立ち込める曇り空

私の足音が長い廊下に響く。響くといっても、ヒールを履いているわけでもましてや靴すら履いていないからぺたぺたという音がするだけ。
でも、私はヒールのコツコツという音もすきだけど、この裸足特有の音も結構好きだったりする。
たくさんの人がいるときにすれ違ったら足を踏まれそうになってひやひやするんだけどね?


さて、今日もどうしようかと考え中。
とりあえず、リボーンには嫌われていないようだと思っておく。だって、嫌いだったらわざわざ自分が運んだりなんてしないでしょう?ただ単にすぐにどかしたかっただけかもしれないけど、それにしては扱いが丁寧だったから、きっと嫌われていない!と信じよう。


千種さんからもらったショルダーバックの中にスケッチブックとペン、そして鉛筆を入れている。


とりあえず、何か描こうと思った。頭の中がぐちゃぐちゃで精神状態が不安定だ。
だって、考えれば考えるほどわからなくなる。嫌われてないと信じたい。でも、嫌われているのかもしれない。何か嫌われるようなことをしたのかもしれない。


何かに集中していないと泣いてしまいそうだった。こういうことは昔からよくあった。だから、こういうときは絵を描くのが一番だというのはもう分かっている。
声も出ない。私を知っている人もいない。
不安じゃないわけがない。
しかも、ここの人たちはマフィアで、異国の地で、言葉もよくわからない。


でも、ここの人たちは皆優しかった。
最初のうちは、なるべく一人にしないように見かけるたびにはなしかけてくれていることを知っていた。お父さんはリボーンを私の傍にいるようにしてくれたし、お母さんは本当に家族のように接してくれた。


バンッ!


一発の銃声音が廊下に響いた。吃驚して、おもわずしゃがみこむ。頭を抱えて、あたりをうかがうけど、それ以上物音はしなかった。おそるおそる腕を離して廊下の先を見てみれば、どこかの部屋の前に雲雀さんが立っているのが見えた。


あれ?あの部屋ってリボーンの部屋じゃなかったっけ?ということは、今の銃声ってリボーンなのかな?雲雀さんが銃を使うところはみたことないし…。


そろそろと近寄っていけば、雲雀さんがリボーンの部屋の入り口で、中に入らずに話していた。


「へえ?本当にそう思ってるの?」


雲雀さんが私に気づいているのか、気づいていて何も言わないのか、中にいるリボーンに問いかける。それに答えるリボーンの声は小さくて何を言っているのか聞こえなかった。


「まあ、あとは当人同士で話し合えば?」


そういって、私の方をチラっとみる。あ、やっぱり気づいてたんだ。


「ここまで気配に気づかないなんて、相当動揺してたんだ?赤ん坊」


「チッ、さっさと失せやがれ。雲雀」


「そうさせてもらうよ」


久しぶりに聞いたリボーンの声は、低く相当苛立っているようだった。でも、久しぶりに聞いた彼の声は耳に心地よく、胸が高揚した。


雲雀さんはリボーンの部屋から出て行こうとするとき、チラッと私の方へと視線をよこし、ニヤリと口角を歪めた。それは、戦闘を楽しむ時のような笑みで背筋がそそりたつ思いがした。


彼がさっそうと去っていくのを見送った後、部屋をおそるおそるのぞいてみる。


そこには、確かに黒いボルサリーノをかぶった彼がいた。中央におかれているソファーに私の方を背にして座っているリボーン。ボルサリーノの鍔には彼愛用のペットであるレオンがいる。レオンは私の方を見ていて、まるで挨拶をするようにぺろっと舌を出して見せた。


私は、入っていいかわからなくて、とりあえず開いているドアをノックする。


「なんだ」


リボーンは相変わらず低い声で答えた。その声にいらつきは感じられなかったけど、低い声は私を委縮させる。
相変わらずソファーに腰掛け、私の方に背を向けている状態のリボーン。


[はいってもいい?]


とりあえず書いて、示してみるけど、リボーンはこっちを向いていないため私の書いた言葉がわからない。なぜ、こっちを向いてくれないの?私が声を出せないことぐらい知っているくせに。


「用があるならそこで話せ」


[こっち、むいてくれないの?]


書いて、リボーンに見せるも背を向けられているために意味のない言葉となってしまう。私はその書いた紙を破り、床にほおり、あらたなページに文字を書く。


ここで話せと言われたのだ。モールス信号でやってもいいんだけど、あいにくそんなに長い文を打とうとは思わなかった。みられてなくてもいい。とにかく、私はその場所で立ち尽くしたまま文字を書いては見せて、破っては書いて、を繰り返した。


[どうして、さけるの?]


[きらいになった?]


[きらわれることをした?]


[ごめんなさい]


[どうしたら、ゆるしてもらえる?]


[どうしたら、こっちをむいてくれる?]


[りぼーん。こっちをむいて?]


[おはなしをしようよ]


[おねがい]


書いてはリボーンの背中に見せて、それを破り捨てる。床には私が破り捨てた紙が、私を取り囲むようにして散乱していた。その光景を静かにレオンだけが見ていた。


[きらいになったなら、いってくれればいいよ。ママでなれてるから。いってくれたらもうここにこないよ?でていけっていうなら、でていくよ?おとうさんにもきらわれたし]


そう、お父さんにも嫌われてしまって、リボーンにも嫌われて、私は私を大事にしてくれていた人たちとの関係を壊してしまった。きっと、私が何かをしてしまったんだ。


ママのときもそうだ。パパのときもそう。全て私がわるくて、私のせいで壊してしまって、私がいなかったらきっとなんともなかったんだ。


[ごめんなさい]


ペンで書く文字。その文字の上に雫が落ちてきた。その雫のせいで文字が滲む。


ああ、また一人になるのかな?あの家にいたときのように独りになって生活をしなきゃいけないのかな?


[ここに わたしのいばしょはない?]


私はきっとどこにもいてはいけないんだ。どの世界にもいてはいけない存在なんだ。私の存在が不幸を呼んでしまうんだ。


私の手からスケッチブックとペンがすべりおちた。しかし、私にそれを拾うほどの余裕はなく、ゆっくりと後ずさる。足の下で踏まれた紙がクシャリと音を立てた。


リボーンは相変わらずあっちを向いたままだった。手を伸ばしても届かない距離にいる。見た目はこんなにも近いのに、前のように近さは感じなかった。いつのまにこんなにも遠くなってしまったんだ。
まるで、ママのようだ。ママも私が気付いた時にはもう壊れてしまっていた。


あとずさる。


廊下の真ん中あたりまで来たとき、私は耐えきれずに何かに逃げるかのように走りだした。走って走って、すべてから逃げ出してしまいたかった。
私のせいで、私のせいで。
リボーンの背中が私を責めている気がした。


私は走った。走って走って、いつのまにか裸足で庭に出ていた。それでも走って、そしてたどりついたのは噴水の近くにある巨大な木だった。


私はそこに倒れこむようにしてうつ伏せになると、まるで重力に従うようにして溢れ出してきた涙。声をあげることもできずただ、穏やかな日差しの中で私は泣きじゃくっていた。


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あきゅろす。
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