Family is...

はい。とうとうやってきちゃいましたー。なんで、私こんな思いしなきゃいけないんだろう。というか、病院……でかっ!!


でかくないですか!?骸が、ボンゴレお抱えの病院だとは言ってたけど、それにしてもでかすぎでしょう!しかも、中にいるの、明らかに一般人より裏の人の方が多そうなんですけど!!
この光景を見た瞬間、絶対にクロームさんから離れないと、心に誓いました。


だってだって、黒スーツに、顔とか怪我してる人たちだよ?一般人ですって言われたら、本当に吃驚しちゃうよ。


「紫杏、こっち」


クロームさんに促されて、その後ろをついていく。エレベーターに乗って、向かった先は最上階。あのですね、最上階が15階って…。どれだけの人が入院したりしてるんだろう…。


[おとうさんも、いるかな?]


「ボスになにかされても、私が守るから」


そう言って、頭を撫でてくれた。クロームさんは、たぶん一番私の気持ちを敏感に感じ取ってくれている気がする。
なんとなく、雰囲気とかがそう物語っている。


私は、コクン、とひとつうなずいた。ちょうどそのとき、エレベーターのドアが開く。外に出れば、そこは屋敷のお母さんたちの寝室のように、ドアが一つしかなかった。


クロームさんは迷わずそこに進んでいく。そして、扉を2回ノックすれば、中からここ最近聞くことのなかった柔らかい声がした。


「どうぞ?」


「麻依、おみまいに来た」


「クロームちゃん!わざわざありがとう」


「怪我、どう?」


「うん。もう、どうってことないんだけどね。なんか、まだまだ検査があるみたいで、もうまいっちゃう」


「そう」


私は、扉の前で立ち往生していた。開いた隙間から、クロームさんが微笑んだ姿が見える。中に入る勇気がでない。


「今日は、一人で来たの?」


「今日は…」


ああ、でも、元気そうだ。声が、元気そうにしてる。怪我も大丈夫だって言ってた。もう、それだけで。それだけで十分だあ。
それに、お腹に子供もいるらしいし。私が、いたら、きっと迷惑になる。


迷惑になるのは嫌だなあ…。嫌われるのも、避けられるのも嫌だ。そうなるんなら、私が、先に消えちゃえばいいのかな…。


私は、ドアの前から歩き出した。エレベーターに向かって、ゆっくりと歩く。


扉の中で、お母さんは、お腹に軽く手を添えて笑っていた。とても、幸せそうな笑顔だった。
私がここにいちゃダメだ。ここにいたら、私が“家族”を壊してしまう。


私は、エレベーターに乗って下の階に下りた。音もなくエレベーターはすぐに一番下につく。降りてから、ゆっくりとした足取りで私は外に出た。


日差しが熱い。きれいな青空がのぞいていた。もう、壊れる家族なんて見たくない。そんなの、覚えたくない。私のせいで、壊してしまうくらいなら、いっそ私がいなくなってしまえばいい。


消えろ…、消えろ…っ。


消えてしまえッ!!


「紫杏ちゃん」


柔らかい声。


何もかも、消えてしまえばいいと思った世界が、いっきに色を変えて優しく辺りを包み込んだ気がした。


後ろをゆっくりと振り返れば、点滴を腕から付けて病院服をきているお母さんがいた。


私は、一歩、後ずさる。


その距離をつめるように、お母さんが2歩近寄ってきた。
私は遠ざかろうと2歩後ろに下がる。


そうすれば、お母さんは3歩近寄ってくる。もう手を伸ばせば届きそうな位置だ。


私は、振り返って走り出した。いや、走り出そうとした。しかし、その体は、走り出すことはなく温もりに包まれた。


「つかまえた」


フフッ、と笑う声が耳に届く。


ずっと、聞きたかった声だ。本当は、あの扉の前でもかけ出してしまいたかった。その胸に飛び込んでしまいたかった。
優しい温もりに包まれて、子供のように眠ってしまいたかった。なんの心配もせずに、何も考えずに、まるで、本当に子供に戻ったかのように。


「迷子になっちゃうよ?紫杏ちゃん」


私を後ろから抱きしめたまま、優しい声音でそう紡がれた言葉。私は、ただ、首を横に振った。


「私に、会いたくなかった?」


より一層首を横に振る。


「私たちが、嫌いになっちゃった?」


私は、首を横に振り続ける。


「紫杏ちゃん。聞いて?」


私は、ただ、黙って耳を傾けていた。


「私のお腹にね、赤ちゃんがいるの。わかるかな?」


コクン、とうなずく。


「綱吉との、子供よ」


その言葉に、胸の奥が痛んだ気がしたけど、私は首を縦に振る。知ってるよ、お母さん。ちゃんとわかってるよ。


「新しく、家族ができるのよ」


そう言って、お母さんは私をぎゅっと抱きしめた。それは、まるで、私のことも一緒に家族だと言われているような錯覚に堕ちいる。


「まだ、お腹も大きくなってないから、見た目は分からないんだけどね」


私は、また一つコクンとうなずいた。フフッ、と微笑んだお母さんは本当に幸せそうで、眩しかった。ママにも、こんな時があったのだろうか?私が、お腹にいて、こんな風に喜んでくれましたか?


お母さんは、私を離すと、向かい合わせになった。そして、私の小さくなった手をとって、そっと自分のお腹に添えた。服越しに、お母さんのお腹に触れる。そこは、まだ膨らんでこそいないけれど、確かに新しい命がいるところなのだ。


「ここに、あなたの弟妹(きょうだい)がいるのよ」


私は、反射的にお母さんを見上げた。お母さんは声のとおりに、優しく微笑んでいた。久しぶりにみたお母さんは、あのコンクリートの壁に寄りかかって青くなっていた彼女とは別人のように、血色がよくなっている。


腕からは、点滴が伸びて、薬がゆっくりと体へと入っていっていた。


「生まれるのは、12月ごろかな?楽しみね」


そういって、また笑うから、私は俯いた。目の奥が熱くなってくる。ああ、泣いているんだ、と気付いたのはお母さんに抱き寄せられてからだった。首に腕をまわして、肩に顔を埋める。そうすれば、少し薬品臭いお母さんの匂いがした。


「紫杏ちゃんも、このお腹の子も、私の大事な子よ?」


きっと、声が出せたら、場所なんて気にせずに大声をあげて泣いていたと思う。ずっと、不安だった。私の居場所がなくなるんじゃないか。嫉妬さえしていた。新しく生まれてくる子にはなんの罪もないのに、生まれてこなければいいのに、なんて思いもした。そんな自分が嫌だった。


家族が壊れるとか、そういう気持ちもあったけど、きっと嫉妬の方が強かったと思う。


私の居場所を盗られたようで、嫌だった。


「できれば、紫杏ちゃんにもこの子のこと祝ってほしいんだけどな?」


悪戯っぽくそう言われて、私は思わず笑ってしまった。そして、スケッチブックに一言、つづる。




[おめでとう!!]


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