が空いた手で僕の太腿をぐっと割り開き、お仕置きとばかりにまた筆で先端をこねくり回された。
「んあっあんっ!あんっあんあん!やめっあんっ、めてぇ……!!」
解放を求めてぱくぱくと開閉する尿道口を重点的にくすぐられ、気が狂いそうな射精感に足先がぎゅっと丸まる。
壮絶な快感に止まらない先走りを筆が掬い取り、塗れてまとまった穂先が今度は先端の穴の中にまで侵入してきた。
「ほら、ココもいいだろ?そのうちココに物を入れてイけるようになるかもな…?」
「ひゃぁああんっ!」
イヤイヤと首を振るが、ただでさえ感じやすくなっている粘膜の中を毛の束でヘコヘコとかき回される気持ちよさに、いつか本当にそこに何かを入れられてしまうのではないかという不安と、かすかな期待が頭をよぎる。
「裏もくすぐられたら気持ちいいよな?」
ようやく尿道口から出てきた穂先がつつ、と今度は裏筋を這い回る。
何度も往復されて気まぐれに根元の袋をつつかれれば、袋が収縮するような感覚と茎を上っていく精液を感じた。
「っめて…!もぉ、やらっ…!」
性器だけに執拗に与えられる快楽に半開きの口から涎がつ、と流れ落ちる。
大事なところを男のいいように弄ばれているという状況にもはや理性は完全に蝕まれていた。
イかせて、とはしたなく願おうと口を開いたが、藍崎にその言葉を制された。
「イかせてほしいのか?」
もう失うもののない僕はただひたすら射精の快感を求めて首を縦に振る。
「おねがぃ…イきたい…」
「なら言えるよな?さっき衛人に何を言われたか」
「え…………だ、だめっ!」
ドロドロに溶けた脳の片隅にほんの少しの理性が蘇った。
途端に藍崎の表情が険しくなる。
「……俺に言えないようなことか?まさか本気でアイツに迫られたとか言うんじゃないだろうな」
「違うっ!ちがう、けど…」
それ以上に恥ずかしい。
だって藍崎が僕を好き、だなんて。
もし衛人さんの勘違いだったら?
やっぱり藍崎が僕のことを玩具としてしか見てないと、改めて本人の口から言われたら?
(ショック、だし…)
どんな人間にだってお前は玩具だと言われたらショックだと思う。
黙って俯くと、突然藍崎のカラダがすっと僕から離れた。
そして縛られていた両腕を解かれる。
驚いて顔をあげると、冷たい視線がそこにあった。
「あ…?」
「もういいわ。イきたいんなら自分でしろよ」
そう吐き捨てるように告げ、ベッドから降りようとする。
まるですべてを投げ出されたような、そんな孤独が僕の胸を締め付けた。
(イヤだ…!)
そして気づいたときには、僕の自由になった右手は藍崎の服の裾を掴んでいた。
「まって……言う…言うから…」
だから、置いていかないで。
叫び出しそうになったその言葉を飲み込む。
藍崎は視線だけをこちらに向けてその場から動かない。
僕はその目を直視することができず、裾からゆっくりと手を離した。
「僕は、そんなことないって思う、けど…衛人さんが、あの…」
恥ずかしい。
こんな、もしかしたら勘違いかもしれないことを言わなきゃいけないなんて。
どうしてもその次の言葉が出てこなくて僕はまた口ごもってしまう。
すると藍崎がゆっくりと身を乗り出し、僕の頬にその手を置いた。
「健多」
さっきとは違う、優しい目。温かい手。
言葉はなにもないけれど、その視線が僕の言葉を促す。
僕は小さく息を吐くと、熱に浮かされるように言った。
「鳴人が……僕を、好きだって……」
ぎゅ、と甘い痛みが胸を締め付けた。
その痛みに息ができなくて僕は顔をゆがめる。
藍崎はなにも言わない。
なにも言わない代わりに、頬に置いた手をゆっくりと離した。
そしてその手は緊張に少し萎えた僕のペニスに伸ばされる。
「んっ…!」
ゆるく握られ、予想もしなかった刺激に僕は小さく喘いだ。
「ふっ、あっ、な、なる、ひとっ……!」
筆なんてもどかしい刺激でも意地悪な刺激でもない。
グチュグチュと音をたてて優しく僕を追いつめていく。
「ん、あっあんっ、イ、イくっ…ふんっ、ぁああっ…!」
さんざんなぶられた先端を指の腹で優しく抉られ、僕は戸惑うカラダをびくびくと震わせながらよるやかに射精した。
僕のイく姿を藍崎がじっと見ている。その視線が痛くて、力の入らないカラダをそっと丸めた。
「見ないで…」
こんな浅ましい姿を。
こんなに快楽に弱い自分を。
それでも藍崎は視線を外さない。
その目は怒りもせず、笑いもしない。
そして永遠とも思える長い沈黙の後、ようやく口を開いた。
「健多」
「……………なに?」
「お前はどうしてほしい」
「どう、って…」
どういう意味だろう。
僕が藍崎をどう思ってるかということだろうか?
「お前は、俺に好かれるのと遊ばれるの…どっちがいい」
「なんだよ!そんなのっ……!」
そんなの決まってる。
誰も好き好んで遊ばれたくはない。
でも僕は…藍崎に好かれたいんだろうか。
……それもよくわからない。
それでも。
玩具として扱われるよりは、ずっと。
「………好きになってくれるほうが、いい……かも」
きっと、そのほうが。
「………ふうん」
「うわっ!」
グシャグシャと藍崎がいきなり僕の頭をかき混ぜた。
「なにすんだよっ、はな、んっ…」
突然、両手で掴んだ頭を引き寄せられ、キスされた。
「んっ、ふっ…んんっ…ぁ、なる…ん」
角度を変えて何度も。
苦しくてもがけば今度は首筋や額に唇を落とされる。
やがてぐったりと体から力が抜けた頃に解放され、僕は藍崎の胸に手をついて呼吸を整えた。
「ん、はっ、はぁ…な、に…」
「…好きに、なってやるよ」
「…………え」
今、なんて……
顔を上げれば真剣な顔。
「仕方ないから、好きになってやる。でも覚えとけ……今さら返品はきかないからな」
「………なんだよ、それ」
それってなんか僕が自分から告白したみたいじゃないか?
っていうか全体的にうまく誤魔化された気がしないでもない。
そう思いっきり藍崎を詰ってやりたかったのに、僕の口は動かない。
心臓が痛い。破裂しそうなくらい。
甘い毒を飲まされたように頭がクラクラして。
その毒を注ぎ込むように、藍崎の唇がまたゆっくりと降りてくる。
僕はカラダの中を毒が浸蝕していくのを感じながらも、そっと目を閉じてその傲慢な唇を受け止めたのだった。
止まらない口づけ。
止まらない痛み。
止まらない、愛しさ。
Fin.
続く。
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