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非日常風景

気に入りの木の上に、人知れず寄り掛かって休む黒い影。
“公園”と呼ばれる敷地の木の上の存在に気付く者等居ない。

只一人、蔵馬を除いては…



〜非日常風景〜



「飛影。」


その蔵馬が木の上の黒い影…飛影に声を掛けた。
飛影としては近付いて来る微かな蔵馬の妖気に気付いていたものの、特に声を掛ける訳でもなく、そのままやり過ごすつもりであった。

声がした方向を目線でのみ見下ろすと、堅苦しい格好をした蔵馬が居り、“学校”とやらの帰りだと見て取れた。


「飛影。」


飛影の居る大樹を真っ直ぐに見上げて、再度声を掛けてくる蔵馬に、渋々応えた。


「…何だ。」


“不機嫌”とまではいかないものの、決して“上機嫌”ではない飛影の声が蔵馬に届いた。


「ずっと外に居たら、今の季節、暑さにやられるよ?」


蔵馬は敢えて“熱射病”という言葉は使わなかった。
飛影に人間界の病名が解る訳は無いし、解らない言葉を使って飛影の機嫌を損ねるのは躊躇われたからだ。


「…フン。そんなモノにやられるか。」


人間界の暦は、7月がもう其処までやって来ていた。
気温の変化に強い妖怪と言えど、暑くない訳が無い季節。
飛影とて、暑さを感じてない訳では無かった。

そこは蔵馬に言わせると“鈍感”の二文字にされてしまう。
飛影は自分に襲い掛かる“痛み”や“辛さ”を感じない様にする性質がある。
自分に厳しいというか何と言うか…

だからこそ、心配で声を掛けているというのに―…

もちろん、熱射病なんて人間の病で、妖怪がそれに近い症状に陥ったとしても命に関わる訳では無い。
そんな事、妖怪の身も人間の身も経験済みの蔵馬が百も承知…なのだが、何故か蔵馬は飛影を放って置けないのだった。


「そう…ですか。」

「あぁ、だから早く帰れ。」

「…何かあったら…ウチ、来ていいですからね?」


そう言い残して蔵馬は飛影の居る大樹に背を向けた。


少しだけ、ほんの少しだけ沈んだ蔵馬の声に、もう少し話を聞いてやれば良かった等と思い掛けた飛影だったが…

既に居ない蔵馬に向かって呟いた。

「…馬鹿が。」


毎日忙しいのか知らないが、疲れが顔色に出ていた。
そんな蔵馬を自分の居場所とは違う、日当りの良い場所に立たせておきたくはなかった。

―…人の心配をする前に、自分の身体の異変に気付いたらどうだ…


飛影は僅かに吹く風を感じて目を閉じた―…



次の日から、気候は一変、過ごし易い日々が続いた。
身体を動かす為に移動し始めるとやはり夏らしく暑いのだが、気に入りの木に腰を下ろすと何とも涼しい。
日陰に入れば過ごし易いとは、“冷夏”という事だろうか。
昔蔵馬から聞いた人間界の言葉であった。


ふと考えながら、今日も飛影は鍛錬する為、気に入りの木から飛び去った。


夕刻、気に入りの木の上で休む為公園に戻ると、幽助と桑原が談笑しながら歩いているのが見える。
気配を消して移動していた為、飛影の存在には気付いていない。

二人に捕まるのが面倒だと思った飛影は、幽助達より遠い場所に在る別の木に降り立った。


―今日は暑いな…

ここ数日過ごし易かったのに、と一人舌打ちをする。

暫くすると幽助達が公園から出て行くのが見えた。
やはり気に入りの場所が良いと、其処まで移動し腰を下ろしたのだが―…


―何故此処はこんなに涼しいんだ…?


先程の場所とそんなに離れていない、しかも同じ日陰なのに。
そう不思議に思う程、いつもの場所は涼しかった。


“今の季節、暑さにやられるよ…?”

