「やってきました!おんせんりょかーん!」 ババン、と目の前に鎮座する旅館を前にテンションがあがっているあたし。ようやく学園祭のアイス合戦で勝ち取ったペア券を使うときがきましたよ。 お母さんにも同居がバレちゃって、公認になっちゃったから、もう色々スッキリ! 隣では仏頂面の隼人と楽しげに旅館を見上げるたけちゃん、そしてやっと辿り着いたと息をついている風がいる。 実は駅からここまで送迎車だったのだけど、かなり曲がりくねった山道を登ってきたせいで途中から風が車酔いしちゃったりと大変だったのだ。 でも、それもこの旅館を目にすると吹っ飛ぶよね! ということで案内された部屋は、和室の机がある部屋と、その奥にベッドルームと布団を敷ける寝室に分かれているようだ。 「お部屋どっちにするー?」 「ベッドと布団か?俺はどっちでもいいぜ?」 「私もどっちでもいい」 「寝れりゃ同じだろ」 「ええっそれじゃ決まんないじゃん!」 「じゃあ勝った方がベッドね」 「わかった!」 ということで風とじゃんけんをした結果、あたしと隼人がベッドに決まった。 「じゃあさっそく!温泉に行こう!」 「楽しみね」 「露天風呂もあるんだって!全部入ろ!」 「砂風呂もあるんみたいよ」 「砂風呂って、砂に埋まるやつ?ええーそれはちょっと……」 「そう?」 楽しみなあたしたちの後ろからついてくるような形で隼人とたけちゃん。明らかにテンションがあがっているあたしたちとは違って、それを見守る保護者みたいになっている。 お風呂の前で男子二人と別れ、温泉へ入った。久しぶりに来た温泉はとても気持ちよくって。特に露天風呂は冷たい空気が吹き抜ける中、暖かい温泉の中へ入れば、ここ最近の心労とかも全部溶けていってしまいそうだ。 「あー、きもちいねー」 「そうね。ここは当たりだったわね」 「ね!」 その時、大学生ぐらいの女子四人がきゃっきゃとはしゃぎながら入ってきた。 「ね、隣男風呂かな?たけちゃんと隼人、仲良くしてるといいけどね」 くすくすと笑いながらいうあたしに、風が本当よねと返そうとしたときだった。 『ばっっっかじゃねえのか!んなわけねえだろ!』 思わず見合わせた顔。露天風呂にいた誰もが驚きに目を見開き、男風呂のほうを見上げる。 ざわつく露天風呂内で頭を抱えたのはあたしだ。 「お宅の彼氏さん、随分元気ですね」 「……すみません」 遠い目をする風が他人行儀にいう。それにあたしは体を縮ませるばかりだ。 「まったく。露天風呂に入ってまで何をやってるんだか」 「うぅ〜、本当だよ〜……。恥ずかしい」 しかし、次に聞こえたやりとりに今度は二人揃って頭を抱えることになる。 『だああ!うっせえんだよ!駄々漏れてんだよ!ちょっとは自重しろ!』 『しょうがねえだろ。風はもとから可愛かったけどな。最近ますます可愛いんだぜ、風』 隼人がついにキレたらしい。それに合わせるようにたけちゃんの声も徐々に大きくなってきている。こっちにダダ漏れなのわかってないのかな、あの二人は! 『風、風、風、風!!てめえはそれしか言えねえのか!お前が言うほどあいつに可愛げなんてねえだろ!』 『お!それなら獄寺だっていつも空、空 って言ってんだろ。それに風は可愛いぜ。でもそれは俺の前だけで見せるんだ。それがまた可愛いんだろ』 『はあ!?空の方がかゎ……ぃいわ!』 『はっきり言えねえんじゃなあ。確かに空も可愛いとは思うけどよ、絶対に風の方がかわいいだろ?』 『チッ、てめえとはつくづくソリが合わねえとは思ってたが、今日という今日は白黒はっきりつけてやる。勝負しろ!』 『望むところだぜ!』 そして囃し立てる野太い声。女子たちは誰かわからない彼女の話にクスクスと笑っている。 対してあたしたちは居た堪れなさにどうにかなりそうだった。 「……おたくのカレシさん、風のことかわいいって」 「お宅の彼氏さんは随分恥ずかしがり屋ね」 「隼人は二人っきりのときはそれなりにスキンシップしてくれるもん」 「本当に隼人くんは空一筋ね。恥ずかしいぐらいに」 「それ、そっくりそのまま返すよ風」 お互いに黙り込んだ。 あちらではなぜかサウナ勝負をする運びになったらしく男たちの大きな声が遠ざかっていく。 「あがるわ」 「うん、そうだね」 二人して湯あたりではない原因で顔も体も赤くさせながら温泉を出た。 もう絶対に隼人が戻ってきたら文句言ってやるんだから! (隼人!全部隣まで聞こえてたんだからね!?すっごい恥ずかしかったんだから!) (なっ、き、聞こえてっ!?) (当たり前でしょ!すぐ隣だったんだし!) (あれは、野球バカがっ!) (恥ずかしすぎてもうここにこれない〜っ!!) |