風の相手はよく知った人
いまだに電子音を鳴らしてくる携帯にため息をつきながら部屋に入り、念のため鍵を閉めてから通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『お、やっと出た!』
受話器から聞こえてきたのは、ディスプレイにも表示されていた通りの聞きなれた幼馴染の声。
「で、何?」
『俺、今日初回から投げるんだぜ!だから、応援に来てくれよ。絶対に三振とってやるから』
「へえ、すごいね!でも、私今日弓道あるからいけないわよ」
適当に相槌を打ちつつも、この部屋でできる準備を片手で進めていく。というか、今それどころじゃない客も来てるし、どっちにしても無理だね。
『そんなもん休めよ』
「無理言わないでよ。休んだら、それこそ怒られちゃう。先生、怒ると怖いんだから」
『チッ!じゃあ、途中からでもいいから!な?』
「うーん、行きたいのは山々なんだけどね?」
あの人らが来てなかったら、終わってから行くんだけど…、今あの2人のもとに空一人置いていくのはかなり心配だし、連れていくことはどっちにしろできないし…。
「やっぱり、ごめん!今日はいけないや。でも、応援してるから、頑張れ。それで、後で報告してね」
『お前が来たら、絶対に取れると思ってたんだけどな…』
「何?じゃあ、三振とれる自信ない?」
拗ねた口調になった彼に少し挑発的な言葉を投げかけてみる。あとで、私のせいで負けたとか言われたら嫌だし、やる気出してもらわなきゃ。
『まさか!とれるに決まってるだろ!』
「そ、じゃあ、頑張ってね」
やる気を出してくれた彼にエールを送りつつ、会話を閉めようとする。
「じゃあ、私はこっちで応援してるからがん―」
「うっせえなっ!!」
『え?』
壁越しに聞こえてきたのは獄寺の声で、その声が聞こえたのか電話越しで疑問符を浮かべている声が聞こえてくる。どうやって誤魔化そうか考えつつ、溜息をひとつ。
「ごめん、ちょっと待ってって」
あっちが何か言う前に、耳から電話を話して、受話器口を抑えて鍵を開ける。
「隼人!」
ドアに手をかけると同時に聞こえてきた空の大声に2度目の溜息が出た。あー、めんどくさそう。
心の中で愚痴をこぼしつつも、これ以上電話越しの彼を待たせるわけにもいかず、もういちど耳に当てる。
「ごめん。ちょっと、問題発生。とにかく私はこっちで応援してるから、頑張ってね!報告よろしく!じゃあね」
相手が何か言う前に電話を切って、部屋を出た。

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