「空!?」 空の部屋から彼女が飛び出してきた。 「風!見てこれ、見て見て見て!!消えた!皆、ツナも雲雀さんも、リボーンも皆消えちゃったよ!」 「うん。今、見た。たぶん、彼らがここに来ちゃったからだろうね。って言っても、マンガ自体は消えてないから、たぶん元の世界に帰れば戻るとは思うんだけど…」 「おい、どういうことだよ!」 「空説明よろしく」 「え、めんどくさ!」 「私もめんどくさい」 「しょうがないなあ。えっとね、簡単に言うと、2人はREBОRNのマンガ、あ、これね」 空は私が手に持っていたマンガを2人に渡した。2人は再びそれを手にとって表紙に写っている自分たち(10年後)の絵をまじまじと見つめた。 まるで、今からその絵が動き出すかのように。 「これの中の人たちなの。で、ここは俗に言う異世界ってやつで次元が違う。なんで来ちゃったかは分かんないけど、逆トリップしちゃったわけ」 「2人にしたらトリップだろうけどね」 あまり納得したようには見えないけど、とりあえずは理解したようだった。 「で、空?部屋の掃除終わったの?」 「あ…」 「頑張ってね」 「…はーい」 がっくりとうなだれながら空が部屋へ戻って行ったのを見て、私は椅子に座った。 2人はしばらくほっておくことにする。とりあえず今日は、ね。いろいろあって大変だろうから。 「とりあえず、いろいろと納得できてないだろうけど、ここではマフィアなんて日本だからいないし、もちろん銃刀法違反はある。他はたいして変わらない…と思う。帰れるまではここにいればいいわ」 「お、おお」 獄寺隼人に睨まれながらも私は携帯を取り出して友達数人を選んで全メをする。 「何してんだよ」 「何って、メール。…携帯の文化はあるよね?」 ちょっと不安になって聞いただけなのに思いっきり睨まれた。誤解されたようだけど、馬鹿にしたわけじゃないんだけどな。だって、次元が違ったら文明の発達が違うのかと…。 メールの内容は短いものだったから、すぐに打つことができて皆に送信した。 そして、早い人は5分もしないうちに返信が来た。その内容は予想内だったから私はあまり驚かなかった。 「やっぱりか…」 「なにがだよ」 「えっと、今友達にREBОRNを知ってるか聞いただけだよ。やっぱり知らないね。皆の記憶から消されてる」 「は!?意味分かんねえぞ!」 「つまり、このマンガ結構有名なんだけど、皆知らないことになってる。だって、キャラが実際にいたら皆凄いことになるよ。大騒ぎになって、もみくちゃにされて…」 どっちにしても2人とも美形だから大変だろうけど。 「終わったよ!」 「お疲れ様」 「うん…疲れた…」 ぐったりした空が帰ってきたところで、時間を見ればもう10時を回っていた。 明日は土日だからゆっくり休めるはずだけど。 「とりあえず、2人とも疲れただろうからもう休めば?頭の中、整理しなきゃいけないだろうし。明日は休日だから生活の必需品でも買いにいこ?空も、それでいいよね」 「うん、いいよ」 そのあとは、2人を空が部屋に案内して絶対に物を触るな。なと警告してから私の部屋に来た。 持ってきてもらった二組の布団は一組ずつ部屋にひいて、あっちはどっちがベッドで寝るかぐらい自分らで決めるでしょ。こっちは、私の部屋だから私がベッドだけど。 布団に入り、おやすみと言ってから電気を消した。 「空、起きてる?」 「ん?」 暗闇の中でだんだんと慣れてきた眼がもぞもぞと動く影を捕らえた。 「明日から大変だね」 「うん」 「でも、絶対楽しくなると思わない?」 空は答える代りに軽く笑ってこの話は打ち切られた。それによって私は考えを巡らせていた。 夢小説なら、これで恋に落ちてしまうんだ。でも、彼らには帰る場所があって、帰らなきゃいけない。もともと、そこまで心を簡単に許せるわけじゃないけど、気をつけないといけないかな。 でも、仲良くはなりたいな。…矛盾してるな、自分。 でも、楽しまなきゃ損だよね。 私はこれからのことを考えつつも、眠気に誘われて瞼を閉じた。 *** 案内された部屋に入る際に、この部屋の主である女から物は触るなと忠告を受けた。 そして、部屋に入ってみれば、女らしいと言えば女らしい部屋だな。