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第一章
25「どうせあんたと同じことだ」


「なぜ、奴を連れ帰ってこなかった!!」

彼女が叫ぶと同時に、間にあった蝋燭が大げさに揺れた。
風は吹いていないのに、どうやら彼女の剣幕に揺さぶられたようだ。


彼女と向き合った風魔はしかし、剣幕に畏怖するでもなく、ただそこになおっている。


「・・・ひとつ、分かったことがある」


珍しく口を聞いた風魔に、彼女は少し驚き目を細める。


「分かったことじゃと?」
「あやつ・・・、過去の記憶を失っているようだった」
「――なんじゃと!?」
「真の名について問うた時、あまりにも不安定になっていた。もし記憶があるのならば、あんな弱みは見せないはず。
見せることで、その場にいた伊達政宗にも不信感を持たせることになるのに」
「・・・伊達政宗・・・」


忌々しそうに、政宗の名を彼女は吐き捨てた。


「しかしそれが真なら、失った過去を思い出させれば・・・、ひとつの可能性が生まれる」


「『柊』。・・・それが今の名です」



「・・・『柊』。可哀想な『柊』。
待っておいで、今すぐにそなたの失ったものを取り戻させよう。さすればそなたも、我に会いたいと願うはず」



「ああ、『柊』。
はようそなたに、―――逢いたい、逢いたい」











「どうやら、織田軍が浅井を討ち取ったようです」
「――浅井を!? どうゆうことだ」
「噂では、妹君のお市殿を人質にとったとか・・・」
「自分の妹を? ――天下取るためなら、利用できるもんは利用し尽すってことか」


嫌なものでも見てしまったかのように、政宗は忌々しそうに眉を寄せる。


「――coolじゃねぇな。 I don’t like it(気に食わねぇ)」
「恐らく次は甲斐、そして上杉を狙ってくるでしょう。その次は――」
「ああ、そうだな。 織田のおっさんは鉄砲っつー南蛮の武器を使うんだったな」
「はい。小さな鉛を、人の体に食い込ませるほどの速さで打ち出せる代物です」
「厄介だな」


言葉とは裏腹に、どこか面白そうに笑う政宗に、彼は楽しんでいるのだと感じた。
その笑った目を下座にいる小十郎のさらに奥へと向ける。


「で、織田の軍勢はどれほどだったか、――前田慶次」


前田慶次、と呼ばれ、楽しんでいる彼に慶次は苦笑いした。


「すまねぇが、俺には織田軍の事はよくわからなくてね。利とか松ねぇちゃんならよく知ってるんだが」
「だろうな・・・。ここに来て、探りのひとつやふたつするのかと思っていたのに、全く動きをみせねぇ。
前田家の中で、お前だけは本当に風来坊らしい」


その言葉にふと慶次はある事実を思い出す。
この城に来て暫くはどこからか見張られていた気配があった。奇襲後、政宗のところに寄り付くようになってからはその気配も消えた。
――二段階で見張りをされていた、ということだろう。最初は忍、そして政宗、政宗が席を外していた時は・・・、成実か。


「――よくやるよなぁ、アンタも。あんな忙しい中でよ」


含み笑いを政宗へと向ければ政宗も口のさきをクイっと上げ、笑った。
しかしそれくらいの疑り深さがなければ城すら護ることができない。国なんてもってのほかだ。


ふたりの話に、終止符を打つように小十郎が咳払いをした。


「・・・織田軍は、桶狭間にて尾張を支配していた今川義元を討ち取り、現在は美濃に攻め入っています。
このまま尾張、そして美濃が支配下になれば・・・、軍勢はおよそ2万。
また、甲斐へと進むことを目的としている徳川と同盟関係を結んでいます」
「2万・・・。それに、徳川とも同盟関係ともなりゃあ、さらに数は増えるな」
「その通りです」
「こりゃあこっちも手を打たねぇといけねぇな。――小十郎、例の件、進めておいてくれ」
「承知しました」


立ち上がり、部屋を後にする小十郎を目で見送り、政宗は視線を再び慶次に戻す。


「・・・巻き込まれたくなかったら、さっさとここを離れることだな。――いずれ戦になる。
その時までお前がいるってんなら、俺は遠慮なくお前を『利用』するぜ?」
「――はは、アンタになら『利用』されても構わねぇよ」


政宗の言う『利用』とは、織田のように意地汚い意味ではなく、きっと『戦力のひとつとして』という意味だろう。
政宗は正々堂々と戦うことを信念としているから、そのような汚い手を使うはずはなかった。
慶次がそれを悟っていることを政宗も気づき、だから少し不機嫌そうに顔を歪めた。


「・・・お前にとっちゃ、どういう意味の『利用』であれ、変わらないだろ。俺たちの敵は織田なんだからよ」
「ああ、そうだな。――だが、利がどうであれ、俺は織田のやり方には賛成できない」


織田に仕える前田家の人間である、という事実はどうあっても変えることはできない。たとえ慶次が風来坊でも、だ。
だから慶次がもし、織田に対抗するようなことがあれば、前田家がどうなるか、それは目に見えていた。


「――まぁ俺はもう少し、事の成り行きを見守るよ。気になることもある事だし」
「気になること?」
「どうせあんたと同じことだ」
「・・・・・柊のことか?」
「はは、ご名答。まぁ正確には、政宗と、柊ちゃん」
「An? 俺と柊だと? どういうことだ」





「好きなんだろ、柊ちゃんのこと」






「・・・・A”a”n・・・?」
「いや、ちょ、落ち着いて。抜刀しようとしないで」
「話は終わりだ」


そう言ってさっさと部屋を出て行った政宗に、慶次は内心ため息を溢す。


「・・・いつ何があるかわからねぇんだ。いつまでも、好いた相手が傍にいるとは限らない」

――命短し、人よ恋せよ。
脳裏を掠めた「彼女」の姿を、慶次はまだ名残惜しく追いかけていた。












読者のみなさま、ここに出てくる歴史は史実であって史実ではありません。
こちらの都合のよいようにいろいろ改ざんしております(汗
そんでもって今更ですが、設定はまだ織田さんが天下を治める前のお話です。
いやぁ、今こそ歴史に興味があるものの、中学高校時代はだいっきらいでしたww
みなさん似たり寄ったりな名前ばっかで暗記苦手なあひるは歴史天敵でした、はい。
なのでいろいろ文化とか暮らしとかも、おかしいことが沢山あると思いますが、
どうか生ぬるい目で見守っていただけると嬉しいです。・・・orz





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