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一日目
その日は朝から雨がふっていて、とてもさむかった。もう春だったのにさむかったんだ。
ごはんも何日も食べてなくて、ふらふらと食べ物を探して森を歩いてた。

でも途中でたおれたんだと思う。
覚えてるのは、真っ暗な冷たいとこにいたのに、気がついたらあったかいものに包まれて、知らない人がオレの顔をのぞき込んでたことだ。
それがクラトスだった。
オレはびっくりして(だって、そのときは全然知らない人だし)、毛を逆立たせてにげた。すぐにつかまったけど。あったかかったのはクラトスのうでの中にいたからだった。
クラトスは「こんな体でどこに行く気だ」って言った。もしかしたら怒ってたかも。
でもオレはまだびっくりしてたから、足をバタバタしながら「オレは森で一匹ネコとして生きていくんだ!」って言った。
そしたらクラトスはヘンな顔をして「なんだそれは」って言った。オレは気づいたらもうひとりだったし、これからもひとりで生きていくんだ、って思ってたから当たり前のことを言ったんだ。
でもクラトスは「ここ数日何も食べていないのだろう。帰る所がないならここにいなさい」って言った。オレはまたびっくりして、目をぱちぱちさせた。

「私はクラトスだ。名前は?」

「ロ…ロイド…」

「そうか。ロイド、よろしく」

そう言ってクラトスは少しだけ笑った。

そのあと、あったかい甘いミルクの入ったカップをオレにわたして飲みなさいって言った。おいしそうな匂いに負けてクラトスのうでの中でそれをのんだ。そのあいだクラトスはずっと頭をなでてくれて、オレは初めてそのうでの中で眠った。


†††


その日は朝から雨で春先だというのに大分冷え込んでいた。

私は長期の仕事を終えて帰宅する途中だった。
自宅近くの森に差し掛かったとき、茂みの方から何か倒れたような音がした。何か動物でも行き倒れたかと無視してそのまま通り過ぎよう思ったが妙に気になった。見に行くとネコの耳と尻尾を生やした獣人の子どもが倒れていた。
それがロイドだった。
触れると長時間雨に打たれていたのだろう、随分と身体が冷えていた。顔色もよくない。私はロイドを抱かかえて家路を急いだ。

濡れた服を脱がせて身体を拭いてやる。思ったより細い身体に胸が締め付けられそうになる。
おかしなものだ。まだ私にもこんな感情が残っていたとは…気がついたらロイドを抱きしめて横になっていた。
しばらくするとロイドは目を覚ましてびっくりして逃げようとした。知らない人間に抱きしめられていては当たり前だが。
「森で一匹ネコとして生きていく」と言われた時はさすがにあきれたがこの子を離す気にはなれなかった。
帰るところがないのならここにいろと言えば目をぱちぱちさせて驚いていた。何とも可愛らしいことか。
自己紹介をすませて温かいミルクをいれた。少しでも栄養をと思って蜂蜜もいれた。それがよかったのかロイドはしっかりと全部飲んでくれた。
そして頭を撫でているとそのまま私の腕の中で眠ってくれた。それだけで何故か心が満たされる気がした。




はじめ 二日目(前編)


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