成就するアダム

隼人には何も言わずに部屋を出た。だって、今何か話せるほどあたしに余裕があるわけじゃないし…。風が大丈夫って言ってたんだし、大丈夫だよね…。


だんだんと日が沈んでいく中、あたしは駅で先輩と待ち合わせしているため、そこに向かっていた。


「空ちゃん!こっち、こっち」


「先輩っ!すいません、遅れちゃいましたか?」


「ううん。全然。時間的には少し早いよ」


「へ?」


言われて、時計を見てみれば、確かに待ち合わせ時間の5分前だった。先輩いつからここにいたの??


「せ、先輩いつから待ってたんですか…」


「んー?秘密」


クスっと笑った先輩を前に、告白の返事のこともあってか顔に熱が集まるのを感じた。なんだか恥ずかしくなって顔を俯かせていると、先輩はあたしの腕をひっぱった。


「ほら、行くよ」


そして、先輩はそのままホームへと入っていった。


そして、今、電車に揺られています。


「先輩?そういえばどこ行くんですか?」


「ついてからのお楽しみ」


「えー、教えてくれてもいいじゃないですか」


ふてくされてみれば、先輩は頭をなでるだけで、それ以上答えようとはしなかった。先輩がいつも通りの雰囲気でいてくれるから、あたしも今普通に接することができるけど、実際心臓の方は結構やばい。


あーあ、はやくつかないかな…。


「次で降りるよ」


「はーい」


先輩に連れられるまま電車を降りる。電車を降りれば、もう外は真っ暗で今日は夜空に雲もあまりなくて星がきれいに見えた。


「行こう」


そのまま先輩についていけば、いつのまにか河原に出た。そして、そこには淡い小さな光がたくさんあった。


「先輩、これ…」


「パンフレットに載っててね。あっちじゃ見れないからさ。…きれいだろう?ホタル」


そう、目の前にはたくさんのホタル。いまどきこんなにもたくさんホタルがいるなんて珍しい。あたしたちの住んでいる近くにある川にも前にはたくさんのホタルが見れたけど、今じゃ全然。


「わあー!!先輩、すごい!すっごい、きれい…」


「クスクス、転ぶよ?」


「転びませんよ!」


笑う先輩に顔に熱が集まるのを感じて、フイっと顔を逸らす。そこに見えるのは川の水の上を飛び回るホタルの光で、川のせせらぎを聞きながら、なんだか、不思議な感覚におちいる。


「空ちゃん」


不意に、横にきた先輩は、あたしの手を取った。


不思議に思って先輩の顔を見上げると、その後ろに見える満点の星がきれいで、壮大でなんだか呆けてしまった。


「返事、聞かせてもらってもいいかな?」


星にあっけにとられていたあたしはその言葉にすぐに頭が回転しなくて、先輩に言おうと思っていた言葉がなかなか口から紡ぎだせないで、あたふたとしていた。


先輩の目は、あの夏祭りのときと同じ真剣な瞳で、頭の芯まで麻痺したような感覚になる。


「あ、あたしは…」


少し目線をそらせながら今日考えていた言葉を頑張って紡ぎ出す。なかなか言い出せないあたしにしびれを切らしたのか、言い出しやすいように言ってくれたのか、先輩が先に口を開いた。


「俺は、空ちゃんのことが、好きだよ」


「あたしも、先輩のことが好きです!」


言った…。言ったよ…。なんともいえない達成感のようなものと、ちょっとした焦燥感のようなもの、それに今まで抱えていた想いを伝えたことへの恥ずかしさが入り混じってなんだか、先輩の顔が見れないでいた。


「クス、空ちゃん顔真っ赤」


「なっ―――!」


「なんてね。暗いから見えないよ」


けろっとして言ってのける先輩。


「な、なんですかそれっ!//」


しかも、実際に顔に熱が集まっているのは事実だし、絶対顔が赤くなってる。


「ごめんごめん。空ちゃんがそう言ってくれてうれしい」


「う…、えええっと、あの…その…//」


からかったと思ったら急に真面目にそういうから、恥ずかしくなって、今にも顔から火が出そうだった。


「ハア、でも、よかった。実はこれでもすっごく緊張してたんだ」


「先輩でも緊張するんですか…」


「そりゃあ、好きな子に告白するんだからね」


ちょっと嫌味を込めた言葉でいえばそんな風に返されてしまったから、おさまってきた顔の熱は再び顔に集まってきてしまった。


そのあともいろいろとからかわれたりしながら、ホタルを堪能してから帰路についた。






先輩が家まで送ってくれるというのでそれに甘えてマンションの前まで送ってもらった。


「もう、ここで大丈夫です!送ってくれてありがとうございました」


「ねえ、空ちゃん。今度さ、夏休み中に海に行かない?」


「海ですか!?」


わあ!海、行きたいっ!って、もしかして先輩と2人っきり?無理っ。それは、絶対に無理!恥ずかしくて死んじゃいそう!


そんな様子を察したのか、先輩は苦笑しながら、皆とという言葉を付け加えた。


「風とかも誘っていいんですか?」


「うん。あ、でもそうなったら獄寺君や山本君も来るかな?じゃあ、きっと匠も行くだろうし…」


「すごい、大人数になりますね…」


だって、あたしらでもう5人でしょ?それに匠君も入るから6人って…。プチ旅行だね!


「じゃあ、日程とかはまた連絡するから、彼らにも伝えといてね」


「はい!今日は、楽しかったです!」


「それじゃあ、ね」


先輩のことを見送ってから、あたしはエレベーターで階へと上がっていった。






(あ、おかえり。どうだった?)
(うん!あのね、皆で今度海行こうってなった!)
(お、海か!楽しみだな!)


((まあ、上手くいったみたい、ね。あとは、…あそこで拗ねてる獄寺だけか…))
(あ?なんだよ人の顔じろじろ見て)
(…いえいえ。なんでも)
(?)

((ま、なんとかなるか。成り行きで←))


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あきゅろす。
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