次に出会ったのは隼人だった。隼人は眼鏡をかけ、書類を片手に廊下を進んでいる。後ろで髪はひとつに束ねている姿は、頭がよさそうに見えた。 いや、実際に隼人は頭が良いと思う。 「獄寺」 不意に、リボーンが隼人を呼ぶと、そこにリボーンがいると思っていなかったからか、突然呼ばれたからか、肩をはねさせて勢いよく書類から顔をあげた。 「り、リボーンさん!それに紫杏も。どうしたんすか?こんなところで」 「お前こそ、難しい顔してどうしたんだ。俺は紫杏のお仕事調査だぞ」 「…仕事調査っすか」 そういえば、隼人はなんでリボーンには敬語なんだろう?一応リボーンって隼人より年下だよね? 「俺はちょっと、調べ物を…」 「じゃあ、今暇だな」 「いえ、でも…」 「暇だな」 「…はい。暇っす」 「ほら、紫杏質問するんだろ」 強制的に暇だと言わされた隼人に、心の中で謝りながらも、リボーンに促されるままにさっきたけにいにもした言葉をかく。 [はやともしゅごしゃ?] 隼人は、チラッとリボーンに視線をやってから眼鏡を外した。エメラルドの瞳は私も好きだった。知性が見えるその瞳は、乱暴な言葉遣いとは違いとても優しいものだ。ただ、とても不器用なのだと思う。というか、シャイ? 「ああ。嵐の守護者だ」 「しめいは?」 「荒々しく吹き荒れる疾風(はやて)。常に攻撃の核となり、休むことのない怒濤の嵐となること」 隼人はそういって、リングに炎をともして見せてくれた。隼人のリングにはワインレッドに近い色の赤い炎が灯っていた。 触ろうと手を伸ばしたら、触れる前に炎を消されてしまった。 「触ったら、怪我するぞ」 そういって、たくさんの指輪をはめた手で頭を撫でられた。なんというか、皆頭を撫でてくるけど、ちょうどいい高さなんだろうか…。 そんなことを思っていると、何やら二人はイタリア語で会話をし始めた。私は黙ってその話しを聞く。といっても、イタリア語は知らないから何をいっているのかまったくわからない。 ただ、深刻そうな雰囲気だけはビシバシと伝わってきた。 じっと耳を傾けていると、何度も聞こえるデーチモとマイという言葉。マイと言うのは多分お母さんだ。デーチモは確か、前に第10番目とかいっていう意味だと見たことがある気がする。 お母さんが、10番目?どういう意味だろう。 あまりにも深刻な顔をする二人。なんだか不安になってきて、リボーンのスーツを握った。それがわかったからか、リボーンの瞳がこちらを見る。真っ暗な夜のような瞳には、さっきまであった深刻さなんてどこにもなかった。 「どうした?」 [おかあさんに、なにかあった?] 「……なんでそう思うんだ」 [まいっていった。10ばんめもいった] 「紫杏…」 私が書いた言葉を呼んでから、二人は顔を見合わせた。それから、また二言三言イタリア語で話すと、隼人は私の頭をもう一度撫でてから立ち去って行った。 リボーンを見上げると、リボーンは私を覗き込むようにこっちを見ていた。その視線に縋りつくように、見上げる。 「…大丈夫だぞ。紫杏は何も気にしなくていい」 そういってまた頭を撫でられた。私は、これ以上何をきいても答えてくれることはないと分かって、そのままリボーンの肩に顔を埋めた。トントン、と背中を叩いてくれるリボーンの手は暖かくて、安心できた。 |