蔵馬の台詞が思い出された。

飛影は何かに気付いた様に邪眼を開く。
そして気に入りの木をじっと見詰めた…


―やはりな―…

ほんの僅かに蔵馬の妖気を感じ取る事が出来た。

蔵馬は飛影が過ごし易い様に、飛影の気に入りの大樹に仕掛けを施していた。
たまたま数日気温が下がった訳では無く、蔵馬の仕掛けの所為だと…飛影の中で合点がいった。


「…ほとほと甘い奴―…」

飛影は目を閉じて、微かに笑みを浮かべた。
僅かに感じ取れた蔵馬の妖気を楽しむ様に―…



翌日、木の上で眠る飛影を見上げる蔵馬が居た。
飛影は目を閉じたまま…

声を掛ける事も無く背を向けた蔵馬に飛影が声を掛けた。

「蔵馬。」

「あぁ、起きてたんですか?」


蔵馬の質問には答えず飛影は続けた。

「今日は“暑さにやられる”と注意していかないのか…?」

「…?」


蔵馬は飛影の言いたい事が解らない。
下手に意見すれば機嫌を壊すのは貴方じゃないか…と心の中で呟く。


「それとも、もう注意する必要が無くなったか…?木に仕掛けを施して。」

「…っ」

やっと、飛影が言いたい事を理解した。

蔵馬は飛影の気に入り木に妖気を通した。
飛影が過ごし易い様に、暑さで身体に負担を掛けない様に、と…
自分の妖気を感付かれない様、精緻に―…

まさかそれがバレるとは露にも思っていなかった。

言い訳は…何てしたらいいだろう…
蔵馬は焦った。
飛影に、どう思われるのだろう―…

本当はいつもの様に、“オレのお陰で過ごし易いでしょう?”と優位に立てばいいのに。
蔵馬はそれを言葉に出来なかった。


一人固まる蔵馬を、飛影は隠れて小さく笑った。
そして地上に降りると、一瞬で蔵馬を抱え、再び木の上に戻った。


「わっ…」

急な事に、蔵馬は驚きの声を上げる。
そんな蔵馬を余所に、定位置に腰を下ろした飛影は、蔵馬を己の足の間に座らせた。


「飛…影…?」

蔵馬は戸惑いの声で尋ねる。


そんな蔵馬を無視して、蔵馬の腰に手を回し引き寄せた。
蔵馬が飛影に寄り掛かる形になる。


「あ…の…」

「…寝る。お前も寝ろ。」

「…え?」


蔵馬が首を捻って後ろを盗み見ると、既に飛影は目を瞑っていた。
本気で眠ってはいないだろう飛影の顔を見詰めた。
けれど飛影の顔を見詰めても、飛影の意図が読める筈も無く、諦めておずおずと飛影に寄り掛かった。

飛影の腕は相変わらず蔵馬を抱き締めたまま。
恥ずかしさと緊張も合わさり、ましてやこんな状況で眠れる訳も無く…
蔵馬は飛影の腕に収まったまま、いつもと違う眺めの公園に目を向けていた。


「あ…雨…」

ポツポツと降り出した雨を見て、蔵馬が声にする。
既に世間は梅雨入りしている為、当たり前の天候なのだが。

飛影は蔵馬の声に、閉じていた目を開けた。

「この木は雨も通さないのか。」

雨も、と言うのは心地悪い湿気も感じないからだろう。


「あ…えぇ…。」

蔵馬はそれしか答える事が出来なかった。
問い質されるかと思ったが、飛影はそれ以上何も聞かなかった。
蔵馬はその事にとても助けられた。
何故飛影の事をそこまで想うのか…聞かれる様なものだったから―…


「此処で休めないのなら、さっさと家に帰って休むんだな。血色の悪いツラで彷徨くな。」


あぁ、気付かれていたんだと蔵馬は思った。
確かにここ数日、体調が優れなかった。
その中で、飛影の気に入りの木に妖気を通した。
その所為で体調がなかなか戻らないのも事実で。


“さっさと家に帰れ”という台詞に反して、蔵馬を抱く飛影の腕に力が込められた事に、蔵馬も当の飛影も気付いてはいない―…


「…無駄に妖気を使いやがって…」


飛影が小さく呟いた。
言葉は乱暴だけれど、蔵馬の胸には優しく響いた。


「もう少し…此処に居ます…」

雨も降り出したし…と蔵馬は言い訳の様に付け足した。


飛影は何も返さなかった。
何となく飛影の身体の力が少し抜けた感覚だけ、蔵馬に伝わった。
その意味を、二人は未だ知り得ない―…


雨の音と、たまに通る学生の声が聞こえるのみ。
二人を包む空気は、静かな…それでいて心地いい空気―…

それが蔵馬の妖気を通した木のお陰だけでない事に、少しずつ気付き始めた二人―…


夕刻だというのに暑い空気。
梅雨ならではの気まぐれな天候。
普段通りの公園。

その中の、木の上の二人の寄り添う影…
それだけはいつもと違う風景―…



(END)



*2000*REQUEST
ツカサ様より「飛蔵で甘々爽やかな季節物」
受付 2010.6.21  掲載 2010.6.23.....☆

★あとがき★
甘々?爽やか?季節物?唯一お応え出来たのは“飛蔵”…(トホホ)
ツカサ様、申し訳有りません。。。汗
まだ結ばれる前の物語みたいです。
蔵馬が体調不良の中どうしても飛影が心配で、そんな無茶する蔵馬を見て飛影が腹を立てる。
どうもウチの二人のパターンの様です。
まだお互い自分の気持ちにハッキリ気付いてなくとも、何かしらあったんですね〜。
と、他人事の様に…(笑)
あ、題名造語デス…
ツカサ様、キリリク本当に嬉しかったです♪
駄作でしかお応え出来ずに申し訳有りません〜(死)
ツカサ様、本当に本当に有難うございました^^

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あきゅろす。
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