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REQUEST
龍の右腕

引き受ける仕事はボスの興味次第。
絶対の結束力、素早さ、正確さ。
たった数人で構成された組織は、確実に闇の世界で名を馳せてゆく事になる。

そんな闇の組織には一見結び付かない、と在る愛のお話―…



〜龍の右腕〜



「ボス!何故ですか?!」


机を叩く音と共に、その音に負けない位の怒号。
叩く音が派手であっても机の上に置かれた物が無事なのは、机を叩いた手の主が持ち合わせている、実は声を荒げる事が珍しい程の穏やかな性質のお陰だろう。

声を掛けられた筈の人物は、物音にも怒号にも少しの反応も見せず、それどころか返答もしない。


「ボス!今日の計画はオレが立てたモノです!行かせてくれとあんなに…」


返答が無いのはいつもの事なのだろう。
怯む事無く自らボスと呼んだ男に蔵馬は食って掛かった。

蔵馬。
この組織のNo.2である。


「ボス!!」


聞いてるのか、と尚も食って掛かれるのは。
ボスと呼ぶ男と引けを取らない実力を兼ね備えている事と、下手をすればワンマンに成りがちな性質のボスが、蔵馬を一に信頼している事実が有るからである。


「…前から言っているだろう、No.2の立場をもう少し意識しろ、と。」


無視を決め込んでいた男が、重い口を開いた。
この組織のボス、飛影である。

二年前まで別の組織に属していたが、やり方が気に入らない、と姿を晦ました。
飛影を好んで付いて来た者が何名か居り、今に至る。
前の組織に命を狙われる事も度々だが、全てを上手く回避出来ている程、有能な人物だけで構成された組織。
…事実上、飛影はこの組織のNo.1、ボスと呼ばれる立場に在る。


