マンガが自分の映し鏡

リビングに、コップを置いた音が響いた。


「―ってことだと思う」


私と山本武でなんとか2人をなだめ、机に座らせて今の状況だと思われることを説明した。


空は夕飯を食べることを再開させ、たまに私の説明に補足を加えながら話し終わる頃には完食させ、ごちそうさまと言って一息ついた。ついでに、私はまだ食べれてない。…お腹すいた。


説明を眉間にしわを寄せながらも一応聞いてくれた獄寺隼人。いつになく真剣に話を聞く、真顔の山本武。


私が話したことは、彼らがいた世界とは次元が違うことと、私たちが2人のことを知っていること。マフィアとは関係のないことを話した。


「帰る」


「話聞いてなかったの?今、廊下でてわかったでしょ。ここはツナの家じゃないし、帰り方も今のところわからない。帰れるんだったら、もう、とっくに帰ってるでしょ」


立ち上がってドアへ歩み寄った獄寺に静かに言葉を投げかける。少し、キツイかもしれないけど、これくらい言わなきゃわからないはずだ。


私の言葉に眉間のしわをさらに深くさせ、睨みを利かせてくる。でも、事実なのだから、睨まれても私にはどうしようもない。


空がキッチンへ食器をかたずけに行き戻ってくると、椅子に座りながら山本武に目を向けた。


「ねえ、たけちゃん。今何歳?」


「ん?17だぜ?(たけちゃんって…」


「17ってことは、あたしたちと一緒かー」


「何和んでんだよ!野球バカ!帰るぞ!」


「だから、帰れないって言ってたじゃん。…しょうがないから、今日泊めてあげるよ」


「はあ?」


「サンキューな」


「おい、何勝手に―…」


「別にいいじゃねえか。どうせ寝る場所ないんだし」


「布団どうするのよ」


そんな私の突っ込みに、空は携帯を取り出してどこかに電話をかけた。たぶん、家なんだろうな。


「あ、もしもし?布団2組持ってきて。今すぐ!」


「はあ?何勝手に言って!」


「じゃあよろしくー!」


空は電話を切って満面の笑みを浮かべてこの一言。


「これでОK!」




***

ピンポーン──…。


部屋に、おなじみのチャイム音が鳴り響いた。それに素早く反応して、玄関へと向かうあたし。


「布団届いたー」


「じゃあ、どこに敷く?」


空のその言葉にリビングを見渡すと、そこはあたしたちが学校から持って帰ってきた教科書や、課題などなどが散らかっていた。


夏休みが始まるので出された課題とかそのために必要な教科書とかを持って帰ってきてはここに置いていたら悲惨なことになった。


それは、床を占領していてその光景に苦笑を洩らす。


「こりゃ、ダメだね」


「俺たちは別にどこでもいいぜ?」


「じゃあ、どっちかの部屋で寝る?」


「あたしの部屋やだ!」


すかさずに風の言った言葉に反論する。あたしの部屋に他人入れるなんて絶対嫌だ!


「…私も嫌だな」


風が呟き、2人で睨みあう。しばらく沈黙が続く中、2人の開いていた手は拳を作りゆっくりと近寄った。


それを、隼人とたけちゃんが何事かと見守っているのを視界に入れながら風と向かい合う。


静かな時が流れる中、発した声は同時だった。


「「じゃんけんポン!!」」


あたし→パー
風→パー


「「あいこでしょ!」」


あたし→グー
風→パー


「負けた―!」


「やった!勝った!ってことで空の部屋決定ね」


「うっ…。部屋汚いから片付けてくる…」


「いってらっしゃい」


風の言葉を背に受けつつ、自分が出したものに後悔の嵐。


グーじゃなくてチョキにしてればよかった…。あー、めんどくさい。初めて会った人(あたしにとって初めてじゃないけど)を部屋に上げるなんて…。


じゃんけんで決まったことなので大した文句も言えず愚痴をこぼしながらも自分の部屋へ行き散らかっている物や見られたくないものをどんどん仕舞っていく。もうほとんど自棄だ。