布団が1組にベッドがあるってことは、どっちかはベッドで寝ろということか。 「獄寺、どっちで寝る?」 「あ?」 「布団とベッド」 山本が指をさす方に再度目を向けて、眉間にしわを寄せる。 「寝るわけねーだろ。こんなわけわかんねー状況で」 だいたい、マンガの中の人間だとか言われて信じられる奴がどこにいんだよ。俺たちのいたところと変わんねーし。敵が俺らを捕らえたって考えるのが妥当だろ。女だからって油断しねーぞ。 物に触るなと言われたが、敵の部屋と思われるところで探りを入れないわけがない。部屋にあったぬいぐるみなどを手に取りながらも調べていく俺に、苦笑しながらも山本も加わった。 「でも、アイツらが嘘ついてるようには見えなかったぜ?」 「てめえは甘いんだよ」 持っていたぬいぐるみを先ほどあった場所に丁寧に戻しておく。調べたという形跡はあっちが敵でもそうでないにしてもない方がいい。 ある程度調べ終わるが、特に変わったものは何もなかった。とりあえず盗聴などの心配はないらしい。 とりあえず落ち着いたから、ズボンのポケットに手を伸ばすが、そこでさっきのことを思い出す。 さっきも弄ったのだが、ポケットの中には何もなく、いつも入れているはずの煙草をどうやら今日は忘れてきてしまったらしかったのだ。 煙草がないことに小さく舌打ちをしつつ、さっきから動きのない山本に目をやる。山本は何かを考え込むかのようにある一点を見て固まっていたが、ゆっくりと振り向いて俺の名前を呼んだ。 「普通さ、他人をとめるために布団敷いたり、部屋片付けたりしねえんじゃねえの?」 「だから、それが甘いつってんだよ!野球バカ!」 だいたい、見ず知らずの他人を、しかも女2人にも関わらず、男を泊める時点でおかしいだろ。何か裏があるに決まってる。 「でもさ、休まねえと体持たないぜ」 「じゃあ、先に休めばいいじゃねえか」 「んじゃ、寝るわ」 山本は俺の言葉にそそくさと敷かれていた布団の中に入って動かなくなった。内心舌打ちしながらも、結局俺がベッドかよと思いつつ、ベッドのふちに腰掛ける。少し体が沈み、布団にしわができた 「おい、山本」 「ん?」 俺に背を向けて布団に入っている山本を呼べば、すぐに返ってきた返事。起きてたのかよ。 「あいつらが言ってたこと本当だと思うか?」 「…俺は、嘘ついているようには思えなかった」 「そうか」 「なあ、帰れると思うか?」 「はあ!?当たり前だろ。俺は十代目の右腕だ。何がなんでも帰らなきゃいけねえんだよ」 「ハハ、そうだな」 そう、俺たちは帰らなきゃいけねえんだ。十代目をお守りしなきゃいけねえのに、こんなわけ分かんねえところにいつまでもいれるわけがねえ。 「帰らなきゃいけねえんだよ。俺たちは。守護者だからな」 そう呟いたところで部屋がノックされた。 「あの…、いい?ちょっと、取りたいものがあって」 「ああ、いいぜ!」 山本が返事をすると、ドアをそっと開けて入ってきたのはこの部屋の主である女だった。 「ちょっと、携帯を…。あ、あった、あった。じゃあね、おやすみ」 「おう、おやすみ」 手を振って部屋から出ていく女に山本はいつもの笑顔で答えている。くだらねえ。 「あ、早く寝た方がいいよ?もう、1時回ってる。ってことでおやすみ」 一度出て行った女は出かけた所にもう一度戻ってきて、おせっかいなことを言うと出て行った 「なんだ、あいつ」 「ハハ、良い奴じゃねえか。ってことで、俺もう寝るわ。お前も早く寝ろよ。あ、電気消していいか?」 「あ?勝手にしろ」 「じゃ、おやすみ」 山本は、電気を消すと布団の中へもぐって行った。そして、5分もしないうちに寝息が聞こえ始めていた。よく知らない場所で寝れるな、こいつ。 自分の体も睡眠を欲しがっているのは確かだった。今日は、精神的にかなり疲れた1日だ。まだ、混乱している頭をよそに、俺はあてがわれたベッドに寝転がった。 考えるのは、向こうの世界にいる十代目のこと。心配していらっしゃるかもしれない。そう考えると、いたたまれない気持ちになって、はやく帰らなければと思う。 そう考えながらも体は正直で、警戒しながらも瞼が落ちていくのには逆らえず、浅い眠りについた。 |