あたしは、部屋に誰も入ってこないように鍵をかけて、ベッドの上に倒れこみ、少し震える手で通話ボタンを押した。 「も、もしもし…」 < 『もしもし?空ちゃん?よかった。起きてたんだ。まだ、寝てるかと思ったよ』 受話器から聞こえてきたのは、学校が一緒の南先輩で、ハイテンションになるのを悟られないように抑えながら声を出す。 いつものような皮肉じみたことを言ってくる先輩にあたしも、いつものように聞き流して電話の主旨を聞き出す。 『今日の組手の相手って、もう決まってる?』 「え?…今日って練習ありましたっけ?」 『あれ?この前言わなかったっけ?来週、師範に予定が入ったから、今日に変わったんだよ』 「えー!!聞いてないですよ!言ってません!」 『そっか。ごめんね?じゃあ、今から迎えに行こうか?』 「え!」 先輩が迎えに来てくれるの!?すっごい嬉しい!!って、ちょっと待って?今、家には風だけじゃないじゃん。 「う、嬉しいですけど、全然準備してないんで先に行っててください!」 『そっか。じゃあ…』 「うっせえなっ!!」 先輩の言葉を遮るように聞こえてきたのは隼人の怒鳴り声で、あたしは冷や汗を流した。き、聞こえてたらまずいっ! 『ん?どうかしたの?』 「い、え、え…い、今従兄弟が遊びに来てて…えっと、その…」 『そう?じゃあ、今日休む?』 「いえ、行きます!先輩に会いたいんで絶対に行きます!!」 『クスッ、じゃあ道場で』 「はい!」 耳から電話を離し、溜息をつきながら顔に集まってきていた熱を冷ます。あたし、何口走ってんの!?これも、あれも、全部隼人のせいなんだから! むかむかしてきた思いをぶつけるように部屋の鍵をあけ、思いっきりドアを押す。 「隼人!」 |