「あ、REBОRNのマンガ。…これも片付けないといけないよね。見られたら、さすがに、ね」


とはいいつつも、欲求に負けられずに押入れに仕舞っていく手を一旦休めてREBОRNを一冊手に取る。


「最初の方見るの久しぶりだな」


片付けないといけないということを頭の隅に追いやって、ちょっと休憩という名目をつけてベッドに横になりREBОRNを開く。


そして、中を見てあたしは驚愕のあまり叫び声をあげてしまった。


「ああーー!!」




***

「いってらっしゃい」


私は、部屋へと愚痴を言いながら向かう空を見送った後、今の事態が呑み込めない2人。


「よし、これで寝る場所は決まったことだし、夜ごはんの続きしよっと。あ、そっちも食べる?お腹すいてる?」


「え、いや、というか、夜なのか?」


「?そうだよ」


「俺らのとこ、昼だったんだわ。それで午後からツナんちで課題をやろうとしてたらここに来たんだ」


山本武は右手で頭の後ろを掻きながら苦笑した。一応同じ日本のはずなのに、なんだろう。その微妙な時間差。


「あー、じゃあお腹すいてないんだ。時差ボケみたいなものか。うん」


とりあえず一人で納得しつつ、私はお腹がすいているので晩御飯の続きをする。


2人は終始無言ですごい気まずい雰囲気を醸し出している中、空の部屋からは片付けの音と思われるガタン、ドスンという音が聞こえてきていた。


「えっと、2人がどうやってこっち来たか聞いていい?」


この雰囲気に耐えきれなくて私は口火を切った。しかし、獄寺隼人は睨んでくるだけで話そうとしないので山本武が答えてくれた。


「俺ら、さっきも言ったとおり、ツナの家に行って、リビングのドアを開けたらここにいたんだ」


「ツナは一緒じゃなかったの?」


やっと食べ終われたから流しに置いてきて椅子に座ると山本武がさっきの答えを言ってくれた。


「ツナは2階に行って先にリビングに通されたんだ」


獄寺はズボンのポケットへ手をのばし、上からポケットを触った後小さく舌打ちをした。


ツナも一緒だったら…。この2人って犬猿の仲みないな感じだからまとめ役が必要なのに。というか、あの人こそ、来るべきだよ。マジで。一番常識通じそうなのに。


そんなこと考えていたら、獄寺隼人が私を睨むのをやめてある一点を凝視しているのに気がついた。それをたどっていくと、先ほどまで空が読んでいたREBОRNの漫画が。


しかも、その表紙が最悪なことに10年後の彼らだったりするから、私は一気に冷や汗をかいた。2人にはマンガのことは言ってない。というか、説明するのが面倒だった。


「おい、それって…」


獄寺隼人が言葉を発した瞬間に私はそれを隠した。


「あ!お前!」


「これは、なんでもない!なんでもないから!!」


マンガを自分の後ろに隠して、我ながら何かありますと言っている様でしかないけど、しょうがないでしょ!ごまかす言葉なんてとっさに思いつくほど頭良くないから!


「おい!山本!」


「悪いな」


獄寺隼人の言葉に後ろを振り向けば、いつの間にか山本武がいて後ろ手に持っていたマンガを易々ととられてしまった。


さすがマフィアというか…。気配なかった。というか、いつ立ったのかすら気付かなかった。


2人がマンガの表紙を凝視した後、背表紙を見て二人で顔を見合わせ、中を開いた。


「?なんも書いてねえじゃねえか。何だこれ」


「でも、この表紙って俺たちみたいじゃね?」


2人は説明を求めるように、私の方を向いた。いや、説明しろと目で要求されても困るから。


というか、聞き捨てならない言葉がなかったか?何も書いてない?


「ちょ、ちょっと、それ貸して!」


山本武からマンガをひったくり、中を開く。するとそこには、10年後に言ったはずのツナたちが描かれているはずが、それすらもなくただ真っ白な紙と化していた。


これ約500円もするんだよ?それなのに真っ白って…。しかも、私まだ読んでないのに!続き気になるのに!


「なんで…消えた?」


呟いたところで、思いつくことが1つ。それは、今、目の前で疑問だらけだという表情をしている2人。この2人が来たからきっと消えてしまった。そう考えるのが一番無難かな。


─「ああーー!!」


突如、空の悲鳴が聞こえてきた。


「空!?」


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あきゅろす。
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