ひぐらしハルヒの憂鬱な頃に
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教室で俺は学校の歴史が始まって以来最も古くから存在すると思われるイタズラに遭遇した。
見事に引っかかったソレはトラップと呼ばれ、ドアを開けたら上から黒板消しが落ちてくる、というものだった。
さらに一歩教室に踏み込めば足下には縄飛びが張ってあり、つまずくと墨汁がなみなみと注がれたすずりが視界に飛び込んでくる。
「あ〜あ。今日も気持ちいいぐらい引っかかってるねーキョンちゃん。トラップ黒星何連敗中??」
「おはよう、沙都子ちゃん。」
沙都子?なるほど、仕掛人の名か。床にはいつくばったまま顔を上げると小学生にしか見えないスクール・テロリストが誇らしげに喜んでいやがる。
「おーっほほほほほ!キョンさん、朝からにぎやかですこと!どうしたんですの?そんな真っ黒な顔して。」
うんうん。子供のイタズラには広い心を持ってだな……こみ上げる怒りを抑えつつ起き上がろうとすると、誰かに頭を撫でられた。
「今日だけは許してあげるのですよ、キョン。沙都子は2日もキョンに会えなくて寂しかったのです。ボクがかわいそかわいそしてあげるですよ。にぱ〜☆」
にぱ〜☆と笑いながら、これまた小学生のような女の子が俺を見下ろしている。
「そうだな。今日は特別だ。」
「まぁ、ちょっと見ない間にずいぶん大人になりましたわね、キョンさん。いい心がけですわ。」
「沙都子の減らず口は相変わらずだけどな」
出席を取るとき、どうやらこの世界で俺の友達となっている4人の女の子たちのフルネームを聞き逃さないように気をつけ、4人全員の名前を覚えた。
そして休み時間に、学年が混在していること、制服が別々で私服の生徒もいることの理由について魅音に教えてもらった。
何でも本来の学校が廃校になったため、遠い町の学校まで通わなければならない子供達のために営林署の建物を間借りしているため、教室の数が足りていないらしい。
それで学年どころか学校も違うような生徒が一つの教室で学んでいる、というわけだ。それもあってか、制服も学校で統一したものではなく、相応しいものであれば自由とされている。
放課後になると魅音から『部活』の召集がかかった。
部活……SOS団を連想した俺は何の気なしにつぶやいた。
「まさかここでも宇宙人・未来人・超能力者なんかを探しに行くんじゃないだろうな?」
「……!? 今日はいつもと違う感じがしてましたけど、キョンさんはとうとう頭がおかしくなったんじゃありませんの?病院で見てもらったほうがいいですわ!」
「あっはははは、宇宙人か〜。山奥だし、交信できるかもね。いいよーキョンちゃん。おじさんそういうの嫌いじゃないよ。」
「たしかに今日ちょっと変だよ?キョンくん……具合悪いのかな?かな?無理しないで今日の部活はお休みにする?」
当然の反応ですよね。こんなセリフ聞いて、目を輝かせながら本気で
「賛成!アンタわかってるじゃない。さっそく行くわよ、善は急げって言うし!」
なんてほざくヤツを俺は今のところ一人しか知らない。
「はは。……でも今日は本当に調子悪いかもな。すまないが、早引けさせてもらってもいいか?」
「えー、しょうがないなぁ〜。じゃあ今日の部活は中止にするかな。おじさんも夕方から用事あるし。」
「仕方ないですわね、まったく。明日までにはちゃんと本調子に戻しておいてくださいませ!でないと部員に迷惑がかかりますわ。」
「わりぃわりぃ。あ、ところでさ。うちのクラスに、その、ハルヒってやつはいなかった……よな?」
「キョン。もういいですから、ちゃんと病院に行くのですよ。」
すっかりカワイソウな人扱いされたが、今朝から体がダルいのは事実だし、一応病院に行っておくことにした。家に帰ってお袋に場所を聞いて、病院に向かう。
登校するときも思ったが、ここの自然は素晴らしいな。空気に味があるなんて生まれて初めて知ったよ。都会のような喧騒は一切無く、ひぐらしの鳴き声が響きわたる。
田舎の醍醐味ってやつを堪能しながら自転車を走らせ着いた先は入江診療所という村で唯一の病院だ。この村には不似合いなほど大きいことに、まず驚かされた。
医療機器やスタッフも充実していて、それはそれで結構なことなんだが、ハルヒだったら「何かあるわね、ここは。」と間違いなく勘繰っていただろうな。
診療を済ませて、特に異常なしってことで病院を後にした。ついでに雛見沢から少し離れたところにある興宮という町で買い物してくるように頼まれ地図を渡されていたので、それを見ながら再び自転車を走らせた。
興宮でスーパーの前に自転車を停め、ふと歩道の先に視線を向けるとそこに俺のよく知る一団を見つけ、思わず叫んだ。
「おい、ハルヒ!」
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