物語【魔界の扉編】
affirmation work T
「カンパ〜〜〜イ!!!」
皆の声が響き渡る。
オレ達は生きて、今師範の屋敷に上がり込んでいた。
仙水等との闘いは、正しく死闘だった。
死を、覚悟した。
それでも…いいと思った。
“この間の貴方との事で、もう死んでもいいと思っているんです―…”
この台詞が当の本人に伝わったかどうかは分からないけれど―…
心の底からの言葉だった…
〜affirmation work〜
「お〜い、蔵馬!何考え込んでんだよ!パーッと呑もうぜ!!」
幽助の明るい声がする。
「そうだぜ、蔵馬!皆無事だったんだからよぉ!」
次いで、桑原君。
人間界を守れた事、皆無事だった事の祝いに託けての酒盛り中に、ボーッとしていないで酒を呑み進めろ、という訳だ。
「はいはい、呑んでますよ。」
笑ってそう言いながら、気になって目線だけで飛影を見る。
飛影は幽助に肩を組まれながら、特に会話に加わる事も無く、呑み食いに専念していた。
オレの視線には気付かない。
―機嫌…良さそうだな…
身体も…もう平気みたいだ…
黒龍波を二発も撃ったんだ。
少しの間、冬眠に入ったとは言え…心配だった。
オレは少しの安堵を肴にして酒を呑み進めた―…
三時間程経っただろうか…
時計は午前一時を回っていた。
女の子達は一時間程前に、そろそろ休むと言い残し奥の部屋へ向って行った。
師範も同じ頃、酔っ払って障子を破るなとか、床を汚すなとか散々幽助に注意して、自室に入って行った。
海藤達は限界が近いのか、バラバラと床に横になり始めた。
まだ呑み続けているのは、幽助、桑原君、コエンマ、そして飛影とオレの五人となった。
幽助が魔族だったとは、とか、コエンマのおしゃぶりにそんな秘密があったとは、とか、飛影が黒龍波を撃ち過ぎだ、とか、オレがいつの間にか妖狐に変化してた、とか…
同じ内容の話を飽きずにしている。
飛影は相変わらず特に返事をする訳でも無く、黙々と呑んでいた。
オレはどちらかと言うと海藤達の側に座っていたから、幽助や飛影を少し遠くから眺めている格好だ。
―飛影に触れたいな―…
ふと、そう思った。
素直な感情。
酒は呑んでいるけれど、そう酔った訳では無い。
元々酒は強い方で、それは人間の姿になっても然りだ。
―飛影…貴方が生きてる事、貴方に触れて確かめたい―…
心の中で飛影に話し掛けた。
裏男の腹の中での出来事の様に、今でも可能なのではないかと…
思ってはいないけれど。
何となく心の中で飛影に呟いてしまった。
あの時の事でさえ、本当は伝わってなかったのかも知れないのに。
無理を承知で、女々しく心の中で飛影に訴えるなんて、やはり少しは酔いが回っているのだろうか。
ところが、呑んでいる最中殆どこちらを見なかった飛影が、視線をこちらに寄越した。
まさか本当に聞こえた訳じゃ無いだろうし…
“どうしたの?”そう聞く様に少し首を傾げて飛影を見た。
「…」
飛影はじっとオレを見ている。
オレから視線を外さず、酒を呑む。
コトン…
飛影がグラスを置いた。
やはりオレから視線を外さずに…
その時。
“ついて来い…”
飛影の声が聞こえた気がした。
そしてその瞬間、飛影はふっと姿を消した―…
―速い…
飛影のスピードに感嘆しつつ、オレは立ち上がった。
残る三人に不審に思われないか気になったけれど、三人はもう潰れかけで。
それ以上に飛影を追いたい感情が先立って、オレは師範の屋敷を出た。
飛影は木々の枝を器用に渡って行く。
オレは飛影の姿を追った。
時折枝に止まり、こちらを振り返る。
やっと追い付いたと思うと、飛影は背を向けて再び駆け出す。
それを何度か繰り返した。
何処まで行くんだ―…?
追い付けない感覚に、段々と焦れてゆく。
からかわれている様な、遊ばれている様な…そんな感覚もあった。
けれど…
何より貴方に触れたかった―…
「…飛影…待っ…」
堪らず発した己の声が、思ったよりも上擦った。
その事に内心慌てる。
俺の声が聞こえたからか、飛影が止まった。
少し先の木の幹に寄り掛かり、オレを待っている…
オレは高鳴る己の鼓動を感じながら、飛影に近付いて行った―…
(Uへ続く…)
★あとがき★
始まりました、affirmation work!
仙水さん達と闘い直後の飛影と蔵馬です。
affirmation workとは確認作業、という意味で付けました。
造語なのかどうかは…わかりません;汗
言い訳は日記にて。
お読み下さって有難うございました^^
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