物語【魔界の扉編】
affirmation work U
オレは堪らず飛影に駆け寄った。
「…飛…影…っ」
手を伸ばして、飛影に抱き着いていた―…
飛影もオレを強く抱き締めてくれた。
片腕はオレの腰に、もう一方はオレの首に手を回して…
苦しい程に。
暫くそのままお互い動かなかった。
―暖かい―…
オレは飛影の温もりと香りに酔い痴れる―…
見た目に反して柔らかさのある飛影の髪がオレの頬に触れる。
その事だけでも、凄く胸が締め付けられる。
一度は死を覚悟したんだ。
貴方にもう二度と触れられないと思ったんだ。
飛影…貴方に触れられる事、こんなにも…
こんなにも…嬉しい―…
「…随分と素直だな―…」
沈黙を破ったのは飛影だった。
その台詞から、からかわれているのは明らかだったけれど。
でもね、貴方のこの服の感触でさえも、今は凄く愛しい―…
「…いけませんか…?」
「…いや。」
飛影の腕に力が加わった。
オレも応える様に、力を込めた。
「…飛影、身体は?」
抱き締めながら、やはり気になっていた事を聞く。
「お前こそどうなんだ…?」
―貴方の事を聞いたのに。
「えぇ、特に…」
師範の所で治療も受けたしね、と加えた。
「…でも飛影、どうして急に屋敷を出たんですか?」
飛影は少し身体を離し、オレの顔を見ながら言った。
「では何でお前はついて来た…?」
「…それ…は…」
“ついて来い”と言われた様に感じたなんて、勿論言える訳が無い。
そう思っただけで何の根拠も無いのだし…
「書いてあった。だから屋敷を出た。」
「…?」
書いてあった…?何を唐突に…
「お前の顔に、“俺に触れたい”と。」
「…!」
言い当てられて顔が紅くなる。
「やはりな。図星だろう…?」
どうして分かったんだ…
考えている最中に、腰に回された飛影の腕に先程よりも強い力が込められ…
「…!」
飛影はオレを抱えて、地を蹴った。
オレを解放して枝に座り込み、幹に寄り掛かる飛影に向かい合う形でオレも枝に座る。
「…どうして…?」
「高い場所の方が落ち着くからな。」
「そうじゃなくて…どうして分かったの…?」
「…さぁな。」
飛影は涼しい顔で目を閉じた。
この人は…いつもオレの先を行っている。
いつから…だろう…
オレはいつの間にか、この人に敵わなくなった。
オレの方が随分と大人なんだけれど…
目を閉じている飛影を見詰めながら、思いを馳せる。
「…何だ。」
急に飛影が目を開く。
紅い瞳が見えた。
その瞬間。
驚く程、胸が鳴った。
気が付けば。
オレは飛影の前に膝を着いて…
覆い被さる様に…
ゆっくりと…
口付けていた―…
(Vへ続く…)
★あとがき★
蔵馬、本当に嬉しかったんでしょうね〜。
もう二度と触れられないと思ったんだもの。
飛影が生きてる事は勿論、また感じる事が出来た飛影の温もりが。
お酒は弱くない蔵馬ですが、少しはそれも手伝っているのかな。
素直で少しだけ女々しい蔵馬です。
でも、蔵馬の強さを分かっているからこそ、そんな蔵馬も飛影は愛しいのでしょう。
お読み下さって有難うございました^^
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