「また、こんなところにいるのかい?」 知った声に振り返れば、そこにはスーツをきっちりと着こなし、後ろには葉っぱを加えたリーゼントを引き連れた彼、雲雀さんがいた。なぜ彼がここにいるのかなんて知らないけど、とりあえず、ペコっと頭を下げておく。 「また、眠れないのかい?」 [へいき] 「ふうん。また寝れなくなったらいつでもおいで」 いや、もうそんなことにならないことを願います。と心の中で呟いて、顔をひきつらせる。だって、そんなことしたら、明らかにまた薬を飲まされて、抱き枕のごとく一緒に布団で寝てしまうことになるわけで、これでも実年齢17歳の私にだって羞恥心というのがある。 実年齢なんていうと、まるで年齢をさばよんでいるようだけど、今現在見た目は5歳なので気にしない。 「で、何をしてるの」 彼は、再び私に聞いてきた。その声音は別に責めているわけでもなくただ疑問に思ってのこと。しかし、その顔にはわずかに笑みを浮かべているところから、きっと私を見て楽しんでいるんだろう。 [おさんぽ?] 「そう。それより、赤ん坊のところにはいかないのかい?」 なんの脈絡もなしに赤ん坊、つまりリボーンの話題が出てきたときに驚いた。なんで、彼がそんなことをいうんだろう。それに、行かないのかって、いけないの間違いなんだけど。 [にんむちゅう] その言葉に、彼は口端を吊り上げた。そして、後ろにいる草壁さんはわずかに眉間にしわを寄せる。 「それ、誰かに聞いたの?」 首を横に振る。でも、部屋にはいない。お父さんの執務室をのぞいたけどいなかった。他はどこにいるのかなんて知らない。だったら任務だと思っていた方が、気が楽だった。きっと、そんなこと彼も分かっているんだろう。というより、私以上に私の気持ちを理解していそうだ。 彼の切れ長の目に見つめられれば、私の虚勢も何もかも意味をなくしてしまいそうでちょっと苦手だ。見透かされている。 [ちがうけど…、いないから] 「ふうん。君って17歳なのに結構馬鹿なんだね」 なっ!?そ、その言われようは酷くないですか!?確かに、頭の回転は速い方ではないけど、これでも瞬間記憶能力があったおかげでテストはいつも高得点だったのに。まあ、そのおかげでいろいろと言われたことはあったけど…。 「待ってるだけじゃなくて会いに行けばいいんじゃない?」 彼が言わんとしていることがよくわからなくて、首をかしげる。 「赤ん坊だって部屋には帰ってくるでしょ」 「恭さん、時間が」 草壁さんが控え目に後ろから声をかけると、彼は少しむっとしてから再び口端を吊り上げる。 「まあ、僕としては君がどうしようと、彼がどうしようと知って事ではないけどね」 そういいながら、歩き去ってしまった雲雀さん。草壁さんは、私に一礼してから彼を追いかけていった。律儀だなあと、少し呆ける。 ところで、雲雀は結局何が言いたかったんだ?? リボーンが部屋に帰ってくるのは当り前だろう。だって自分の部屋なんだから。自分の部屋に帰ってこなかったらそこは自分の部屋だなんて言えないだろうし…。 待ってるだけっていうのは、私がリボーンが来てくれるのを待っているっていうことで、会いに行けというのは、私が行動をしろってことだよね?それはわかるんだけど…。 なんで部屋のことがでてくるの? 雲雀さんの考えていることはやっぱりよくわからない。それに、どうでもいいんだったら、無視しちゃえばいいのに…。 でも、確かにどうしてさけられているのかは知りたい、かも…。でも、知るのを怖がっている自分もいるのは確かだ。だって、これでもし嫌いになった、面倒になった、というか最初っから面倒だった、などと言われてしまえば、私はきっと立ち直れなくなってしまうと思う。 どうしようかな…。 その場に、ペタンと座り込み考える。 私の小さな少しむちっとした足がスカートからのぞく。子供の足だなあ。なんて考えながら、自分の足をこれまた小さな手で叩いてみる。 「何してるんですか?紫杏」 声をかけられて視線を上げれば、ランボがいた。 [ひさしぶり] 「お久しぶりです。紫杏」 [おしごとおわったの?] 「はい。ボンゴレも随分人使いが荒くなったものだ…。やれやれ」 もじゃもじゃの頭をかくランボは本当に久しぶりで、この人もパーティー以来じゃないかと思う。 [がいこくにいってたの?] 「はい。ああ、これは紫杏にお土産です」 そういって渡されたのは、かわいいキーホルダーだった。それを鞄につければ、ランボは嬉しそうにほほ笑んでくれて、私も少し嬉しくなる。 「ところで、こんなところで座り込んで何をしていたのですか?」 その質問になんてこたえようか迷う。だって、とくに何をしてるという訳でもなかったんだから。 [りぼーんのへやでまちぶせしようかかんがえちゅう?] うん。これがきっと今は一番あっているきがする。 「り、リボーン…。リボーンの部屋は無数にしかけがあるから…」 顔を真っ青にするランボ。もしかして入ったことあるのかな?でも、仕掛けなんてあったっけ?私、前に入ったことあるけど何もなかったはず…。 [なにもないよ?] 「へ?」 [まえに、はいったから] 「り、リボーンの部屋になんて紫杏ぐらいしか入れないですよ。俺が入ったら、すぐに銃で…」 何かを思い出したのか、ぶるっと体を震わせるランボ。そういえば、ランボとリボーンって仲わるかったっけ? 「リボーンは、昔から俺に銃を向けてきて、やれ、泣き虫だ、やれうるさいだって言ってくるんです。俺だって、俺だって守護者なのにっ!」 いつの間にか、愚痴りモードに入ってしまっているランボは、廊下の隅に三角座りをしてズーンと沈んでしまっている。 でも、前にリボーンに聞いたら、あいつが向かってくるから俺は打ち返しただけだ。と言っていた。それに格下は相手にしねえとも言っていた。つまり、リボーンにとってランボは格下という訳で、ランボはそれが悔しい、と? とりあえず、未だに愚痴を言っているランボの頭を撫でる。 ランボの癖っ毛が手にくすぐったい。 「…紫杏っ!」 ぐすぐすと泣き始めたランボは私を抱きしめるとさらに泣きだしてしまった。さっき、泣きむしって言われるって言ってたけど、それは本当だと思う。でも、そこもランボのいいところだと私は思うよ。 泣けなくなるよりはずっと良い。 しばらく、ランボの頭を撫でていれば、ようやく落ち着いてきたのは私から離れていった。 そして、はずかしそうにはにかんでどっちが子供かわかりませんねとも言った。 いや、これでも精神年齢は17歳だしランボより年上のはずなんだよ、と心の中で呟いておく。 うん。でも、リボーンのことを思い出したから、会いたくなってきた。 [りぼーんのおへやにいってくる] 「き、気をつけてくださいね…」 部屋に行くといえば、顔をサアッと青ざめさせてそそくさとどこかに行ってしまった。途中、向こうの方でボンッと音が聞こえたのは気のせいだと思う。というか、気のせいということにしておこう。 |