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ひぐらしハルヒの憂鬱な頃に

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 SOS団を得意げに引き連れているハルヒが足を止めた。

「誰?ってゆうか何であたしの名前を知ってるわけ?気持ち悪い」

 あからさまに敵意を含んだ視線で俺を睨みつける。

 なるほど、そんな気はしていたが、このハルヒは俺を知らないのか。だが今後のことを考えれば、ここで何とか接点を作る必要があることぐらい、最近やたらと超常現象に巻き込まれてきた俺には容易に察しがつく。

「なんなの?人のことジロジロ見て。ストーカーを募集した覚えはないわ。用が無いならごめんなさい。急いでるんで失礼するわ」

「待ってくれ、涼宮ハルヒ。俺の話を聞いて欲しい」

「はぁ!?だから何であたしの名前を知ってるの!?」

 こいつが俺を知らないのは俺と会っていないからだ。つまり少なくとも高校入学時点で元の世界とは違う方向に分岐しちまってることになる。てことはそれ以前、中学時代のことなら元の世界と変わらない歴史が存在している可能性はある。

「なぁ、ジョン・スミスを覚えているだろ?三年前の七夕で出会ったジョン・スミス。俺は、そのとき女の子を背負って現れたジョン・スミス──」

「……ジョン……スミス?」

 ハルヒの警戒心満載で怒りを含んだ表情がどう変化するか、じっと見つめていた。

「……。どう見ても日本人のあんたの名前がジョン・スミス?うん、確かにあたしは普通じゃない人に興味があるわ。でもね、ちょっと頭がアレな人は別よ。

あんたも、あたしなんかより主治医に話を聞いてもらったほうがいいんじゃない?それじゃ」

……繋がらなかったか。

 SOS団のメンバーはそれ以上俺の相手をせず、別れの挨拶とともに、それぞれの帰り道へと散っていく。俺はそれを眺めることしかできなかった。

 いい結果は得られなかったが、あいつらがこの世界に存在しているというだけでも妙な安堵感はある。ま、これからのことは家でゆっくり考えるか。

そう思いつつスーパーに足を踏み入れようとしたところ、優しい言葉が背中を撫でた。

「キョンくん」

 振り返るとそこには天使のような……いや、天使がいた。

 横には、無言実行で幾度となく助けてくれた俺にとっての救世主。ついでに嫌味な爽やかスマイル野郎も。

「どういうことだ?お前らは俺のことをちゃんと知ってるのか?」

「ええ。少しそこのファミレスでお話しませんか?情報交換が必要でしょう」

 そういうことか。

 古泉の提案に賛成して、朝比奈さんと長門も一緒にエンジェルモートというファミレスに入った。

「先ほどはすいませんでしたね。涼宮さんの手前、色々と気をつかわなければならないので……。

それで現状なんですが、正直よく分かりません。この世界で我々は以前から存在していたものとなってます。

したがって、平行世界のようなものに意識だけが飛ばされてきた、そう考えるとしっくりくる気がします。」

 時間移動してきた可能性はないのか?それか俺たちだけ残して世界が丸ごと作り変えられたとか。

「はい、えぇと、その、たしかここは昭和?……という時代なんで時間移動してるようにも思えるんだけど、なんだろ、ちょっと違う感じがして……。

〈禁則事項〉に〈禁則事項〉しようとしても〈禁則事項〉が〈禁則事項〉で、うまくいかないんです。だから〈禁則事項〉を〈禁則事項〉なんだけど、どうしてもダメで……」

 できれば〈禁則事項〉をはずして話して欲しいが、そうもいかないのか。オレンジジュースをストローで吸う朝比奈さんは、どことなく慌てているように見えて可愛い。あぁ、安らぐ。

「長門は?何か分からないのか?」

「……」

 微かに首を左右に振る。

「……違和感はある」

「何にだ?俺たちのことか?」

「この世界に」

 それ以上は分からないといった顔で、長門は視線をテーブルに落とした。結局、手掛かりは無しか。

「ええ、残念ながら。それとSOS団なんですが、ご覧の通り成立しています。こちらの世界の涼宮さんの手によって作られたみたいです。そして元の世界との主な相違点は2つあります。

一つは涼宮さんには元の世界の意識というものが無い、つまり完全にこちらの世界の住人になっているわけです。

もう一つはあなたのポジションに前原圭一という別の男子生徒がいることです。

彼は平凡な毎日を好まず、常に面白いことを探そうとするタイプで涼宮さんとはノリが合うみたいです。

まぁ、行動力において涼宮さんには一歩及びませんが。けど涼宮さんとしては自分にスムーズについてくる人より、文句を言いつつも何だかんだで言うことを聞いてくれるタイプの方が好きみたいですね。

前原さんにはいまいち満足していないように思えます」

 ふん。ハルヒの満足度なんかどうだっていい。

「そうでしたか。ところでそちらの状況はどうなっていますか?」

 まだ一日過ごしただけだが、学校の様子、周りの人間など可能な限りを伝えた。

「それはそれは……さすがといいますか、うまくやり過ごしましたね。しかし、おかしな話です。矛盾してますよ」

 俺もそう思うが、なんでお前が分かるんだよ。

「涼宮さんは──これは元の世界でのことですけどね、時々あなたのことを僕に話したりもするんですよ」

 ちっ。わざとらしく意味ありげにニヤつく面が腹立たしい。整った顔立ちはむかつき度を上げるスパイスでしかない。

 その後20分ぐらい、古泉と朝比奈さんは色々説明してくれた。興宮から少し山の方に行った所に北高があり、そこで古泉は転校生、朝比奈さんは上級生となっていて、長門のいた文芸部室をハルヒが乗っ取ったことなど、その辺は元の世界と概ね同じみたいだ。

話を聞いてると、こいつらもうまくやり過ごしたんだと分かる。

 とりあえず今日のSOS団員会議はこれで終了した。特に有力な情報は得られなかったが、俺としては朝比奈さんと長門がいてくれただけで大きな収穫だったかな。

そういえばスーパーで 買物するところだったっけ。だいぶ道草くったが。


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