REQUEST 天の悪戯 「…何でこんな格好をしなきゃならん…」 「そんなの…コエンマのビデオの通りですよ。」 普段の数倍は不機嫌な飛影と、これまた珍しく不機嫌さを露にした蔵馬の会話は、言うまでもなく険悪。 互いに非は無いのだが…。 事はつい一時間前。 飛影の休暇が取れて久し振りに二人穏やかな時間を過ごしている処へ、“丁度良かった”等と言いながらぼたんがビデオと大きい紙袋を置いていったのは…。 「…なんでこんな格好をしなきゃ…」 「だから!コエンマの指令がパーティー会場に訪れる妖怪の密売人を捜し出すって言う内容だからですよ!」 同じ台詞を二回言いそうになった飛影を遮って、蔵馬が声を荒げて説明する。 「だからと言って何故、このじゃらじゃらした貴金属や帽子やお前の髪型まで指定されなきゃならん!」 「知りませんよ!オレだってこんな格好したくありません!…それに…折角貴方とゆっくりしていたのに…」 「…チッ」 二人の会話が表す様に、コエンマからの急な指令に対応すべく、二人は文句を言いながらも身支度中であった。 急な事で二人の時間を潰された事以上に二人が納得出来ないのは、ぼたんが置いていった大きい紙袋の中に用意されていた、二人の衣装だった。 早々に断れば良かった… けれど、蔵馬の人の善さと、“雪菜ちゃんが目を付けられているかも”のぼたんの台詞により、二人が断れないのは当然で。 まぁ、中々似合うじゃないか…と互いを見て内心思ったのは、少し頭が冷えた移動中の事だった―… コエンマに指定された山奥のパーティー会場に着いた二人は、静かに言葉を交わす。 「おい、妖気は消せよ。」 「分かってます。」 コエンマからの指令。 今日参加する予定の密売人の顔は割れていない為、気配で捜す事。 今日捕える事は考えずに、あくまでも確認が任務。 怪しい気配が無ければ、単純に食事を楽しんで来る様に。 ―食事を楽しんで来る様に―…? 飛影との時間を邪魔された事と指定された格好によって頭に血が上り、今更コエンマの言葉を頭の中で復唱する蔵馬が眉間に皺を寄せた。 「…飛影、今回の任務…おかしくないですか?」 「…タイミングと言い、格好と言い、おかしい事だらけだぞ。」 「…そうじゃなくて…」 「おい。」 飛影は蔵馬の耳元に近付き、蔵馬の言葉を遮って小声で続けた。 「たまたま俺が居て良かったと言う割には俺の衣装は用意されていたし、そもそも任務の内容がどうも薄っぺらい。それに…」 「…?」 「魔界蟲に似た奴がさっきから跟けて来てやがる…。何となく、霊界の匂いがする。」 「…貴方そこまで気付いてて…っ」 「色々と、さっき気付いた。それまで頭に来ていたんでな。」 堂々と飛影が言ってのけた。 蔵馬も飛影の事を言える立場では無い。 結局はお互い頭に血が上り過ぎて、おかしな点に気付くのが遅れたのだった。 「…とにかく…任務は遂行して、霊界に行きましょう。後はそれからです。」 「…だな。」 一応きちんと妖気は消して、渋々二人揃って門を潜ったのだった… ―霊界― 《極秘会議中》と書かれた立て看板が掲げられた会議室の中、楽しそうな声が飛び交っていた。 「コエンマ様ぁ、上手くいきましたね♪どうです?二人の姿、ちゃんと撮れてますかぁ?」 青のポニーテールを揺らしながら、ぼたんが目の前の人物に話し掛ける。 「うむ。予定通りだ!飛影のスーツ姿も見てみたかったし、蔵馬のポニーテールも久し振りに見たかったからのう…♪」 そう至極上機嫌に、コエンマが答える。 そのやり取りを聞いて、会議室の外に掲げられている立て看板の横で、見張りをさせられているジョルジュが小さく呟いたのだった。 「…分っかんないなぁ…」 ―つい先日の事。 「…何か面白い事無いですかねぇ、コエンマ様ぁ?最近、飛影と蔵馬が一緒に居る所も見れないし…」 「そうじゃなぁ…」 ぼたんの台詞が発端。 コエンマとぼたんがそれはそれは勝手な希望を言い合って出た結論を実行に移すべく、会議室に籠って作戦を立てたのだった。 勿論、この時も見張り役はジョルジュで。 二人が出した答えは、『普段は見れない格好の飛影と蔵馬のツーショットを激写しちゃおう☆』と言う、飛影と蔵馬にとっては何とも迷惑な内容だったのだ。 言わずもがな、任務とは只の出任せであった…。 「あ〜、ちゃんと撮れてる〜♪二人が腕組んでるトコ!」 ぼたんが歓喜の声を上げる。 