今日はお父さんのところに向かうことになった。リボーンにいわく、ボスの仕事を知っておいた方がいいとのこと。でも、正直行きたくない気持ちでいっぱいだった。 でも、そんな私の気持ちとは裏腹に執務室にはどんどん近づいて行くわけで、とうとう目の前に来た。ここまで来てしまったんだし、覚悟を決めよう。と思って、息を吸い込もうとしたとき、リボーンが先に動いていた。 「入るぞ」 ノックもすることなく、ノブを回し扉をあけるリボーン。中には、ちょうど休憩中だったのか、お茶を楽しんでいるお母さんたちがいた。 「リボーン。ノックぐらいしろよな。というか、返事ぐらい待てっていってるだろ!」 口に運ぼうとしていたコーヒーカップを戻し、お父さんはリボーンに向かって怒る。でも、リボーンはそんなの気にしていないというようににやりと口角をあげた。 「フン、これぐらい気配で感じ取れるようにならねえとな」 「屋敷内で、そこまで気を張らせるなよ」 「屋敷内だからこそだぞ」 「あー、はいはい。わかったから。で?何かあった?紫杏まで連れて」 その言葉に反応したのは、お母さんだった。紫杏ちゃん!?と勢いよく振り返ったお母さん。 私たち側にお母さんが座っていて、その向かいにお父さんが座っていたから、今までずっとお母さんの後頭部が見えているだけだった。髪を翻し、こちらを向いたお母さんは、私を認めると顔を輝かせた。そして、おいでと手招きをされるから、お母さんのほうへ駆け寄る。 「3日ぶり、かしら?」 コクン、とうなずく。3日前にお母さんを屋敷に迎えた時以来だ。 お母さんのお腹はほんの少しだけ膨らんできている。もともと、細い人だったから少しといってもけっこう目だっているような気がする。 お母さんは、私のわきに手を差し込み、持ち上げようとする。しかし、私の体は宙を浮き、テーブルを飛び越えた。そして、着地したのはお父さんの膝の上。 お母さんが抱き上げようとしたところをお父さんが奪ったのだ。 「綱吉?」 「お腹に障るから、紫杏はこっち」 急に近くなったお父さんの距離に、体がこわばるが、それをお父さんは髪を撫でてなだめてくれた。それだけでほだされる。 「ええっ、綱吉だけずるい!」 「はいはい。ずるくないずるくない」 「まだ、大丈夫だもん…」 「麻依?」 お母さんが駄々をこねるような口調になったところで、お父さんがお母さんの名前を呼んだ。お母さんはお父さんの顔を見ると瞬時に顔を青くさせ、目をそむけた。 「…ハイ。スイマセンデシタ」 お父さんを見上げると、普段の笑顔でわかればいいよと言っている。リボーンを見たけど、リボーンは素知らぬふりだった。 「で、リボーンなんか用事があったんじゃないのかよ」 「ああ。仕事調査だ」 「…また変なこと初めて…。紫杏まで巻き込むなよ」 「親の仕事を知るのも勉強の一つだぞ」 そのリボーンの言い分に、お父さんは盛大に溜息をついて見せた。お母さんは向かい側で楽しそうに笑っている。 「で、仕事調査だっけ?」 [なんのしゅごしゃ?] 他の人と同じような質問をしたら、てんてんてんと固まるお父さん。それを見たリボーンは、私が書いた言葉を覗き込んでリボーンもどうように固まった。そして、数秒後、二人同時に、吹き出した。 何がそんなにおもしろいのかわからなくて首をかしげていると、さらに笑いだす二人。本当になんなんだ。 「そういや、いってなかったな…。紫杏。ボスは守護者じゃねえんだぞ。ボスを守るのが守護者だ」 ああ、そういうこと。と納得してうなずくと、お父さんはまた頭を撫でてくれた。 そして、そのまま指につけていたボンゴレリングをみせてくれた。 お父さんのは、他の守護者の形状とちがっていた。丸くて、上に『VONGOLA』下に『FAMIGLIA』の文字が浮き彫りにされている。そして、真ん中には青い宝石があって、正六角形につくられていた。 中にボンゴレのエンブレムみたいなものが入っている。王冠のように見えなくもない。。そして、上下の文字の間には、右に青、紫、インディゴ色の名がボソい宝石が。左に、赤黄色緑の宝石が埋まっている。 「俺は大空。全てに染まりつつ全てを飲み込み包容する大空となることが使命だ」 包容する、大空。口の中でその言葉を転がしてみる。 見上げれば、優しく微笑むお父さんがいた。確かに、大空だと思った。包み込んでくれる、安心感はこの人しか出せないものだろう。リボーンとも、お母さんとも違う。 「そして、ファミリーを守るのが俺の役目」 [ふぁみりー] 「そう。ファミリー」 嬉しそうに頭を撫でてくれるお父さん。 その空間が、何よりも優しくて、何よりも嬉しくて、この幸せがずっと続けばいいと思った。 [たいへんなことは?] 「んー、書類整理かな。ほら、見て。この量。紫杏だって嫌になるだろ?」 執務机の上に山積みとなっている書類。今の時代普通ならパソコンとかで書類をつくるものだと思うけど、マフィア間では情報漏えいとかが多いから、全て手作業なんだとか。確かに大変そうだとうなずく。 「よし。じゃあ、今日は遊びに行こうか!」 「ふざけんじゃねえぞツナ。今日中に終わらなかったら、わかってんだろうな」 「そうよ。綱吉」 「……チッ」 すぐに猛反撃を受けるお父さんは、しぶしぶながらまた書類に取り掛かっていったのだった。その様子を、お父さんの膝からお母さんの隣に移動してしばらく見ていた。とても、幸せな空間で、その空間の中で私は気づいたら眠ってしまっていた。 instability…不安定な top/NEXT |