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ひぐらしハルヒの憂鬱な頃に

≪TIPS6≫
≪朝比奈みくる説≫



 『綿流しの後、エンジェルモートに来てください☆ みくる☆』

 ちまちました文字で書かれたメモを見たのは、自宅に着いたときだった。

 部活対SOS団で盛り上がった露店バトル、神聖な雰囲気が印象的な奉納演舞に綿流し。

楽しくて、それでいて綺麗な時間を過ごしたんだと思う。夢の中にいるかのような錯覚すら感じた今日という日は、元の世界に戻っても忘れられない体験になるだろう。

 だが夢の終わりに、頭の中を掻き回し、覚めない夢を悪夢に変えて、そのまま現実のようで現実でない奇妙な世界に引きずり込まれ、目眩に襲われたところで、これが夢ではないことを思い知らされた。

 あれは本当に梨花ちゃんか?こう言っちゃなんだが、何かに乗り移られたとしか思えない不気味さが滲み出て、

正直恐ろしかった。それに、ゾッとするほど冷たく固まった顔をした魅音なんてのも初めて見たし、 レナの様子も尋常じゃなかった。

 ……それも含めて、忘れられない日になるだろうな。

 結局、詩音が上手く取りまとめて、俺たちはそれぞれ家路につくことになったが、

その帰り道では、魅音もレナもまるで何事もなかったみたいに普通だった。

 何気なくポケットに手を突っ込むと、紙切れが入っている。

レナと別れて玄関前に来たところで灯りを頼りに書いてあることを確認した後、俺はそのままチャリで興宮に向かった。

 ややこしい話になっちまったし、てっきりSOS団の緊急会議かと思ったが、エンジェルモートに入ると、浴衣姿のままの朝比奈さんが意外にも一人でジュースを飲みながら俺を待っていた。

「すいませんね、お待たせしてしまって」

「ううん。あたしの方こそ突然呼び出してごめんなさい」

 夜、思春期の男が女の子と二人で待ち合わせ。しかも相手は朝比奈さんだ。

このシチュエーションに何も期待しないヤツがいるなら、そいつはハルヒの言う通りガチなゲイとしか考えられない。

 ま、そんな俺の淡い期待は、あっさり裏切られたけどね。

「どうしてもキョンくんにお話しておきたいことがあります。あたしは、古泉くんの考えは違うと思うんです。

あ……あの、今あたしたちがいる世界の状態のことなんですけど」

 と、おっしゃいますと?

「たしかに時間移動しているようにも思えるし、その可能性を全く否定することはできません。

けど、あたしは時間移動はおこなわれていなくて、世界改変だけがおこなわれていると思います」

 何故そう思うんですか?いま昭和になってますよね?

「三年前より以前には……ん、えと、元の世界の時間軸で言うところの三年前ってことです……

それ以前に時間移動してるなんて考えられません。だから、元の世界の時間平面からは全く動いてなくて、世界は、んーと、昭和時代という認識上の観念も含めて、あたしたち以外が丸ごと改変されたと思うんです」

 ……なるほど。そういう風にも考えられますね。

「あたしが言えるのはループの可能性だけ、長門さんは世界改変されてることぐらいしか分からないみたいで、それ以外の推測はほとんどが古泉くんの考えです」

 古泉にありがちなことですね。とすると、ハルヒの能力云々については?

「それはあたしたち全員が分かりません。なので涼宮さんの力で元に戻ることができるというのは、あり得ることだと思います。

けど……それについても、あたしの考えと古泉くんの考えとで方法が変わってきます」

 どういうことですか?

「涼宮さんに能力が残されてるとしたら、古泉くんと長門さんは原状作出が鍵だと言ってるけど、

その条件はむしろあたしの考えが正しかった場合、つまり時間移動してなくて世界改変だけが行われていた場合に有効な手段です。

もし、古泉くんの考える通り、移動先の時間平面が書き換えられてるなら、原状作出は意味が無いはずです。あ、もちろん、元の世界と違う状態になってたらまずいんだけど……」

「というか、何年前だとしても、ループ世界に時間移動してきたって考えがそもそも矛盾してるんです!!

ループっていうのは、時間平面間の動的変化が停止した状態のことなのに、そこに移動してくるという前提での論理なんて最初から破綻してます!

大体どのパターンが……ん、移動してからループしたのかなぁ?

……そっ、それに静的事項を改変したって、ループしたらリセットされるだけじゃないですか!……あれ?

でもそうすると時間移動してなくてもおかしな話になっちゃうな??えーと、世界改変は間違いないから、ループ以外に未来に連絡できない理由も見当たらないし……

あれあれ!?どこがおかしんだろ??わっわっ、自分でもよく分かんなくなってきちゃった……」

 とりあえず落ち着いてください。今日はみんな突っ走り気味です。

「そうだね……そうだ、ん。落ち着いて……くーるにならなきゃ朝比奈みくる」

 ???

「とにかく、時間移動してて、かつループもしてるんなら、外部からの助けが必要になると思います。

でも、あたしが未来に連絡取れないのと同じで、古泉くんや長門さんも連絡が遮断されてるみたい……」

 うーん……俺には古泉の考えと朝比奈さんの考えのどちらが正しいかなんて分かりようもないが。

「長門にも話してみては?」

「長門さんは、自分の意見というのは出してくれないんです。

古泉くんの仮説を聞いても、あくまでそれに基づいた場合に考えられる結果だけ……、自分からこうなんじゃないか、とは言ってくれなくて……」

 長門にありがちなことですね。こういう状況に置かれても、ハルヒの観察に服務しているんでしょう。

「あと、世界改変者が誰かは分からないんだけど、ループについては、原因というか、関わりを持ってる 気がする人がいるんです。今日は特にそれをキョンくんに伝えたくて、来てもらったんです」

 それは誰ですか?

「古手梨花ちゃんです」

 まさか──と言えないのは、綿流しの後の梨花ちゃんを見たからだろう。

「時間という概念は、人の意識というものと深い関わりがあります。

人が時間の連続性を感じるのは、時間の流れが意識の流れに類似しているからで……厳密にはほぼ同じことなんだけど、それがあの子からは、……詳しく説明することはできませんが、普通の人のそれとは違う波動が感じられるんです。

つまり、あの梨花ちゃんだけは、未来人に限りなく近い感覚で時間というものを捉えているの。

それと……んと、奉納演舞っていうんですか?何でなのかは分からないけど、奇妙な形の物を振り上げて、お布団を突っついてる時に凄くそれが伝わってきて……その動作と梨花ちゃんとこの世界のループには、何か繋がりがあるような気がします。

あたしは、古手梨花ちゃんがループの中心にいると考えてます。

そして、外部の助けを借りずにこの時間平面から脱出するには、ループを終わらせるしかないと思います」

 結論を述べる朝比奈さんは……あぁそうだ、綿流しの後、
ハルヒを全否定した時のレナ、
そのやりとりを体温を感じさせない顔で見守る魅音、
達観した様子でハルヒを諭した梨花ちゃん

──彼女らと同じ目をしていた。

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