「そりゃそうじゃ。このパーティーはカップル限定で、入口で腕を組まされるのじゃから♪」 「髪を下ろしてハットの飛影もいいですね〜」 「蔵馬のポニーテールは格別じゃのう〜」 パーティーが既に終了している時間でも、撮れた成果を確認しながら盛り上がる二人。 その二人に、真っ二つになった魔界蟲に似せたカメラが放られた。 と同時に投げかけられる台詞。 「と〜っても健全なパーティーで、密売人らしき怪しい気配は微塵も在りませんでしたね〜、飛影。」 「あぁ…、飯も酒も中々美味かったな。」 蔵馬と飛影の声であった。 言葉とは裏腹に、声は至極低い。 急な展開に、コエンマとぼたんは声のする方を振り返られないでいる。 「…コエンマ様ぁ…」 二人を止められなかった詫びの様に、ジョルジュの声が情けなく響いた。 それを切っ掛けに振り返ったコエンマとぼたんが見たのは、ニコニコと笑いながら殺気漂わせる蔵馬と、黒い炎を見え隠れさせている飛影の姿。 「…ご、ごく、御苦労じゃったのう、飛影、蔵馬…」 「あ…う…」 これまた情けないコエンマの声に続き、ぼたんも何か言うが、殆ど聞き取れない様なか細い声であった。 「あれ〜?何です、この写真とかスクリーンに映ってる映像とか♪」 「いっいや、その…」 「あ、飛影?何、忌呪帯法解いてるんですか?黒龍暴れちゃいますよっ?♪」 その蔵馬の台詞と飛影の妖気に固まる霊界の三人。 「その写真…と、ネガ…」 飛影の普段の数倍低い声が響く。 “寄越せ”という意味を逸早く理解したコエンマが、黒の妖気漂う飛影では無く、まだ顔が笑っている蔵馬に写真とネガを渡したのだった…。 冷や汗と腰が抜けそうな感覚に襲われているコエンマに、会議室の扉の前で、蔵馬がわざわざ振り返って言った。 「オレ達二人の前科、完全に消しておいて下さいね。」 闇の如く黒い炎で包まれている飛影と妖狐の顔をした蔵馬が、霊界を後にした―… 震えが止まるのに、一時間程要したコエンマとぼたん。 “次仕掛ける時はもっと綿密な計画を…”と、内心思う二人は、結局懲りない模様。 飛影と蔵馬を止められなかった見張り役のジョルジュが、八つ当たりも兼ねてお仕置きを喰らったとか… ―一方、人間界― 「まだゆっくりして行けるんですか…?」 思わぬ事で、二人の貴重な時間を邪魔されたのだ。 蔵馬が心配そうに問う。 「躯に遣い魔を回してる。霊界からの指令だったんだ、明日一日休んでも文句言われないだろう。」 その飛影の台詞に、蔵馬は心底嬉しそうな笑顔を向けた。 「良かった。何か飲み物でも入れてきますね♪」 そう言い残して部屋を出て行く蔵馬の後ろ姿を、飛影は黙って見送った。 普段とは違う、高い位置に纏められている所為で、小さな動きでも反応して艶やかな髪が揺れる。 普段は長い髪に隠れている、白いうなじを眺めながら… ―たまにはああいう格好も悪くない―… と、心底思うのだった… 一方、階段を下りながら蔵馬は思う。 ―飛影って、ハットも髪を下ろすのも似合うんだな―… 何と言うか…色気が増していて、普段とは全く雰囲気が違って… 緊張で料理の味を覚えていないなんて… 初デートの女性じゃあるまいし。 そんな風に己を省みる。 それでも、滅多に出来る事じゃない外での飛影との食事を思い出して熱くなる顔を元に戻そうと、パタパタと手の平で起こす微弱な風に頬を当てるのだった… 回収して来たネガと写真。 蔵馬が飼っている食肉植物の餌になるのと飛影の炎で消し去られるのと、二つの手段で綺麗に処分されたのだが。 …お互い内緒で一枚ずつ懐に入れたとか。 結局は、霊界の青鬼が一番可哀想だった…というお話―… (END) *4000*REQUEST みんと様より 「腐男子コエンマ様と腐女子ぼたん様で、何かしら飛蔵でよろしく」 受付 2010.9.1 掲載 2010.9.7.....☆ ★あとがき★ .............................笑 みんと様、キリ番お踏み下さった上にリクエスト下さいまして、有難うございました^^ 飛蔵の絡みが少ないですね(汗) ごめんなさい 腐男子コエンマと腐女子ぼたん、出ばりました!! 後管理人の嗜好によりジョルジュ早乙女も! 彼、真っ当な一般人でした(笑) 少しでもみんと様に楽しんで頂ければ幸いです♪ みんと様、お読み下さった皆様、有難うございました^^ [*前へ][次へ#] [戻る] |