「それでも、この計画は…」

「これ位の案件でNo.2がいちいち出張るんじゃない。」


ぴしゃりと飛影は言った。
銃の手入れをしながら、面倒臭そうに蔵馬の言葉を聞き流していた顔を上げ、強い紅の瞳を向けて。


―ボスの言わんとする事は解る…

飛影の右腕としての立場をわきまえろ、と言う事だ。

それに、蔵馬は飛影の強い眼差しに逆らえない。
同じ立場で仕事をしていた時から…ずっと―…

机を叩いた右手を拳の形に変え、ぎゅっと力を込めて己を納得させる様蔵馬は努めた。


「…解り…ました。」


蔵馬は小さく頭を下げて、飛影に背を向けた。
頭を冷やす為に自室へ向おうと。

そんな蔵馬に声が掛けられた。


「蔵馬。…あの夜、二人で居る時は名で呼べと…言わなかったか…?」


飛影に向けた背が、ぴくりと小さく揺れた。


「部屋に戻り…」

「蔵馬。」


部屋に戻ると言い掛けた台詞を遮って、飛影は蔵馬の名を呼んだ。

立ち止まる蔵馬の背後に歩み寄り、飛影は蔵馬の腕を掴み上げる。
向きを変えさせ、そのまま向かい合う様にして、壁へと追い詰めた。


非常にまずい状況。
…蔵馬にとって。

蔵馬は飛影の強い眼差しが苦手だ。
感情がコントロール出来なくなる。
飛影の紅い瞳が間近で見えてしまう、至近距離も―…


「…蔵馬。」


飛影の低い声が、瞳と同じ様に至近距離で届けられる。
蔵馬は身体から力が奪われて行く様な感覚を覚えた。


「…わ…かってます…けど、ボスはボスで…」

「俺は“ボス”と呼ばれるのが本当は嫌いだと…そう言った筈だが…?」



―あの夜。
一ヶ月程前の…

舞い込んだ大きい仕事。
飛影等が抜けた前の組織も絡んでいる事が懸念されていた。

その当日。
飛影は蔵馬を一人、アジトに残る様命を下した。
その代わり、自分が出向く、と。
蔵馬は反対したが、それが飛影に認められる事は無かった。

結局、耐えられなくなった蔵馬が後を追い、現地に乗り込んだ時には敵の銃口が飛影に向けられていて。
思わずその間に蔵馬が入り込んだ。

飛影としては敵の弾道も計算の内だったのだが、目の前には残して来た筈の蔵馬が居て。

其処からは一瞬の出来事だった。

飛影の素早い動きと判断で、蔵馬も飛影も無事、計画は見事に遂行された。
…のだが。

アジトに戻った後、蔵馬は飛影の怒る様を初めて目にする事になった。

そしてまた。
飛影はこう言った。

“…だが、これで解った事が有る”と―…

それはまた、蔵馬も同じだった。
頭よりも身体が先に、飛影を救おうと動いた理由…


その夜、長い付き合いの二人の関係が変わった―…

飛影の…
無茶をするな
二人の時は名で呼べ
と言う、二つの約束と共に―…



「…忘れたか?」

「…そんな訳…っ」


壁に追い詰められたままの蔵馬は、揺れる瞳を飛影に向けた。

昔は…共に同じ立場で仕事をしていた時は、“飛影”と呼んでいた。
…呼べていた。

けれど、今は立場が違う。

まして、互いの想いを確かめ合う事が出来た今。
名で呼んでしまえば、何処かで歯止めを掛ける事が出来ているものが、崩れてしまう気がする…
それを蔵馬は恐れていた。

…未だ塞き止める事が出来ている想いが、溢れ出してしまう、と―…


きっと、そんな蔵馬の想いを解っていて飛影は言ってるのだ、と蔵馬は思う。

此処は常に命が脅かされる場。
いつでも冷静さを失くしてはいけない場だと言うのに。


「…お前がそこまで頑ななら、もういい。この間の事は忘れろ。」


冷たい台詞が蔵馬に投げられた。
飛影の手が離れていった己の腕が、急激に冷えた心地がした。

固まったままの蔵馬に、飛影が背を向ける。

其処まで広くない室内。
それでも蔵馬には、飛影が何処かに行ってしまう様に思えた。


「…っ!…飛影っ!」


蔵馬の口から思わず零れた、愛しい者の名。
何の計らいも無く、紡ぎ出された―…

飛影は歩みを止めた。
暫くそのままの時間が流れる。

蔵馬には何分もの様に思われたが…


「…呼んだな。」


そう言って振り返った飛影は、それはそれはシニカルな笑みを浮かべていて。

…やられた。
そう言えば昔からこの人はオレを上手く扱うのだ、と蔵馬が気付いた頃には既に遅く。


至極してやったり顔の飛影の胸に、蔵馬は綺麗に収められたのだった…


「…褒美をやろうか…?」


蔵馬の耳元で…
部下は聞いた事が無い様な、飛影の低く甘い声が響いた―…


此処は常に命が脅かされる場。
それ程大きくない仕事とは言え、部下は全員目下奮闘中。

そんな裏世界の闇組織の中。
似つかわしく無い、愛の物語―…



(END)



*7777*REQUEST
ゆきまむ様より 「寡黙で出来る主 飛影に仕える有能執事 蔵馬。結ばれて一ヶ月が経つのに、二人だけの時間にも蔵馬は“飛影”と呼べなくて…」
受付 2010.12.9  掲載 2011.1.18.....☆

★あとがき★
お初パラレル〜〜〜
ゆきまむ様、リクエスト、有難うございました^^
大分お待たせしてしまい、またいつもの様に駄文と言う事で、言葉が見付かりません(激汗)
お初モノと言う事で、お許し頂ければ幸いです…(´`;)
しかも、リクエスト内容を少し捻ってしまいました。。。
文句、超お待ちしております(苦笑)
ゆきまむ様、お読み下さった皆様、本当に有難うございました^^

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あきゅろす。
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